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令和3年通常国会質疑から【第1回】

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 開会中の通常国会では、小学校の学級規模を最大35人とする法律が成立した。同時に、現在の教育界が抱える課題について政府・文科省がどのように考えているか明らかにする質疑も交わしている。3月10日の衆議院文部科学委員会では、元文科相の中川正春議員(立憲)がデジタル教科書の無償化などについて質問。萩生田光一文科相は、前向きな姿勢を示したが、検討課題との立場を崩さなかった。

「電子教科書は無償化の対象か」
中川正春議員(立憲)  電子教科書の定義、あるいは無償化をどこまで適用していくのかということ、あるいは検定基準の見直し、これを先にやって、それから現場でいろんなモデル事業を入れて、その実証の中で具体的なものを組み立てていくということがないと、この基本がないままに何か実証的にやっていきなさいよという状況が今続いているわけですけれども、それがあるということが現場の混乱につながっているんだというふうに感じておりまして、そこのところ、しっかりと方向づけをする必要があるんだというふうに思うんです。
 この問題意識を持って質問をしていきたいというふうに思うんですが。
 まず一つは、電子教科書は無償化の対象になるのか、紙と電子教科書の整理、無償化について、いつどのような形で整理をしていくのかということですね、これが一つ。
 それから、二つ目は、電子教科書に附帯する機能ですね。
 例えば、英語教科書などでいけば、単語の辞書機能をくっつけていくということであるとか、あるいは、音声を出していくことによって、ネイティブの発音の中で本が理解ができていくような状況をつくるとか、あるいは、教科書の内容をテーマにした音声の中で、会話ドリルのような形で、そのまま効果を持っていける、こういう機能をどこまで教科書そのものに付随をさせていこうとしているのか。あるいは、どこまでが外部化して、アプリとして取り込んで、取り込むということは当然そこは有料化になるわけですけれども、そういうものを取り込んで、外部化という、それぞれの課題というのをつくっていくのか。この線引きによって、教科書の体質というか中身が変わってくるということがあるんですね。
 もう一つ言えば、教科書検定という立場から、これをどう整理していくのか。
 こういう課題に対して、先にここをやっておかないと、教科書の開発をしていく、あるいは現場でそれを使っていくということについて、最終的にはどうなるんだろうと迷いながら、どこまでやったらいいんだろうということをそれこそ迷いながら今開発をしていかなければならない、こういう状況が続いているんです。ここについてどのように整理をしていくかということ。
 それから、同時に、教科書の中に入るものというのは教科書としての無償化の対象となっていくわけですけれども、外部から導入されるアプリなどと区別をされるときに、そのコストというのをどのように整理をしていくかということ、ここも開発主体、出版社やその事業体については大きな課題になってくるんだろうというふうに思うんです。
 そこのところを今どのように整理をして、そして政策としてこれからつくり出していこうとしているか、改めて答えていただきたいと思います。

「検討会議の議論を見守る」
 文科相初等中等教育局長  今中川委員から幾つかいただいた観点については、まさに様々な検討をしている途上でございます。
 具体的には、デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議というのがございまして、これが中間のまとめ案というものをまとめたところでございます。
 この中におきましては、学習者用デジタル教科書を、御指摘ございました教科書無償措置の対象とするか否かについては、全国的な実証研究の成果やその普及状況を踏まえつつ、紙の教科書とデジタル教科書との関係に関する検討、あるいは財政的な負担も考慮しながら検討を進めていく必要があると整理されておりまして、引き続き、ただいま申し上げた検討会議はまだ議論を続けておりますので、その議論を見守ってまいりたいと思います。
 また、御指摘の、音声でありましたりアプリでありましたり様々なデジタル教材、これをデジタル教科書の定義に含むかどうかということについては、先ほど申し上げた検討会議の中間まとめ案におきましては、令和六年度の小学校用教科書の改訂に向けて既に教科書発行者が御指摘のとおり準備を進めていることも踏まえまして、令和六年度以降の今後の将来的な課題とされているところでございます。ただし、デジタル教材等との連携というのは、それが容易であるということが教科書のデジタル化のメリットでもございますので、質の高い多様なデジタル教材と連携をさせて活用されるよう、例えば、連携するシステム間の共通規格の整備等を進めることが必要であるとされております。
 こうした制度面も含めたデジタル教科書の今後の在り方につきましては、同検討会議におきますこれらの議論も踏まえつつ、引き続き検討させていただきたいと考えております。

「自治体のコスト負担、見通しが必要」
 中川議員 令和六年以降で、この教科書、一緒に、同じテンポで結論を出していくよということについては、私は非常に疑問を持っています。
 なぜなら、こういう現場の課題があるんですね。例えば、地方自治体では、デジタル教科書の使用にどれだけのコスト負担がプラスをされていくというふうに見通していかなければならない、あるいは、その前提をはっきりさせた上での財政計画を立てていく必要があるわけですね。そこについて最初にはっきりさせておかないと、結局どうしたらいいんだということになるんですよ。それから、家庭にとってはどれだけの経済負担を見込まなければならないかということがあると思うんです。
 また、教科書作成に携わる出版社としては、紙を電子に転換する、そういう前提、これは、今の電子教科書が、紙にあるものをただ電子に置き換えるということで止まっているんです。
 しかし、紙が主体になるんじゃなくて、元々がデジタルボーンという前提で教科書を開発して、紙をその副産物と、例えばそういうことでいいよという形になったら、教科書そのものの質というか、そこで出てくる機能というのは全く違ってくるんです。それを開発していくのかどうか、それとも、電子教科書というのは紙の代替物なんだということで終わってしまうのかということによって、教科書の開発の方向というのは全く変わってくるということですね。
 この中身の質の追求と、もう一つは、コストに雲泥の差が出てくるということであるので、ここは入口で先に決めておかなきゃいけないでしょう、そういう考え方がやはり出てくるというふうに思うんです。
 その新しいビジネスモデルを考えていかなきゃいけないところというのはもう一つあって、それは、紙の教科書のいわゆる現場への供給を手がけてきた教科書・一般書籍供給会社、これは各県に一つずつあると聞いていますけれども、その供給会社と、それから具体的に配る教科書取扱書店、この業界にとっては、これから決定されようとする電子教科書と紙の教科書の定義によってそのビジネスモデルの持っていき方というのは全く違ってくる。恐らく、将来的には大転換をしていかなきゃいけないだろうというふうに思うんですよ。
 しかし、そこのところを今方向づけをしておかないと、令和六年に突然、いや、もうデジタルですよという話になったときには、この業界自体も大混乱になってくるというような、そういう構造があるんですね。これは死活問題にもなってくる。
 様々なステークホルダーが、それぞれ現場で、先に決めてもらわなきゃいけないことを先送りしてもらっては困りますねというふうなことが今出てきているということ、これを指摘をしておきたいと思います。
 そして、その方向が決まれば、その前提で教科書の開発が進めるということ、この方向性を持ってそれぞれで工夫をしていくということは、すっきりしていくということ、現場のモデル事業やあるいは実施していくその状況も定まってくるということなので、この電子教科書自体の整理が先だと私は思っているんですが。
 ここで、この議論を聞いていただいて、大臣、ちょっと今の検討会の中身をしっかり整理をしていただいて、今結論を出していくものについてはすぐやるという方向で考えをまとめていただきたいというふうに思うんですが、どうですか。

「大前提は無償化だが」
 萩生田文科相 先生の御懸念は私も理解できる部分もあります。大臣経験者として、義務教育の家庭の負担が将来増えるようなことがあってはいけない、自治体が計画的に子供たちの教育教材等を準備するためには、ある程度きちんと方向性を先に決めろという御指摘は分からなくもありません。
 他方、後段の、教科書の出版会社の皆さんのある意味代弁等も含めたお話は、まず第一に、大切なことは、義務教育で使う教科書ですから、それは紙であってもデジタルであっても私は大前提は無償化ということになるんだと思います。
 しかし、まだデジタル教科書の普及が八%しかない中で、もっと申し上げれば、まだ始まっていないんですよね、ICT教育というのは。今年の四月、新年度から初めてGIGAが始まって、全ての小中学生に一人一台という環境が整うので、その前に全ての方向性を決めろと言われると、これはかなりリスクがございます。そもそも、デジタル教科書に全面移行するということもまだ決めていません。紙の教科書のよさもあるじゃないかという専門家の様々な御意見もあります。
 したがって、紙とデジタルをどう使っていくかということを含めて令和六年という目標を立てているわけでありまして、それは令和六年になったら突然方向転換するというんじゃなくて、その間に、きちんと議論の中身を皆さんに見せながら、先生から御指摘のあったステークホルダーの皆さんにも御理解をいただきながら方向性を定めていきたいと思いますので、したがって、今の時点で何かを決めろということになりますと、かえって私は混乱するのではないかというふうに思っております。
 まさしくスモールステップで前に進んでいく必要があるんだろうと思います。先生もおっしゃったように、デジタル教科書自身も、全ての教科書会社がデジタル化を進めているわけではありません、全て発行が終わっているわけじゃありません。
 それから、先進的な企業は、確かに副教材としての様々な資料でいいものがありますから、じゃ、そのアプリはどうするんだ、お金はどうするんだということは当然出てくるんですけれども、ここは、先ほど局長からも答弁させましたけれども、きちんとこの四月以降、実証実験をしながら、いい点や課題というものもしっかり浮き彫りにしながら、目指す方向というものを示していきたいと思いますので、御指摘のように、突然令和六年に方向をぽんと決めるということじゃないことだけは御理解いただきたいと思います。
(衆議院文部科学委員会3月10日)

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