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修学旅行の教育的価値を問い直す

12面記事

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3つの観点から見た教育旅行の特性と観光教育の学び「地理認識の教育学―探検・地理区から防災・観光まで―」寺本潔著(帝国書院)より抜粋

寺本 潔 玉川大学教育学部教授

 今回のコロナ禍では修学旅行の中止を余儀なくされた学校があるとともに、「思い出づくりだけの修学旅行ならいらない」という否定的な声もある。こうした中、修学旅行のもたらす教育的価値や教育効果を問い直すチャンスと唱えるのが、地理教育論や観光教育に精通する寺本潔教授だ。

探究の場として活用しやすい
 新学習指導要領で最も注目すべきことは、「持続可能な社会の創り手の育成」が明記されたことです。また、その資質・能力を育む「探究型学習」が重視されたことによって、中学・高校では修学旅行を実践の場として活用する機運が高まっています。特に高校は「総合的な探究の時間」に変更されたことで、これまで補習授業に充てるなどしていた学校も真剣に向き合わざるを得なくなっています。
 私自身も、感染リスクを避ける手立てを講じつつも、修学旅行こそ「主体的・対話的で深い学び」がリアルに実現できる機会と捉え、複数の教科や領域と横断的に関連付ける実践にするべきだと考えています。
 探究型学習は知識や技能の習得ではなく、それを問う力を磨いていくことが最大の特色です。しかし、中学・高校は教科担任制であるため、横断的なテーマはどうも苦手。そんな先生たちが力を合わせ、生徒の学力を伸ばす場として運用しやすいのが修学旅行といえるのではないでしょうか。

学びを深める観光教育の視点
 一方、コロナで大打撃を受けている観光業や観光地にとって、修学旅行の再開は希望の光です。とはいえ、誘致する側も観光資源を見せるだけでなく、こうした学校のニーズを取り入れ、相手目線に立って地域の魅力の価値を高めていくことが必要になっています。たとえば、北海道のニセコ町はSDGsを前面に打ち出した修学旅行誘致に動き出しているなど、今後は優れた修学旅行教育プログラムを持つ自治体が選ばれる時代を迎えることになるでしょう。
 また、佐渡の小中学校では「佐渡学」という地域学習を展開し、その題材に「佐渡の観光」や教育旅行先である会津若松市との比較研究も盛り込んでいます。国の政策として観光振興が重要性を増す中で、このような観光教育の視点も取り入れていくことが修学旅行の質を高める上でも望まれます。(上表参照)

修学旅行の質的な発展・成熟に期待
 修学旅行を探究型学習に変えるには、現地での体験が事前学習を検証する場になるとともに、事後学習での深い学びにつなげる体系的な指導計画を用意する必要があります。以前は事前学習といえば、旅のしおりを作る程度でした。しかし、これからは京都へ修学旅行に行くなら、「千年以上も脈々と伝統文化が受け継がれてきたのはなぜか」「外国人旅行者が押し寄せている本当の理由は何か」といったような問いを持って下調べをしてほしいと思います。
 加えて、現地で観光する定番スポットも自分たちの問題意識と絡めることが大切で、それには疑問を投げかける教員の役割が大事になります。したがって、私が監修した修学旅行先でSDGs学習ができる地図教材「SDGs探究マップ」(第1弾=沖縄、第2弾=京都・奈良)でも、各教科に紐づいた横断的なテーマを教員用の解説書として載せています。
 SDGsにある17の目標は教科横断的な学習と関連付けやすいものが多く、教員も自分の専門領域の中で問題意識を感じているものが1つや2つはあるはず。旅行業者が用意したメニューをそのまま受け入れるのではなく、そこに訪問したらどんな学びができるのかをリサーチして探究に取り入れるなど、修学旅行の質的な発展・成熟を通して生徒の学びを深めていってほしいですね。

 てらもと・きよし 玉川大学教育学部教授筑波大学附属小学校教諭、愛知教育大学教育学部教授を経て2009年4月より現職。専門は社会科教育学、生活科教育学。主な著書は「地理認識の教育学ー探検・地理区から防災・観光までー」「教師のための地図活」(帝国書院)など。

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