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STEAM人材の育成に向けて進化する理科教育

10面記事

企画特集

自然や科学を追究する理科教育

 自然や科学を追究する理科教育は、現在の新学習指導要領で謳われる以前から「探究的な学習の過程」を取り入れてきた教科だ。その中で、今後は新しい価値創造やイノベーションを創出できる理数系人材の育成に向けて、より科学的な視点や方法を用いるとともに、各教科で得た知識や技能も働かせて、自ら課題解決できる資質・能力を育成していくことが求められている。ここでは、そんなSTEAM型・理科教育の動向とあわせて、科学的な思考力を育む理科機器設備を備えるための国による補助制度を紹介する。

科学的な見方・考え方を働かせる

理工系人材の育成を目指す
 今年6月に閣議決定された新たな教育振興基本計画では、今後5年間の教育が目指す方向性として、「持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」の二つを大きなコンセプトに挙げている。
 「持続可能な社会の創り手」の育成に向けては、社会課題と経済成長を結びつけてイノベーションにつなげることや、一人一人の生産性の向上に向けた取り組みが重要となる。新たな計画では、大学や高等学校などで文理横断・文理融合教育や探究・STEAM教育を推進するとともに、理工系分野における女性の活躍、デジタル・グリーンをはじめとする成長分野の人材育成に向けた取り組みを進めるとしている。
 中でも、女性の理工系離れを食い止めるためには、進路を決定する中3までに理数への興味関心を高める教育を実現していくことや、理系進学・就職にメリットを感じる社会のロールモデルを築いていく必要がある。また、GIGAスクール構想の1人1台端末整備によって現実化した教育DXの推進は、今回の計画を通貫する柱になっており、ICTを使うことを日常化し、教育データを駆使した学びへと変革することが求められている。

知的好奇心を引き出す理科教育を
 わが国がこうした取り組みを推進する背景には、理数教育の到達度は国際的に高水準だが、その勉強を「楽しい」と思う児童生徒の割合は小学校理科を除いて国際平均を下回っており、こうしたモチベーションの低さが、理工系への進学や就職を妨げる要因と考えられているからにほかならない。
 したがって、「楽しい」と思う児童生徒の割合を増やすためにも、「なぜ、どうして?」という知的好奇心を引き出す学びを一層実現していく必要がある。また、1人1台端末の活用においても従来の教育観のまま指導を続けている学校も多くあることから、子どもの才能を見いだし伸ばしていくためには、アクティブ・ラーニング型授業を取り入れた探究・STEAM教育へと切り替えていかなければならない。
 実際、アメリカ国立訓練研究所が発表した研究結果「ラーニングピラミッド」の考え方によると、学習の定着率を上げるには講義のようなインプット型が最も低く、グループで体験したり、教え合い学び合ったりするアウトプット型の教育が非常に有効であるとされている。つまり、令和の日本型学校教育で構築しようとしている「主体的・対話的で深い学び」の実現は、こうした考え方に沿ったものだといえる。

観察・実験×ICT活用で学びを深める
 では、これまでの小中学校における理科教育がどうだったかといえば、自然の事物・現象から気づき、その答えを探るために仮説を立て、実験や観察を行って実証し、結果を整理する「問題解決の過程」が重視されてきた経緯がある。とりわけ、興味関心の発意や実感を伴った理解を引き出す「観察・実験」は、理科授業の核となるものだ。
 その上で、今後はここに「ICT活用」を授業の中に組み入れて、より科学的な見方・考え方を養うことが期待されている。具体的には、「観察・実験」して得たデータの処理やグラフを作成する、グループでデジタル顕微鏡の映像を見ながら考察する、センサーを使った計測により、通常では計測しにくい量や変化を数値化・視覚化して捉えるなど、自然の事物・現象を、質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え、比較したり、関係付けたりするなどの検証を通して答えを導き出すことにある。そこでは、仮説を確かめる方法を考える力、数値化して検証する力、プログラミング的思考を生かす力、まとめ・発表する力といったものも必要になる。


持続可能な社会の創り手の育成には文理融合が求められている

探究・プロジェクト学習へと発展させる
 あわせて、今日では、その力を日本の将来を担うSTEAM人材の育成へとつなげるため、教科の枠を超えた「探究・プロジェクト学習」へと発展させる学校も多くなっている。理科で身に付けた知識・技能に、他教科で培った知識を結び付けることで、日常生活や社会との関連性について洞察を深め、社会課題等の解決や一人一人の夢の実現に活かすことを考えていくことがねらいだ。
 このような探究・文理横断的な学びの推進は、高等学校教育でもより重視されるようになっている。文科省が9月1日に公表した「高等学校教育の在り方ワーキンググループ」の中間まとめでは、グローバル人材育成に資する拠点校の整備など、国際的な教育を行う高校の整備推進・運営支援を国が実施する。専門学校では、産業界などとの連携を強化し、取り組みの横展開に向け支援する。大学入学者選抜では、学力の3要素の多面的・総合的な評価に向け改善を促す取り組みを実施するとともに、文理横断的な学びを進める観点から、出題科目の見直しなども促進する等が提言されている。それゆえ、文科省はこうした高等学校での学びを推進するため、来年度の概算要求で12億円を計上しているところだ。

9年間を見通した指導計画・授業づくり
 もう一つ、これからの理科教育で求められるのは小学校と中学校の学びの接続といえる。小学校高学年の指導困難化や中1ギャップなど、小中の教育課程の枠組みが児童生徒の実態に合わなくなってきているからだ。それゆえ、校種間の隔たりを改善し、より連続性・一貫性のある教育へとシフトしていく必要がある。
 小中の連携では、義務教育学校や小中一貫校を新設する自治体も増えているが、発達段階に応じて学びを深め、新学習指導要領が目指す資質・能力を育成していくためには、義務教育9年間を見通した指導計画・授業づくりが大切になる。
 例えば「電気」ひとつとっても、小学校では電気の量や働きに着目して、発電や蓄電、電気の変換などについて学ぶ。これを中学校では電流の流れや抵抗について測定する、直列回路や並列回路などを作る、電磁石や発電機などの仕組みや応用まで発展していくなど、年齢に応じて学ぶ内容が変わっていくものだ。これを小中で分断せず、9年間の共通したテーマとして捉え、学びを掘り下げていけるようにしなければならない。
 つまり、小学校の段階から本来の理科が持つ自然や科学に関する興味関心を高め、それを中学校に継承し、次代のわが国の成長を支える人材の育成へとつなげていくためには、今の教育課程の枠組みを変えていく必要があるのだ。

小中一貫した教育課程の事例
 こうした小中が連携した教育の重要性については、すでに文科省では2016年度に教育課程の編成・実施に関する手引を作成しているが、昨年には全国各地の学校における特色ある取り組みを事例集にまとめている。
 京都府京丹後市では、現行制度(義務教育6・3制)のもと、校区内で「育てたい姿」や「共通指導項目」等を設けて小中一貫教育を進めている。理科でいえば、専門性をもった中学校の教員が小学校で指導することにより、学習意欲を高めて確かな学力を確保させるとともに、中学校の学習にスムーズに接続できるようにしているのが特徴だ。
 また、石川県珠洲市立宝立小中学校(義務教育学校)は、理科を含む4教科で小中教員の相互乗り入れ授業を実施。専門的な指導によって学習意欲や内容理解が進んだのはもちろん、教職員の一体感の向上にもつながっているという。
 高知市立義務教育学校土佐山学舎では、地域の豊かな資源・人材に関わる活動を学習の中心に据え、1年生から9年生まで9年間の学びのストーリーを描くことで系統的に学習を進めている。例えば4年生の「川の学習」に関連して、社会科のまちづくりや水に関する単元では地域の浄水場に赴いて水の学習を行うほか、地域を流れている鏡川で水生生物の観察をして理科の学習につなげ、さらには図工での表現に関する学びを生かしたプレゼン資料で発表を行っている。

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