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これからの時代に必要な論理的な思考力を育む

9面記事

企画特集

科学的な見方・考え方を高める指導を

 一斉授業・平等主義のもとに、わが国の経済成長を支えてきた日本型教育が限界にきている。Society5・0という大きな時代の転換期を迎える中で、理科教育を筆頭に、義務教育段階から科学的な根拠に基づいて論理的にものごとを考える力を鍛え、「新たな価値創造」を生み出す人材を育成する教育が必要になっている。

論理的にものごとを考える力が足りない
 今日の理科教育で課題の一つとなっているのが、「科学的な見方・考え方」を育成するための指導である。具体的には、「観察・実験」の結果を整理して考察する、科学的な概念をもとに考え、説明するといったことに課題があるといわれており、それは過去の全国学力学習状況調査でも明らかになっている。
 こうした背景には、これまでの日本の教育が知識詰め込み型を重視し、論理的にものごとを考える教育をおろそかにしてきたことが響いている。現在、世界のIT業界を独占する「GAFA」が象徴するように、日本はここ何十年も世界に通用する革新的な企業を生んでいないのが、その最たる証だ。
 したがって、これからの理科教育では「科学的な見方・考え方」につながる論理的思考力を育むツールとして、ICTを上手く活用することが必要になっている。たとえば、新学習指導要領でプログラミング教育が必修化された小学校では、理科の第6学年・電気の利用で「電気を効率的に利用するにはどのようなプログラムにするとよいか」といった予想を働かせ、その解決手段を探る場面でのプログラミング体験が例示されている。
 同じように、理科本来の「観察・実験」授業を取り入れる際も、事前に予測を働かせた上で、その結果を科学的な根拠・理解のもとで考察させることが大事になる。

新たな価値創造を生み出す人材を
 また、子どもたちには、今の社会がプログラミングなどの情報技術によって、便利で快適な暮らしを支えていることに気づき、自身もコンピューター等を活用して問題解決する態度を養うことが求められている。
 政府が掲げる「Society5・0の実現に向けた教育・人材育成」では、AIの飛躍的進化など社会構造が変化する中で人としての強みを活かしていくためには、これまでの工業化社会とは違う「思考・発想」を持つこと。すなわち、新たな価値創造を生み出す人材を育成していく必要があるからだ。
 そして、これらの力を育むためには、探究・STEM教育を推進すること。たとえば理科の学習過程なら、課題や仮説の設定、検証計画の立案、観察・実験の実施、考察・推論、表現・伝達などというプロセスを経ることが重要になると指摘している。
 また、教育課程のあり方自体においても、テクノロジーや工学的な視点に立ち、道具やテクノロジーを活かして新しい時代に必要な資質能力の育成を図ることが重要としている。

誰もが科学を活用することが必要な時代に
 その意味でも、理科において「科学的な見方・考え方」を高めることは、これからの社会で活躍するためには欠かせない素養になっている。なぜなら、これまでの理論科学や実験科学は、人の頭脳に依存しているため、自然現象を把握するのに人の認知が限界となっていた。しかし、コンピュータやAIの飛躍的な発達により、人の認知を超えた情報やデータが現れるようになった今、研究効率は格段に上がり、サイエンス由来のイノベーションが人々の生活を一変させる状況となっているからだ。
 つまり、このような科学的手法の飛躍的な進展によって、科学・数学に関する基礎的な力は、一部の専門家のみでなく、市民的素養としても社会構造や社会課題解決の仕組みなどを理解し、活かしていくために欠かせなくなっている。
 したがって、今後の方策としては、

 (1) 小学校理数の専科指導の充実を図ること
 (2) 高専や専門高校を小中学校のSTEAM拠点化して支援すること
 (3) 理数分野の研究者などの専門的な知見のある人が学校教育に参画しやすくなるよう、教員免許制度を改革すること
 (4) SSH校が起点となり、探究・STEAM教育を地域全体に展開すること
 (5) 大学入試に探究的な学びの成果の評価を取り入れていくこと

 ―などを挙げている。

学部再編と理系女子学生の活躍促進を
 もう一つ、理工系人材の育成に向けては、文理分断と理数系の学びに関するジェンダーの偏りも課題になっている。義務教育終了段階では、比較的高い理数リテラシーを持つ子どもが約4割いるにもかかわらず、高校段階では理系が2割と半減。これは高校の66%が文系・理系のコース分けを実施しており、高1の秋には文理の選択を迫られていることが要因になっている。
 さらに、大学入学時には理工農系学部の学生は約1割に半減し、修士・博士と先細っていく状況となっている。特に、女子の理系離れは深刻であり、学士の理工農系進学は女子全体のうち5%にすぎず、その結果、これらの分野で学ぶ男子学生は9・5万人に対し、女子学生は2・6万人と大きなアンバランスが生じている。
 しかも、諸外国と比べた専攻分野別の構成比も、明らかに理学・工学・農学系の比率が低い状況となっている。たとえば2020年時点の日本の理学・工学・農学専攻は全体の20%であるのに対し、中国とドイツは40%、韓国でも36%といった具合だ。
 こうしたことから、今年5月に教育未来創造会議が取りまとめた「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について」では、現状では大きく不足している理系の学修を行うための大学の受け皿を抜本的に拡充することと、女性が理系分野で活躍できる社会の構築を提言するまでになっている。

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