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中学校用食育教材の有効活用に向けて

12面記事

企画特集

左:清久利和食育調査官 右:三谷卓也戦略官

 学校における食育は、子どもたちが食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付けるだけでなく、将来にわたって必要な資質・能力を育む学びとしても期待がかかる。文科省は2021年3月に中学生向けの食育教材を作成・公表してその後押しをしている。新学習指導要領に対応した新たなコンセプトのもと、授業や給食指導など多彩な場面で活用できるのが特徴。そのポイントと活用の工夫について、文部科学省の三谷卓也文部科学戦略官と初等中等教育局・食育課の清久利和食育調査官の話をまとめた。

新学習指導要領に対応
 中学生用食育教材は、2017年に告示された新学習指導要領や、「食に関する指導の手引―第二次改訂版―」を踏まえて作成、2021年3月に完成しました。
 今の中学生に向けて「食」に関して身に付けてほしいことを根本から見直し、新学習指導要領で示された「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の資質・能力の3つの柱に基づいて整理し、教材化しました。
 2016年に公表した小学生用食育教材「たのしい食事つながる食育」と接続させた活用も視野に入れつつ、発達段階に応じた内容構成にしています。主体的・対話的で深い学びを、食を通しても実践できるよう、自ら課題を設定し、情報収集、整理・分析、まとめ・発信の流れで学べるようにしています。指導者も資質・能力の向上を意識した食育を展開してほしいと願っています。

コンセプトマップで食育の全体像を把握
 教材作成にあたり作成委員会で大切にしたのは次のようなことでした。
 中学生は、発達・発育に大きな変化がみられ、思春期を迎える「大人の入り口」に立っています。思春期を過ぎると、今度は自立に向け、一人暮らしや就職、結婚や出産などさまざまなライフイベントに出会います。そうした時に人生を通じた食生活の基盤形成を中学校段階で行うことが重要で、食に関する視点を育むためにどのような内容が必要かを検討していきました。
 その結果、生まれたのが食育の4つの「コンセプトマップ」です。各教材はコンセプトごとに提示しました。
 最初のコンセプトは「Ⅰ体を作る・動かす」です。冒頭の教材Ⅰは「私たちは、化学反応の連続で生きている!」とタイトルを付けました。食育の教材なのに理科的な内容だと生徒は驚くかもしれません。食べることと、体内で起きている生物としての化学反応を結び付けた上で、栄養素やバランスのよい食事の重要性を理解できる流れにしたのがポイントです。
 次の「Ⅱ自らの『食生活』を営む」では、日常生活や、部活動、受験勉強など中学生ならではのライフスタイルに合わせた食事のとり方を考えられるよう構成しました。さらに、食を自分のこととして捉えられるようになると、体はどう変化するのかを「Ⅲ体を守る・強くする」で示しました。スポーツ栄養や疾病予防としての食、食品の安全性や衛生に目を向けられるようになっています。
 ⅠからⅢのコンセプトを支える「食」の社会的な背景として「Ⅳ食を通じて他者と関わり、よりよい社会をつくる」を設けました。多様な食文化の理解や、食品ロスなどの社会課題、食に関わる広範な仕事や、従事する人たちの存在も紹介しています。ここはキャリア教育にも活かせると自負していて、今回、食育の教材としては一歩踏み込んだ部分だといえるでしょう。


コンセプトマップ

GIGA端末にも対応
 本教材は、どのコンセプトからでも学べるように作成していますので、各学校や生徒の実態に応じて活用できます。子どもたちには、自分の興味があるところからでも良いので、まずは手に取って読んでみてほしいと思います。
 GIGA端末などのICT活用にも対応しています。本教材は文科省のウェブサイトでPDFとWord形式両方で公開中です。PDFをデジタル配信し、生徒がタブレットで見ながら授業をする学校も増えてくるでしょう。Word版のほうはイラストや図表も含めて自在にアレンジできます。栄養教諭が実態に応じて食育の指導や給食だより等での活用や、さまざまな教科の先生方がご自身の授業で使用するなど、多彩に活用いただければと思います。

栄養教諭との協働を
 指導者用教材には、資料の引用元にアクセスできるURLとQRコードを掲載しました。先生方にもぜひ、主体的な食育の教材研究・教材開発をお願いしたいと考えています。
 その際、教科の先生方と食育の専門家である栄養教諭とのコミュニケーションが図れれば、より効果的な活用が可能です。例えば「食品ロス」について社会科や技術・家庭科などで扱う時に、教科以外の視点や知識を栄養教諭から得ることができます。SDGsを取り上げる時も、身近な食の例として学校給食に目を向ける機会があれば、生徒が栄養教諭にインタビューする、といった活動も生まれるかもしれません。
 また、栄養教諭のほうも本教材をすべて1人で教えられると思いますが、生徒がより豊かな食の学びができるよう、多くの先生と協働しながら積極的に活用してください。


指導者用教材の資料

家庭での食育につながる教材
 指導者用資料の巻末には、保護者向けに本教材の要約的な内容を掲載しました。学校給食以外の食事は家庭で取るものと考えた時、子どもだけでなく保護者にも食育を学び、理解を深めてほしい。そう考えている学校関係者は多いと思います。そんな場面で活用できる内容になっています。
 例えば授業参観日の午前中に、本教材を用いて食育の授業を行い、午後の保護者会で保護者向け資料を用いた食に関する指導を行えば、その晩は親子で参観の様子を語らいながら、食の話が自然と共有できる――そんな家庭との連携をイメージしています。
 「食を」教えるだけではなく「食で」教えられる教材にもなっている。ぜひ多様な活用が実践されることを期待しています。


保護者向け資料

 中学生用食育の教材はこちらからダウンロードできます。
 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/eiyou/1288146.htm

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