令和7年通常国会質疑から【第3回】
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無償化と公立高校
国会では、法案審議の他に、議員の提示した課題に対して政府が見解を明らかにする質疑が行われている。今年1月に開会した通常国会のうち、教育関係の一般質疑の模様を紹介していく。3月13日の参議院文教科学委員会では、自民・公明・維新の3党で合意した高校無償化に関し、立憲民主党所属議員から質疑があった。
斎藤嘉隆議員(立憲) 高校無償化、来年度は公立、私立とも現行の十一万八千八百円の支給について所得制限を外すということで、これは私本当に望ましいことだというふうに思っています。
私立については、この支給の上に所得に応じて支援金が上乗せをされます。現在は世帯所得五百九十万円未満、三十九万六千円ということで、問題は二七年度からなんですけど、これを四十五万七千円にして所得制限を外すと、全ての御家庭にということだと思います。
私は、これから述べる様々な課題から、この導入には慎重であるべきだし、もう少し状況を細やかに把握、勘案をして、実施ありきではなくてですね、場合によっては立ち止まる決断も必要ではないかというふうに思っている一人です。
もちろん、公党間の合意でこれが進んでいることは理解はいたしますけれども、そういう立場をまず明確にした上で質問に移りたいと思います。
これ、私立高校に対する就学支援金の引上げと所得制限の撤廃の最も大きな私なりの懸念は、よく言われていることですが、公立高校への影響です。荒廃を招くのではないかと、全国的に。実際に、東京、大阪では公立高校、地盤沈下が進んでいるんではないかというふうにも言われていて、大阪では、百四十五校中、前年度から二十三校増えて、約半数の七十校が定員割れをしたということなんですね。
進学校も定員割れをしているという報道がなされていますけれども。元々教職にいた人間からすると異常ですよ、これ。異常だと思います。一度定員割れをすると、その高校が立ち直るというのは非常に大きな労力と時間が必要になってきます。その理由はもう分かっていただけると思いますが。私の地元の愛知でも同様のことは起きているし、過去も起きていたということなんですね。
これ、このことで地域のインフラとしての公立高校、荒廃が進んでいるのではないかという、こういう指摘に対して、文教政策をつかさどる立場として、文科省としての認識をまず冒頭お聞かせをいただきたい。
文科相 一般論として申し上げますと、私立の高校の授業料支援拡充により、この私立の高校の進学を希望する生徒が増加して、また公立高校の進学者数が減少する可能性があるなど、公立高校に一定の影響があるものと考えます。
地域によって様々事情がございますが、公立高校、高校教育の普及、機会均等を図るために法律で配置及び規模の適正化の努力義務が都道府県に掛かっているところでございまして、このため、定員割れの場合においても、教育委員会が配置する必要があると判断することもあり得ます。
また、公私間のこの学校数と生徒数、その割合、地方自治体によって大きく異なっているところでございまして、こうした点を踏まえながら、各地域における高校の在り方につきましては、各都道府県において、例えば公私間での協議も行っていきながら、地域の実情に応じた適切な配置及び規模を御検討いただくものと考えておりまして、また、今回の三党合意の中におきましては、公立高校などへの支援の拡充を含む教育の質の確保も論点の一つとされまして、引き続き三党の枠組みの中で合意内容の実現に取り組まれるものと承知をしているところでございまして、文部科学省としては、その状況も踏まえながら、高校教育のこの質の確保に向けた必要な取組を進めてまいります。
斎藤議員 大阪府内の公立高校、私立高校の希望率、志願者数のこの十年間の推移なんです。特に公立の志願者数は十年で一万四千人減っている。それは、全体のキャパは減っていると思いますから、一定程度減るのは仕方ない。でも、私学は二千七百人増。公立の希望率は一〇%以上下がり、私学の単願、専願率は一〇%上がっていると、こういう状況が示されています。
この最大の要因は、一つにはやっぱり私学の無償化もあるんだろうというふうに思っています。子供が減るから定員割れは仕方ないなどという物言いは私は看過できません。子供が減れば、公立も私立も、どこの県でも定員そのものを減らしているわけですから。であるにもかかわらず定員割れが起きている。これ、聞くところによると、私学の側でも結構あるということなんですけど。
このことをやっぱり、大阪のこの状況と高校無償化の関連を、何というかな、きちんと精査をした上で政策的な議論をすべきだというふうに思っていますが、立案に当たってこうした政策的な議論というのは文科省内で本当になされたんですか、これ。
初等中等教育局長 御承知のとおり、高等学校の就学支援金制度は国が一定水準まで実施をしていると。その上乗せとして都道府県がそれぞれの自治体の状況に応じてそれぞれの支援額をしているという状況の中で、今回の三党合意において、いろいろ三党間で議論をされたと。
そういう中において、今、斎藤先生が御指摘いただいたような私立の授業料を大幅に拡充をしていくということの影響というものを、我々としては、東京や大阪といった先行事例などについて客観的にどうかということにつきまして、なかなか自分たちの分析は難しいところがございますので都や府の方にお伺いしましたけれども、ただ、はっきりしたことはやはり返ってはきていないという状況でございます。
ただ、今回の三党合意で決まった内容について、今後やはりもう少し具体化、深掘りをしていく中において、我々としてはそうした先行事例の課題や成果というものもしっかり捉えながら、三党での検討というのをしっかり私たちは踏まえながら具体化をしていく必要があるかなと思っています。
斎藤議員 全面的に否定しているわけじゃないんです。
やっぱり、そういう政策としてどうなのか、どんな影響があるのかというやっぱりそういう議論、特にこの教育政策についてはそういうのをした上で慎重に、慎重に事を進めていかないと、もう子供たちの人生なんて一瞬ですよ、その高校生の時代は。だから、そのことをちょっと申し上げているので、まだ時間はあると思います、全面的な実施までは。是非そういった議論をしていただきたいと思います。
もう一個の問題点は、今おっしゃられましたけれども、文科省の調査を見ると、全国に千二百九十五校ある全日制の私立高校のうち、東京に二百十八校、大阪が九十四校です。この二つの都府で実に四分の一です。
最も少ない徳島県は三校、秋田県は五校です。これに通っている生徒数を勘案すると、結果的に多額の税が大都市圏に集中するわけですね。
今回の予算の四分の一は東京と大阪に行くんですよ、先行実施をしている。ということは、東京と大阪は先行実施しているから自治体の負担は減るじゃないですか、明らかに。こんなの公正な税の使い道として正しいことですか、これ。私はそうは思いません。地方創生という考え方からいっても、全く真逆のことだというふうに思うんですね。
こういう地方と大都市間の格差、本来は是正をするために、税収も含めてですよ、是正をするために税があるのに、それを助長するような政策を政府として打ち出して、そのことを文科省が看過をしているというのは問題だ。大臣、一言言うべきじゃないですか、総理に。いかがですか。
文科相 今回の三党合意におきましては、教育の質の確保、また公立と私立の関係も論点の一つとされているところでございまして、引き続きこの三党の枠組みについて合意内容の実現に取り組まれるものと承知をしているところでございまして、文部科学省といたしましては、その状況も踏まえつつ、高校教育の質の確保に向けた必要な取組をしてまいります。
斎藤議員 令和六年度の都道府県別の高校の授業料、私学の全日制高校なんですね。見てのとおりですよ。第一位は大阪ですね、大阪です。これ、一体何を示しているかというと、私なりの理解ですけれど、これやっぱり、現在の支援のベースが大阪六十万円、これが六十三万円に増額されるんですかね。
授業料の平均というのは、それとほぼ同じなんですね。それは、普通に考えれば当然だと思います。どうせ支援されるんだから、その範囲内で授業料を各学校は上げようとする。そういう学校も当然あってしかるべきだし、私が経営者でもそうするだろうというふうに思います。
今年から支援を拡大した大阪の例を見ると、私学の十九校が入学者の授業料を値上げしているんですね。
例えば福井県や秋田県、沖縄県、石川県という、いわゆる私学の授業料の低い地域がありますが、今回一律的に支給をされる額というのは、本来は個人に帰属するものだけど、そうではなくて、支給自体は学校に支給されるわけですよね、これ。ということは、その範囲内でやっぱり授業料を便乗的に値上げをしようという学校が出てきても不思議ではないと思います。
このことについて、何らか対策なり対応を考えてみえるんでしょうか。
文科相 一般論で申し上げますけれども、教育基本法の規定の趣旨に鑑みまして、特に私立高校の授業料を含む経費に関しましては、私立高校の建学の精神に基づく自主性の尊重、また支援の拡充に伴い、この合理性のない授業料の値上げ、いわゆる便乗値上げでございますが、これが行われないようにする観点にも留意する必要が、まさに委員の御指摘のようにあるというふうに思っております。
いわゆるその便乗値上げを防ぐための方策に関しましては、本年度から取組を開始いたしました大阪府、東京都の先行事例の成果、また課題も踏まえながら、高校教育全体にとって意味のあるようにしっかりと検討を進めてまいりたいというふうに思います。
斎藤議員 私見を申し上げます。
公立も私立もウィン・ウィンじゃないといけないと思うんですね。であれば、例えば授業料については、所得制限を全て撤廃をした上で、現行の公立校基準、十一万八千八百円、これでもう支給は統一をする、私学も全部統一をする。私立高校には、所得制限を設けた上で上乗せで支給をする、まあこれはいいでしょう。
私立高には人件費やそれから施設費として今私学助成があるわけですから、これを増額して支援を強化していく。公立高校には、私学の所得の上乗せ分ですよね、年収に応じた、この積み増し相当分を施設費として、あるいは教育充実費として、先ほど大臣おっしゃったように、公立高校の充実のための支援として交付をしていくと。
こういうことをしないと、もうどこからも文句が出るんですね。だって、それは、ある方は、そんな公立高校努力が足りないんだと言うけど、公立高校の校長先生がどんなに努力したって、施設が古いのは新しくなりませんよ、こんなの。公立高校の校長先生や職員がどんなに努力したって、そこだけ質のいい教員は集まりませんよ、そんな。そうじゃないですか、予算権があるわけでもないし。
だから、一定程度やっぱり行政の側が支援をする必要があるんですよ、当然。そこのところをやっぱりバランスよく考えていかないと、せっかくのこの高校無償化のプランというのが、もう本当に一部にだけ偏った、偏重した納得感のないプランになってしまう。
まだ時間があるので、このことについては、是非様々な観点からも、もちろん自民党さんや公明党さんや維新さんも含めて幅広の議論をしていただきたい、これありきではなくて。
文科相 公立高校に関しましては、高校教育の普及及び機会均等を図りながら、それとともに、地域のそれぞれの人材を育成するというまさに重要な役割を担っていると私も認識しているところでございまして、今回の三党合意の中では、専門高校を含む、公立高校などの支援の拡充を含むこの教育の質の確保、多様な人材育成の実現、公立と私立の関係など、様々な論点につき、引き続き三党の枠組みで合意内容の実現に取り組まれるものと承知をしているところでございまして、文科省としては、その状況を踏まえながら、安定財源の確保と併せながら、必要な取組をしっかりと進めさせていただきながら、委員の御指摘の点に関してはしっかりと受け止めさせていただきます。