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コロナ時代に考えたい学校問題【第11回】

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児童の父への指導

 児童虐待の件数が年々増加している。先月の群馬県の報告は分かりやすい。県内児童相談所が令和元年度に受け付けた児童虐待に関する相談件数が、前年度比約31%増の1799件になったという。統計を取り始めた平成12年度以降、過去最多で、増加は11年連続とのことである。「酷いね」と思って思考が次に流れたらそこで終わる。

 そうではなく、自分の回りに該当する事態はないかを考えたい。見えていないかもしれない。絶対に見過ごすまいと決意することが必要なのである。紙一重の意識が事件や虐待を未然に止める事になる。

 件数増加の背景について「関心が高まったから」と、よくコメントが出るが、スッキリはしない。何故なら、解決の数が曖昧だからである。発見できても、報告が上がっても、接近禁止命令程度しか手が打てず、虐待が見えなくなった時点で接見を許可して大惨事になることは多い。

 新任校長の頃、父親から性的虐待を受けている児童と母に関わった事がある。子どもは言葉に出来ない事がある。母親を徹底して観察し指導した。児童相談所と教育センターに連絡した上でのことである。心が揺れ動き始めたのが感じられた。ここからが勝負である。父親を校長室に呼び出し、徹底的に指導を重ねた。
 すると教委から「あまり関わらないように」と指導が来た。すなわち面倒になるから「手を引け」と言うことである。聞いた振りをしておいた。このような場合は、父親と「さし」でやらないと効果はでない。五度目で根負けした父親から「分かりました。もう少し離れておきます」と、自覚をさせた。
 その3年後、親子三人で、他市へと厄介払いされていた私を訪ねてやって来た。見違えるような笑顔をたたえて幸せを取り戻せたと話してくれた。それでも気は抜けない。「この子が結婚するまで遠くから見守りますよ」と、笑顔で告げて見送った事を今でも鮮明に覚えている。「見過ごさない」を徹底するなら、時に進退を掛けねばならない。
(おおくぼ・としき 千葉県内で公立小学校の教諭、教頭、校長を経て定年退職。再任用で新任校長育成担当。元千葉県教委任用室長、元主席指導主事)

コロナ時代に考えたい学校問題