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選ばれる高校へ、魅力化を模索 「探究」深め、国公立進学に成果

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探究学習のプロジェクトで教員と話し合う生徒たち=6月4日、新潟県立津南中等教育学校

 公立高校の存在がいま、問われている。少子化が進み、全国の約半数の公立高校が定員割れに直面しているといわれる中、来年度からは私立高校で授業料無償化の所得制限が撤廃され、全ての家庭が対象になる。「選ばれる高校」となるため、各校ではさまざまな特色を打ち出し、魅力化に乗り出している。

 「東北大学に、こんな研究をしている先生がいるみたい」
 6月上旬、新潟県立津南中等教育学校で5年生のグループが来月実施する宮城県へのキャリア研修の訪問先を話し合っていた。学校行事でもあり、プロジェクトチームで取り組む探究学習の一環でもある。それぞれが設定した探究テーマに関わる研究者らを探し、訪問の約束まで取り付ける。
 豪雪地帯での防災対策やジェンダーレスの着物の普及など、生徒たちが設定するテーマは多岐にわたる。地元で開かれる国際芸術祭の魅力を広める方法を探っている小川悠太さんらは「地域創生の視点から研究者に話を聞きたいと考えている」と話す。
 津南中等教育学校が、地域に選ばれるための学校の魅力づくりの柱として力を入れているのが、6年間を通じて取り組む総合的な探究の時間「津南妻有学」だ。
 前期課程は1年生で、日本有数の河岸段丘やSDGsを学び、2年生では地域で働く人たちについて調べて「仕事図鑑」を作成、3年生で企業から出された課題や社会課題の解決策を考える探究学習プログラムを経験する。
 後期課程の4年生以降では、個人やチームによる探究学習「マイプロジェクト」を中心に取り組む。これまで同校の複数のチームが全国大会で賞に選ばれてきた。5年生の担任の水谷華教諭は「授業で課題を出せば、数日で統計データなどに基づいた発表資料をまとめてくる。人に伝える力が確実に身に付いている」とうなずく。
 生徒たちの活動を支えるのが、卒業生を中心とした「津南中等教育学校を支える会」。探究テーマに必要な場所や人を提供し、アドバイザーとしても関わってきた。
 探究学習で培われた力は進学実績の向上にもつながっている。今年3月卒業生の国公立大学の合格率は61%、進学率は54%で県内トップクラス。総合型選抜での合格は3割で、一般入試が7割を占める。
 平成18年に開校し、今や県内外を問わず知られる存在になったが、この間に大きな危機に直面したこともあった。
 募集定員80人で、100人を超えることもあった志願者が平成28年度から低迷し、平成30年度や令和元年度には6割近くに低下したのだ。「県教育委員会が募集停止を検討している」という情報も流れた。
 この窮地を打開するきっかけの一つとなったのが探究学習だった。前年度から取り組み始めてきた「津南妻有学」の学びを地域の人たちに発信。教科の学力一辺倒ではない生徒たちの成長を伝えた。すると令和3年度入学者から受検者数は回復傾向を見せ、本年度の入学者選抜では113人が志願した。
 宮澤雅樹教頭は「県が実施した調査でも、探究的な学びに重点を置いた高校に通わせたいと思う保護者が最も多かった。将来が見通せない時代に、自分で課題を見つけ、解決に向けて努力できる力を育ててほしいという期待の表れではないか」と話す。
 今後は探究的な学びの手法を教科の授業にも取り入れ、授業改善を図っていくとしている。

新設学科、専門人材を育てる

 新学科の設置で注目を集めているのが熊本県だ。
 県立高森高校は令和5年度、公立高校では全国初となる「マンガ学科」を設置した。出版社協力の下、プロの漫画家や編集者から直接指導を受けられる。卒業制作はもちろん漫画で、作品が雑誌に掲載された生徒もいる。
 高森町営の学生寮を整備し、全国から生徒を募る。以前まで10年以上定員割れが続いてきたが、マンガ学科の人気は右肩上がりで今年2月の前期選抜では4倍を超えた。昨年のオープンスクールには北海道からの生徒を含む200人以上が参加。普通科の入試倍率にも好影響を与えている。
 県内で活況な半導体産業の人材需要が高まる中、県立水俣高校が令和7年度に開設したのが「半導体情報科」だ。水俣市内の半導体企業と連携した教育活動が特徴で、半導体研修施設での実習や出前授業を実施するなどして専門人材の育成に取り組んでいる。
 カリキュラム開発や教育指導にも企業が連携・協力する同学科には県教委の期待も高い。県教委の担当者は「半導体に興味を持って入学する生徒の実践的な学びを支える環境を整え、半導体人材確保に寄与できるようにしていきたい」と話す。

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