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【寄稿】ニッポンが抱える不登校問題へのメッセージ

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論説・コラム

筆者の島崎さん(中央)。招待されたホームパーティで

 オランダ在住のフリーライター、島崎由美子さんから、日本の不登校問題についての論考が届いた。島崎さんは現在、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、日本に一時帰国している。

 不登校・引きこもりの子供とそれを見守る親。互いが自分を責め家族内が孤立してしまう不登校問題は、周囲にも理解してもらえないことが珍しくありません。
 特にいじめは深刻であり、この世に生を受けて何年も生きていない子供の心を蝕み、自ら生命を絶つということを社会は何としても防がねばなりません。
 そのためにニッポン各地では、父母・教職員・専門家らが相互交流を深め、連携してこの問題に取り組む組織が活動しています。しかし、社会は私世代から続いているいじめをいまだに防ぐことができていません。
 私は、親や社会がその状況をつくってきたことに思いを馳せながら、学校に行かないのは良くないとされてきた社会環境が強い影響を及ぼしてきたと考えています。
 そして、不登校の児童生徒を学校復帰させようと取り組むこれまでの施策は、今、まさに大きく変わり始めているのだと思います。

 教育は、子供にとって義務ではなく権利であり、子どもの権利条約で定められているように休む権利があり、自分に合った教育を選ぶ権利もあります。このことは、学校以外にも多様な場があることを含めて広く子供達に周知していくべきです。
 そして私は、学校以外の場でも安心して成長していけるようなコミュニティ作りこそが、加速する不登校問題の解決の糸口ではないかと考えています。ニッポンの成育環境を私の持つ「外視鏡」で覗くと、高度に競争的な教育社会に存在する子供達は、不全感や満たされない心、自己否定、歪んだ面白さへの欲望などを増幅させているように見えます。
 それはまるで子供達からのSOSであり、精神的荒廃をもたらしている社会と大人達の問題であると感じます。
 私の海外移住経験によれば、ニッポンと海外では「個」に対する考え方や扱い方が大きく異なっています。特にオランダでは、子供達が幼い頃から自分で意思を決定できるよう徹底した個人主義社会の中で育てられています。
 子供は大人同様、「自分が決めたのだから」と相手を尊重し、互いが認め合った後でも議論し合います。男の子も女の子もみな自分の意見を持って常に自己をアップデートできる環境が与えられています。
 私は、ニッポンに帰国して西洋化したままの態度でニッポン人に接すると、女性が自己主張する事の難しさ、風当りの強さを痛感させられます。
 オランダの学校や社会は、相手の容姿を口にしたり、学歴や人格を否定することがマナー違反として徹底的にディベート教育されており、私自身がオランダ人と議論を白熱させても、軽蔑されたり人格を否定されたことは一度もありません。

 近年、集団主義ニッポンの社会において少しずつ、「個の理解と共有」が進んでいるように感じられますが、自己形成期に立つ子供達が他者と比べて自他批判せず、個の存在と自己肯定の尊さを深く学び、「多様への寛容性」を育んでいけるよう、子育てや教育の環境を構築してほしいと思います。
 そして、束縛と拘束のない相互関係を積極的に共有する自由の精神と全ての人間が法的・政治的・経済的・社会的に、公平かつ同等に扱われるようになることを強く志向する社会づくりにスポットライトを当ててほしいと願います。子供達がそのような環境に身を置くことで、自らが自由と平等を深く理解し、人種・肌色・言語・文化・モラル等の多様性をリスペクトする心を育み、人の弱い心の複雑さと尊さに寄り沿って生きていけるように成長していくことこそ、不登校問題解決の基盤となるのではないでしょうか。
(島崎由美子)


島崎さんがオランダで介護していた女性の孫たち

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