大学生の安全行動志向にみる大人になるための非認知能力
13面記事
河村 茂雄 著
傷つくこと避ける若者への対処は
大学で教壇に立っている著者だからこそ、学生のリアルな姿から浮かび上がる課題を切実に受け止められている。説得力ある内容に引き込まれ、興味深く読み進めた。本書は、非認知能力の育成とこれからの教育の在り方を論じる上で基盤となり得る内容だ。
安全行動とは、防衛的な行動のパターンを指す。近年の学生には、傷つくのを嫌がり周囲と同調し自分の意見を強く出さない傾向があるという。一見、協調性があり問題なさそうにも映るが、新たな能力や人間関係を獲得する機会が少なくなりがちに。著者は、成長につながる主体的な適応行動が取れるように支援することが肝要という。自立的な学習者となるための資質・能力として認知能力も必要だが、その力を支えるのが非認知能力である。
第2章「なぜ非認知能力の発達格差が生まれるのか」では各成長期で大切な関わり方を示す。例えば、乳児期では無条件に受容される体験など愛着関係の形成を大切にしないと内発的な動機が十分に高まらず自律的に行動することが少なくなるそうだ。
書籍名を見ると大学や高校の教育関係者向きと思われそうだが、対象は幅広い。実は最も手にして欲しいのは保護者。そして就学前の保育、小・中学校教育に関わる全ての人、もちろん大学生にも読んで欲しい良書だ。乳幼児期から大人になる発達の過程を見通し、シームレスに育成する重要性に得心がいく。
(2200円 図書文化社)
(藤本鈴香・大谷大学教職アドバイザー)


