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令和6年通常国会「質問主意書」から【第4回】

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 国会議員が国会開会中、政府に対して文書で質問する「質問主意書」。開会中の通常国会でも、教育に関する課題を浮き彫りにし、政府の考えを引き出そうとする質問が出ている。4月1日には、神谷 宗幣参院議員(参政)が「LGBT理解増進法施行後の性教育の懸念に関する質問主意書」を提出。「米国では、性教育が子どものアイデンティティ形成に混乱をもたらすことを懸念した多くの州で、幼稚園や小中高での性的指向や性自認に関する教育を禁止や制限する州法が制定されてきた」として、日本の性教育の方向性について尋ねるなどした。

【質問】

 諸外国では、性教育、特にLGBTQに関する教育が成長期にある若者の性に関する理解に混乱を招いているとして、性教育政策の見直しに対する議論が進んでいる。
 若年層が、成長過程で迷いや違和感を覚えることは自然なことであり、性に関しても例外ではない。若年時の迷い等から、性転換のような自身の体に取り返しのつかない決断をしてしまい、後に深く後悔する深刻なケースも報告されている(「IRREVERSIBLE DAMAGE, The Transgender Craze Seducing Our Daughters」、アビゲイル・シュライアー著)。
 特に米国では、性教育が子どものアイデンティティ形成に混乱をもたらすことを懸念した多くの州で、幼稚園や小中高での性的指向や性自認に関する教育を禁止や制限する州法が制定されてきた。例えば、フロリダ州では、学校現場で性的指向や性自認についての議論を禁止する法律が制定された。ルイジアナ州、ミシシッピ州、オクラホマ州、テキサス州では、性教育を異性間の行為に限定する法が制定され、テネシー州、モンタナ州では、保護者が性的指向や性自認に関する議論から子どもを外すことを選択できる法律が制定された。さらに、アリゾナ州、アラバマ州、オハイオ州など少なくとも十五州で学校でのLGBTQに関する議論を抑制する法案が検討されている。
 イギリスでは、二〇一九年に「新しい性教育指針」を示し、学校は性教育の内容について親との協議が必要であり、初等学校で性教育を実施する場合には親が子供を授業から退席させることができる権利を認めている。
 一方、我が国においては、二〇二三年六月にLGBT理解増進法が施行された。そのため、「LGBT理解増進法の施行に当たり懸念される事項に関する質問主意書」(第二百十一回国会質問第一〇八号、以下「本件質問主意書」という。)を提出し、学校現場における教育等について質問を行った。これに対して、答弁書(内閣参質二一一第一〇八号)が送付されたところ、本件質問主意書の多くの質問について「今後検討する」との答弁がされた。
 そのため、以上を踏まえ、以下質問する。

一 米国を含む諸外国で見られる性教育に関する規制の動向を踏まえ、我が国での性教育の方向性について政府はどのような考えを有しているか示されたい。

二 前述のように性に関する意識が未熟な若年層への教育には、特に慎重な対応が求められる。現状、政府が指針を示さないまま、教育機関が手探りでLGBTに関する教育を進める状況になっているのではないか。このような状況では、教育内容にばらつきが生じ、行き過ぎた性教育が行われるリスクを高める可能性があるのではないか。性的マイノリティーを含む若年層への性教育において、混乱を避けるための具体的なガイドラインを策定しているか示されたい。また、策定している場合、その内容を示されたい。

三 報道によれば、首都圏と近畿圏の一部の私立女子中学校・高校では、戸籍上は男性だが女性と自認する生徒の受け入れが検討されているとのことである。政府は、性自認が女性である男性の女子校への入学に関し、どのように考えているか示されたい。

四 若年層に対する性転換手術について、諸外国の例を見ると大きなリスクと懸念が伴うことが明らかである。政府として、前述したような諸外国の例を承知しているか。また、政府はこれら諸外国の事例を研究し、そのリスクと懸念をどのように評価しているか。さらに、将来的に我が国でも同様の事例が増える可能性があるが、この点について、若年層を保護するためにどのような対策を考えているか示されたい。

五 政府は、性別に違和感を持つ子どもに対するホルモン治療や性転換手術について、親の同意や関与の必要性をどのように考えているのか示されたい。

六 本件質問主意書の質問四、質問五について、その後の検討状況を示されたい。

【答弁】

一について
 御指摘の「性教育」の具体的な範囲が必ずしも明らかではないが、学校における性教育については、例えば、「中学校学習指導要領(平成二十九年告示)解説 保健体育編」(平成二十九年七月文部科学省。以下「解説保健体育編」という。)において、「思春期には、下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンの働きにより生殖器の発育とともに生殖機能が発達し、男子では射精、女子では月経が見られ、妊娠が可能となることを理解できるようにする。また、身体的な成熟に伴う性的な発達に対応し、個人差はあるものの、性衝動が生じたり、異性への関心などが高まったりすることなどから、異性の尊重、性情報への対処など性に関する適切な態度や行動の選択が必要となることを理解できるようにする。」と記述するなど、児童生徒の発達段階に応じて適切に指導することとしている。

二について
 「現状、政府が指針を示さないまま、教育機関が手探りでLGBTに関する教育を進める状況になっているのではないか」及び「このような状況では、教育内容にばらつきが生じ、行き過ぎた性教育が行われるリスクを高める可能性があるのではないか」とのお尋ねについては、御指摘の「教育機関が手探りでLGBTに関する教育を進める状況」及び「行き過ぎた性教育」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難であり、「性的マイノリティーを含む若年層への性教育において、混乱を避けるための具体的なガイドラインを策定しているか」及び「策定している場合、その内容を示されたい」とのお尋ねについては、御指摘の「性的マイノリティーを含む若年層への性教育において、混乱を避けるための具体的なガイドラインを策定しているか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、学校における性教育については、一についてで述べたとおり、児童生徒の発達段階に応じて適切に指導することとしている。なお、学校における性的指向等の多様性に関する理解の増進については、「「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」の公布について(通知)」(令和五年六月二十三日付け五文科教第五百九十二号文部科学省総合教育政策局長、初等中等教育局長及び高等教育局長連名通知)において、「文部科学省では教育基本法(平成十八年法律第百二十号)第十三条に基づく学校、家庭及び地域住民の相互の連携及び協力を前提として、これまでも、学校教育や社会教育における人権教育を通して、児童生徒等の発達段階に応じて、多様性に対する理解、自他の人権の尊重等の態度を育む取組を進めるとともに、性同一性障害や性的指向等に係る児童生徒等へのきめ細かな対応に資するよう、他の児童生徒等への配慮の観点も含め、教職員向けの啓発資料や研修動画の作成・周知、改訂版生徒指導提要への性的マイノリティに関する記載の追加等の取組を行ってきたところですが、本法の趣旨や関係規定に基づき、これらの取組を引き続き推進してまいります。」としているところである。

三について
 私立の中学校及び私立の高等学校において、どのような生徒を入学させるかについては、各学校の設置者等において適切に判断されるべきものと考えている。

四について
 御指摘の「諸外国の例」及び「同様の事例」の具体的な内容が明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、いずれにせよ、御指摘の「若年層に対する性転換手術」については、公益社団法人日本精神神経学会が作成した「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第四版改)」(以下「ガイドライン」という。)において、「性別適合手術を施行するための条件」として、「手術の範囲、方法、予想される効果、起こり得る合併症・随伴症状などについて十分な説明を行い、理解したうえで手術法が決定されたことを文書に明記して保存すること」、「成年に達していること」等の記載がなされていると認識しており、「性別適合手術」を行うに当たっては、ガイドラインの記載内容を踏まえ、適切に対応されるべきものと考えている。

五について
 お尋ねについては、御指摘の「ホルモン治療や性転換手術」を受けようとする者の判断能力は様々であることから、一概にお答えすることは困難であるが、ガイドラインにおいて、「性別適合手術を施行するための条件」として「成年に達していること」等の記載がなされ、「ホルモン療法を施行するための条件」として「ホルモンによる治療は原則として十八歳以上であること」、「未成年者については親権者など法定代理人の同意を得ること」等の記載がなされていると認識しており、医療を行う医師等において、個々の事例に即して適切に判断されるべきものと考えている。

六について
 お尋ねのうち、先の質問主意書(令和五年六月十四日提出質問第一〇八号。以下「前回質問主意書」という。)四については、学校における性教育については、一についてで述べたとおり、児童生徒の発達段階に応じて適切に指導することとしており、また、学校における性教育の指導については、例えば、解説保健体育編において、「指導に当たっては、発達の段階を踏まえること、学校全体で共通理解を図ること、保護者の理解を得ることなどに配慮することが大切である。」と記述するなど、保護者の理解を得ることに配慮して行うこととしている。
 前回質問主意書五については、御指摘の「日本社会にふさわしい施策」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(令和五年法律第六十八号)第十条第一項に定める「心身の発達に応じた教育及び学習の振興」に努めるとともに、同条第三項に定める「学校の設置者及びその設置する学校」が「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ、教育又は啓発、教育環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置を講ずる」ことができるよう取り組んでまいりたい。

令和6年通常国会「質問主意書」から