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エネルギー問題をどう考える?教科間連携で育む主体的・対話的で深い学びの実現【第4回】

7面記事

企画特集

企画・制作=日本教育新聞社
協力=原子力発電環境整備機構

 子どもたちにとって、エネルギー・環境問題は未来を生きるための切実なテーマの一つ。課題を「自分ごと」として認識し、未来を考える力を伸ばすには、学校の授業が重要な役割を果たす。東京の中学校・高校に勤務する理科教員で構成する「エネルギー環境教育を推進する会(ESK)」は、中学校から高校まで連続した学習を意識して、放射線教育のあり方をテーマに実践研究を続けている。学年や教科、校種を越えた効果的な指導計画や教材を提案。他県の教員との交流なども活発だ。

原子力を軸に発展した科学技術を学ぶ必要性

 人類は19世紀末から原子の構造や性質などを解き明かし、20世紀には原子力開発の歴史を歩んできた。21世紀を迎えるにあたり、原子力を軸に発展してきたサイエンスとテクノロジーを中高生が体系的に学ぶ必要性がある―。世田谷区立千歳中学校の青木久美子主任教諭は、「エネルギー環境教育を推進する会(ESK)」を立ち上げたきっかけをこう振り返る。
 同じ課題意識を持つ、世田谷区立駒沢中学校の内藤理恵指導教諭、都立鷺宮高校の瀧渕岳教諭とともに密度の高い研究活動を続けている。
 同会のメインテーマは、中学校から高校までの連続性を意識した放射線学習のカリキュラム開発だ。生徒が多面的・多角的に問題意識を持ち、将来の社会課題に向き合うことができるよう、高レベル放射性廃棄物の処分問題も扱う。
 月に1回の月例会を中心にテーマに沿った指導計画の検討・作成、学会発表の準備や情報交換を行う。現在は、原子力発電環境整備機構(NUMO)がオンライン会議のホスト役となり、地層処分事業の最新情報の提供を受けたり、コロナ禍でも授業開発研究を続けたりしている。

青木久美子主任教諭(中央)、内藤理恵指導教諭(左)、瀧渕岳教諭(右)

プラスアルファの「発展」で授業はできる

 昨年度はカリキュラムマネジメントの視点から、中学校3年間と高校理科における放射線教育の指導事項の系統性を整理し、指導計画を一覧表にまとめた。
 現行の中学校学習指導要領・理科で放射線を扱うのは2学年の「電流」と3学年の「エネルギーと物質」においてだが、それらをつなぎ合わせただけでは学習は深まらない。
 学習指導要領が示す「現代的な課題」を、高レベル放射性廃棄物の地層処分にすることで、生徒が課題解決に向けて多面的・多角的に考える環境を用意することができる。そのためには、学年や校種、教科を横断した指導が必要と捉えた。
 例えば、1学年の「光と音」で光がプリズムなどによっていろいろな色に分かれることを学んだ後に、発展的な内容として可視光以外のガンマ線や電磁波にふれておく。それだけで、2学年で放射線を学ぶときに、1学年で学んだ光の内容を想起させることができる。
 さらに1学年の「生物の特徴と分類の仕方」で、脊椎動物と無脊椎動物をエックス線写真を用いて分類すれば、2学年の「放射線の利用」や3学年の「遺伝子の本体」の理解がスムーズになる。
 このように、学習指導要領から放射線教育につながる項目をていねいに読み取り、実際の授業で実践しながら、子どもの中で学びがつながるような指導イメージを固めていった。
 昨年度、2年生を教えてきた内藤指導教諭は今年度、3年生の理科の最終単元で地層処分の授業を行う予定だ。NUMOの中学生向け基本教材「高レベル放射性廃棄物について考えよう」や、オンライン上の動画教材、NUMO職員による出前授業を活用しながら、生徒たちの放射線に関する知識や概念を豊かに広げるのが目標だ。年度末に「持続可能な社会」で単元が共通する社会科と連携した授業の可能性にも挑戦したいと意気込む。

教科や学年を越えて、らせん状の学びを構築

 今後の目標は、「物理基礎」を中心とした高校理科の諸科目、また他の教科と接続させた中高の包括的な放射線教育を検討することだ。子どもたちが学年や教科を越えて少しずつ、複数回にわたり「らせん階段」を上るように放射線について学び、高レベル放射性廃棄物の処理問題を、自分ごととして解決しようとする意欲や姿勢を育てられるカリキュラムを提起したい考えだ。
 同会では、冷却と加熱を制御する電子部品「ペルチェ素子」を活用した霧箱の製作、福島県や沖縄県石垣市の中学理科教員との交流、高レベル放射性廃棄物の処分問題に関心を持つ人を対象としたオンライン・サイエンスカフェの試行など、教材開発や広報活動も積極的に行う。
 担当する学年や職層、校種の異なるメンバーが集う会だからこそ、刺激を受けながら知見や学びを共有でき、授業のスキルアップが図れる。何より、生徒の学んだことが人生や社会に活きるよう、よい授業をしたいという願いが研究の原動力だ。
 「エネルギーを巡る議論は我々の世代以降も続く。その中で原子力の議論は避けては通れない。子どもたちが大人になったときに、建設的な議論をするためは放射線に関する正しい知識が必要だ。現行の教育課程の範囲の中で、工夫をすれば放射線に関する話題を提供できることを、多くの先生に広めていきたい」と瀧渕教諭は話す。

「ペルチェ素子」を使った霧箱の製作

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