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ルポ 誰が国語力を殺すのか

14面記事

書評

石井 光太 著
思考できぬ子らの現実映す

 コロナ禍を経てリアルな対面によるコミュニケーションが減っている。急速に浸透したSNSによる影響も大きい。ネットには荒れた言葉やぶつ切りの単語が並び、語彙力の低下が見て取れる。デジタルネーティブの子どもたちの言語状況に、著者は「殺す」という強い言葉を用いて危機感を示す。
 表題に「ルポ」とある通り、学校をはじめフリースクール、ネットトラブルを解決や解消する会社、ゲーム依存治療の現場、少年院などを精力的に取材し、実例を挙げて詳細にリポート。そこには家庭格差の下層にいる子ども、言葉で思考する習慣のない子ども、自分の感情を言語化するのが不得意な子どもという現実がある。子どもたちは、自分の言葉で表す技を知ることによって次第に自己肯定感を高め立ち直っていく。「国語力」は生活する力につながっているのである。「国語力」とは、語彙力をベースにした想像力、情緒力、論理的思考力のこと。
 言葉の力の弱まった子どもを増加させてはならない。家庭に期待が持てないならば、国語力の復活には学校が力を発揮するしかない。
 そこで実際に、国語力育成に取り組む学校の事例が詳しく紹介されている。本物の体験を通した五感の刺激、文庫本をテキストにした精読、「スピーチ・ディベート・レポート」、思考ツールの活用、哲学対話―など。言葉を取り戻す実践が広がることを期待したい。
(902円 文藝春秋(文春文庫))
(正)

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