世界の教育はどこへ向かうか
12面記事
白井 俊 著
「探究」など日本の理解と差は
教育の議論はとかく内向きになりやすい。その一方で、PISAや大学ランキングなど海外での評価を過度に重視する傾向もある。
本書は、OECD、ユネスコなどの国際機関や諸外国での議論や教育事情を俯瞰し、世界の教育がどこに向かっているかを参考にすることで、日本の教育の現在地と目指すべき方向性を客観的に示そうとするものである。ぜひご一読をお勧めしたい。
第一章で、ウェルビーイングやSDGsが、経済成長中心の世界観から人間重視の世界観に転換する過程で登場した概念であることが示される。第二~四章では「主体性」「能力」「探究」について、それぞれわが国での捉え方と国際的な議論とのギャップなどを踏まえつつ考察する。第五章は「何をどこまで学ぶべきか」、終章では未来の学校像に迫る。
日本でも広く使われる「ウェルビーイング」「非認知能力」「探究」や、教育の世界で重視されている「エージェンシー」「コンピテンシー」などの概念が国際的にはどのように理解されているのかを正しく知ることは、上滑りの議論にしないために極めて重要だ。
教育を「エコシステム(生態系)」として捉える近年の国際的な潮流は、「探究」や「カリキュラム・オーバーロード」への対応をはじめ、わが国の教育論、教育政策においても生かされるべきだろう。
(990円 中央公論新社(中公新書))
(浅田 和伸・長崎県立大学学長)