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二つの新テストへ要望

13面記事

高校

柴田 誠 全国高等学校長協会大学入試対策委員会委員長(東京都立大泉高等学校・附属中学校統括校長)

 導入時期が明示されていた「高等学校基礎学力テスト」(仮称、平成31年度予定)と「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称、32年度予定)の概要が見えてきた。高大接続システム改革会議に高大接続改革の実現のための具体的方策として示された。全国高等学校長協会の大学入試対策委員会委員長を務める柴田誠・東京都立大泉高等学校・附属中学校統括校長に両テストの在り方などについて聞いた。

「高等学校基礎学力」
実態に合う学力を保証
指導改善にデータ貴重

 ―高大接続改革が推進され、高校教育が大きく変わろうとしています。高大接続をつなぐ二つの新テストや、指導の仕方も含めた次期学習指導要領での大きな変化が予想されています。高大接続改革をどう見ますか。
 これからの子どもたちをどう育てるかを考えたとき、学習意欲や学習時間に乏しい大学生の実態、学習時間が落ちている高校生の実態があります。その一方で、海外で活躍できる人材育成が求められています。識者が指摘するように、海外に行かなくとも、いずれ内なるグローバル化が進行すれば、異文化を尊重し、多様な人々とコミュニケーションが取れ協働できる人材の育成は必至です。これからの日本を支える若者を育てる方向性としては賛成です。あとは、方法論です。

 ―「高等学校基礎学力テスト」などの概要が示されました。このテストについては。
 これだけ高い進学率の中でさまざまな生徒を受け入れる高校は、生徒の実態に合わせて、さまざまな工夫をしています。しかし、多様な高校にあって、学力の一定基準、どこまでを保証するかという共通認識については、現場として必要性を感じているところです。
 例えば、東京都では早い段階から、学習指導要領の内容・項目ごとに具体的な学習目標を示した「都立高校学力スタンダード」に基づいた各校の取り組みを進めています。その際、普通科目について多様な学校の設置目的・習熟の度合いに配慮し、「基礎」「応用」「発展」の3段階で作成するなど、学校の実態に合った学力の定着に努めています。これまで高校に入学している生徒たちに最低限、これだけの学力を付ける、はっきりした基準を持ち合わせてこなかった面があり、こうした課題に応えようとするものです。今回の「高等学校基礎学力テスト」も同様に受け止めています。

 ―「高等学校基礎学力テスト」の参加などについては。
 参加は個人の希望が基本になりますが、各都道府県によって、あるいは学校によって、その使い方は、変わってくるのではないでしょうか。基本的には、学力中間層から下をターゲットにした問題の作りになってくるでしょうから、いわゆる進学校などでは受けない学校も出てくるかもしれません。中間から下の学校がどう活用するか、都道府県がどう判断するか。現行の学習指導要領自体も、現在の高校生全体を考えたときには、かなり高いレベルを要求している部分があります。ですから、「高等学校基礎学力テスト」は使い方によっては、相当効果的に働く学校もあると思います。
 また、希望する生徒、学校が受けるテストとはいえ、外部から要求されることもあるでしょう。例えば、大学側が「高等学校基礎学力テスト」の成績段階でこれ以上と指定してくる場合もあれば、弊害的な面も出てくるかもしれません。
 ただ、このテストを使って各学校、各教科が指導改善する時には、内部的なデータとして貴重なものになります。本質はここにあります。これをはき違えて、大学側の要求だけが高まると、違った性格のものになってしまいます。
 今の議論では、大学入試に活用する場合に、「原則として2年次の結果は活用しない方向で検討」ということになっていますので、一安心しているところです。2年生の成績を活用、ということになると2年次からの教育活動が壊れてしまいかねません。

 ―「年複数回」についてはいかがですか。
 一つ心配していたのは、最初のころの議論で、高校卒業程度認定試験との併合などがあったことです。今のところ、それぞれを独立したものと扱っています。本当にベーシックな学力を測ろうとするのは、一般の模擬試験のような外部試験ではなかなか難しいですが、「高等学校基礎学力テスト」ではベーシックな部分を押さえています。
 受験も複数回必要ですが、あとはタイミングの問題です。学校行事の兼ね合いもあります。指導する時間が取れるか。生徒が落ち着いて受験できる時期にすることは必要です。

 ―いつごろであれば、よいでしょうか。
 「夏から秋」ということですが、就職する生徒もいます。8月には解禁です。この生徒たちにもテスト結果が必要ということであれば、7月。ただ、短時間で採点できる体制には課題があるようですから、この辺りはこれからの議論になるのではないでしょうか。
 また、推薦入試やAO入試などもあります。ゆくゆくは一般入試に統合されるという方向のようですが、まだこうした入試は残るようですから、本来ならば夏休みに入ってから1回目、と思います。

 ―このテストは十分生かされる可能性はありますか。
 前述しましたが、東京都では学力スタンダードで先行しています。調査結果が出たときに、指導改善につなげることが大切です。私は「治療」と呼んでいますが、教科ごとに生徒にどう「治療」していくか。まだ始まったばかりですから、治療技術が十分でない面があります。しかし、本来はそこを「治療」するのが、学校現場の使命です。
 「高等学校基礎学力テスト」に「義務教育段階の内容も一部含める」としています。つまずいたままの状況で高校に来た生徒もいますので、こうしたテストを一つのきっかけとして、「治療」が施せる機会にしたい。そうした学校をつくっていきたいという全国的な流れは評価されるのではないでしょうか。

「大学入学希望者学力評価」
大学側、足並みそろえて
継続・安定的に作問を

 ―「大学入学希望者学力評価テスト」では、知識・技能に加えて、「思考力・判断力・表現力」を重視して評価するとしています。
 若者の育て方は概論としていいと思います。ただ、その測り方としてどうなのか。今までは、きちんとした学力、教養を付けましょうという方向で進んできて、例えば都立の高校生を見ても、10年前に比べ、全体としてかなりレベルの高い学力、教養が付いてきています。これは進学実績などからも明らかです。そう考えたとき、知識・技能はきちんと押さえてほしい。われわれもこの10年、一生懸命にそのためのノウハウを蓄積し、定着させてきました。ただ、このままではいけないというのも感じているところです。
 知識・技能レベルも押さえながら、なおかつ思考力・判断力・表現力を見てもらいたいというのは、当然です。高校現場が知識偏重のようにいわれることがありますが、いろいろな工夫はしています。
 また、高校側も思考力・判断力・表現力を見てもらうための準備はしていかなければいけない。ノウハウや指導時間の確保を含めて改善していくつもりです。
 一方で、大学側も足並みをそろえて、この高大接続改革を受け止める体制を取ってほしい。国立全体で同じ方に向き始め、私立も単独で新しい入試の方向を打ち出しているところも出てきました。しかし、こうした変化を受け入れられない大学が出てきたとき、受験を希望する生徒もいますので、従来と同じような指導もせざるを得ません。
 なおかつ面談や集団討論、小論文、プレゼンテーションなどの指導も高校に求められます。
 大学側もこれからの若者の教育には高大接続改革が目指す教育が必要だと、全体で受け止めてくれることが必要です。
 高校側も時間的な工夫をしていますが、現行の学習指導要領では無理がある実態も知ってほしい。
 思考力・判断力・表現力を育成するノウハウは、高校でも未熟な面はあります。集団面接を指導するノウハウや時間が、今現場にどれほどあるか。家庭の経済力の差によって受験準備に大きな差が出てくるかもしれない。これは公立高校としてはつらい。塾や予備校に行けない生徒でも面倒を見ていくのが、公立の使命でもあります。
 英語などの外部試験は料金が高い。生徒にすれば、複数回受けたいでしょうから、家庭の経済力の差が進路の格差につながらないような工夫もしてほしい。
 大学側で、きちんと集団面接などで生徒を見ていく、人と時間と場を確保できるかという課題もあります。私見ですが、大学は秋入学などを導入して、2〜3カ月かけて生徒をじっくり見て、選抜する方法もあるのではないでしょうか。

 ―特色のあるAO入試など、大学も改革を続けていますが、今のところ、その受け入れ枠は小さいものにとどまっています。
 私立も国公立も足並みをそろえられるのか、あるいは、新しい形式での入試による門戸がもっと広いものに変わっていかない限り、小手先の改革に終わってしまわないかと危惧します。東京大学が推薦入試で100人程度を取るというのは、歴史的な快挙なのだと思います。高大接続改革、入試改革、高校や大学の教育の改革というからには、それが広がらず、100人程度のままに終わってしまったら、今までのAO入試対応と同じなのではないでしょうか。本当の改革につながるのか、大学側の覚悟が重要だと思います。

 ―「大学入学希望者学力評価テスト」での「思考力・判断力・表現力」を問う問題などの懸念は。
 今の中2がプレテスト、中1が本試験。継続的、安定的に作問を提供してもらえるのかという懸念はありますが、一方で、われわれの方も経験が全くありません。プレテストなど、いろいろな情報を仕入れながら、白紙の状態から勉強していきます。
 本校は中高一貫で新たにスタートし、当初から中学校のカリキュラムは力を入れて作り込みました。「探究の大泉」と称して、探究学習を中学時代から重視しています。例えば、遠足一つにしても、自然、歴史や人物などを調べ、現地でもさらに学ぶ。事後学習をして、相互の発表につなげています。課題の発見、解決のための学習、人前での発表と一連の流れで、3年間訓練を積みます。いろいろな行事でも、この流れを取り入れています。
 もう一つの強みは土曜講座。その道のトップクラスの人たちに来てもらい、生徒たちに刺激を与えてもらう。これも3年間実施しています。
 表現力でいえば、劇団の人を招いて、発声から立ち居振る舞いまで指導してもらっています。そのせいか、昨秋の文化祭の中3の出し物は、全て演劇になりました。
 集団でのディスカッション、英・数での少人数授業は1クラス2展開で実施し、強みはあります。年度内には新テストの内容がある程度固まるでしょうから、それを見ながら今後は対応策を考えていきたいと思います。

 ―他に改革に向けての要望は。
 「大学入学希望者学力評価テスト」は現行の学習指導要領下と新学習指導要領下とに分けて、構想されており、新教育課程になった時を見越して、新テストが本領を発揮するような制度設計の流れになっているのは、ありがたい点です。
 また来年度の大学入学者選抜実施要項は例年になく、大きく変わっています。5年後を見据えて、文科省でも、段階的に入試改革が円滑に進むよう早めの対応を取っています。
 これに合わせて、いろいろな大学に改革の動きが出てくるといいのではないでしょうか。
 高校側は今までの改革に対しては、学校週5日制や総合的な学習の時間の導入などでも、かなり柔軟かつ懸命に対応してきました。今後も将来の日本の若者像を見据えながら改善していく姿勢が重要です。
 各大学の経営の問題もあるでしょうが、今回の改革は大学の入り口の問題だけではなく、大学教育の中身が変わってこそ、最終的に成功したといえるのではないでしょうか。

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