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「指導してはいけない」の呪縛解く

4面記事

学校運営

千代田区立麹町中―この1年 (中)

 前回に続き、千代田区立麹町中学校の現在の様子を紹介する。今回は主に本年度に改善を進めた内容をまとめる。

授業研究を充実 廃止されていた職場体験実施
文化祭は全員参加「歌声の響く学校」へ
「皆が過ごしやすい場に」―生徒の自治意識高まる

 堀越勉校長は本年度に入り、視察の受け入れや講演などの場で、生徒の問題行動に関わる写真などを提示している。教育関係者の多くは「生徒の自主性を大事にした最先端の取り組みをしている」というイメージを抱いているため、講演ではどよめきの声が上がる。同校では対外的には公表されていない多様な問題が起きていた。
 本年度に主に推進したのは、授業研究の機会と場の確保や職場体験学習の実施、全員参加の文化祭に戻し「歌声の響く学校」にする、生徒会活動の課題を改善し生徒による自治の力を高める―ことなどだ。
 授業研究については、研修体制が整っておらず、研究授業も行われていなかった。学習指導案も長く作られていない。区の教育研究会での他校の教員との交流も、できない状態に置かれていた。
 そのため本年度は区の研究協力校になり、「授業で学校を立て直す」と宣言し、授業研究と資質向上の研修の場を20回程度設定。共に学び合い、高め合おうとする組織に変容した。区内各校との交流も再開している。
 職場体験学習については廃止されていたが、37の事業所で3日間実施。生徒の進路や将来の夢を調査したところ、これまでの大企業による出前授業のプログラムと生徒のニーズが合致していないことが分かった。生徒の希望を踏まえた実体験の場になったこともあり、自分の将来を真剣に考え、他者への思いやりの大切さなども学び、雰囲気が顕著に変わったという。
 「歌声の響く学校」については、元校長の時代からの文化祭の形式を合唱などに改めた。
 以前の文化祭は「観客全員を楽しませる」というコンセプトで、オーディションで選ばれた生徒のみがステージに立っていた。しかし、運営の生徒を合わせても全体の6割は関わりを持つことができない傍観者となっていた。肌の露出の多い服装で参加する生徒もおり、「文化的行事」とは言い難い状況であったという。
 こうした課題を踏まえ、全員が参加し、主役になれる文化祭にした。合唱を核に据えた背景には、コロナ禍の影響で、生徒の多くが、クラス全体で一つの目標に向かって活動をした経験がないことや、地域から「麹町中はかつて歌声があふれる学校だった」と聞いていたことが挙げられる。
 本年度の文化祭終了後、生徒からは「クラスのみんなが団結し、歌い上げた経験はかけがけのない時間だった」などの声が上がり、堀越校長は、「達成感を味わわせることができたのではないか」と語った。
 生徒会活動についてはまず、立候補さえすれば誰でも委員会委員になれる仕組みを改めた。例えば、体育委員は全学年で80人いるのに、給食委員は少なく、ゼロのクラスもあった。活動に全く参加しない委員もいたため、「真面目に取り組んでいる人がつらい思いをしている」という声が上がるようになり、生徒会内の議論を経て、各クラスに定数制で委員を配置する体制に戻した。
 生徒会からの提案内容も、校内で生じている課題と向き合い、「学校を誰にとっても過ごしやすい場にする」といったものになりつつある。生徒会朝会などで出された提案も、声を掛け合って守っていこうとする「自治の意識」が醸成されてきたという。
 堀越校長は着任から2年にわたる取り組みについて、「生徒を指導してはならないという『呪縛』により、教員も生徒もモラルが低下していたように思う。それに起因した問題が続いたことから、学校を整え、再構築することが欠かせなかった。今後も学習指導要領を根拠にしながら、子どもたちの本来の力を伸ばし、将来の幸せにつながるような取り組みを進め、引き続き地域にとっても誇りと思える存在でいられるようにしたい」と強調した。
 最近の堀越校長の気掛かりは、20代から10代後半の卒業生の高校中退者が大勢いること。校長経験は3校目となるが、これまでの何倍もの若者がリスタートを模索している。在学中の教育が影響を及ぼしたのではないか―と心配している。

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