松本洋平文科相に聞く これからの教育 創刊80周年に寄せて(動画あり)
7面記事
一人一人の可能性を伸ばしたい
本紙創刊80周年を迎えるに当たり、松本洋平文科相が単独インタビューに応じた。少子化や不登校の増加、教員の働き方改革、デジタル化の進展など、教育を取り巻く環境は大きな転換期にあるとの認識を示す松本氏。こうした中で何を変え、何を守るべきか。現場の実情を踏まえた政策の方向性や、日本の教育の強み、次代に向けた展望について聞いた。
大きな変化の時代に変革と継承意識し教育改革
―日本の教育についてどのような点に危機感をお持ちでしょうか。
まずは、日本教育新聞が80周年という節目を迎えられましたことに、心からお慶びを申し上げます。
我が国は資源に乏しい国であるといわれていますが、その日本を支えてきたのは、まさに「人の力」であると考えています。そして、その「人の力」を支えてきたのが教育であり、教育行政です。そうした意味において、教師の皆さまをはじめとする教職員の方々のご尽力が、日本社会をこれまで築いてきたと言っても過言ではありません。
その教育を支える存在として、日本教育新聞が80年にわたり歩みを重ねてこられたことに、改めて敬意を表しますとともに、これまでのご尽力に深く感謝申し上げます。
この80年を振り返りますと、それぞれの時代における社会や情勢の変化の中で、求められる教育の姿があり、それを現場の皆さまの力によって形にし、子どもたちに提供してこられた歴史でした。
その上で、現在の我が国の状況を見ますと、まさに大きな変化の時代に入っています。不登校の児童・生徒数の増加や、自ら命を絶つ子どもたちが依然として多いという現状は、極めて重い課題です。こうした問題に対し、教育としてどのように向き合い、対応していくのかは、非常に重要なテーマです。
私どもとしても、現場の声を丁寧に受け止めながら、子どもたちを支えるとともに、日々現場で子どもと向き合っておられる教職員の皆さまをしっかりと支援できるよう、全力で取り組んでまいります。
社会全体を見渡しますと、人口減少という大きな構造変化が進行しています。これに伴い、児童・生徒数の減少が続く中で、学校や教育環境をどのように維持・発展させていくのかも、大きな課題です。
加えて、デジタル技術やAIなどの新たな技術が急速に社会に浸透する中で、これらに教育としてどのように対応していくのかも、重要な論点です。
私自身の危機感としては、このような社会の変化に対して、教育がどのように応えていくべきかという点にあります。一方で、社会の変化に合わせて教育も変えていかなければならないという側面があると同時に、決して変えてはならないもの、守るべき価値もあると考えています。
従って、変革と継承の双方を意識しながら教育改革を進めていくことが極めて重要です。
何より、教育を実際に担っておられるのは現場の教職員の皆さまです。現場の先生方のお考えや思いをしっかりと受け止め、それを施策に反映させていくことが不可欠です。いかに立派な改革を掲げたとしても、それが現場に届かなければ意味がありません。
そのような問題意識と危機感を持ちながら、文部科学大臣としての職務に取り組んでいます。
主体性、協働性育む学び 日本の強み、海外からも評価

―就任から半年が過ぎました。学校教育に対する見方に変化はありましたか。
学校教育に対する見方には大きな変化がありました。この間、学校現場への視察に伺う機会がありましたし、国会においてもさまざまなご質問を頂きました。また、SNSなどを通じて現場からの多様なご意見に触れる機会も非常に多くありました。
そうした中で、大臣就任以前に私自身が見ていた教育現場の姿と、現在見えている姿との間には、大きな違いがあると実感しています。
特に強く感じているのは、先生方が置かれている厳しい勤務環境についてです。この点については、本当に多くの切実な声を頂いています。
一方で、先ほど申し上げたような社会の大きな変化の中にあっても、現場の先生方がさまざまな創意工夫を重ねながら、懸命に教育活動に取り組んでおられる姿を、これまで以上に目にする機会が増えました。
そのような現場の実情や努力に直接触れる中で、この半年間で見えてきたものは非常に大きく、自分自身の認識も大きく変わってきました。
―先ほど大臣から「変えてはならないものがある」とのお話がありました。そこで改めてお伺いします。日本の教育の強みはどのようなところにあるとお考えでしょうか。
国際的な学力調査などを見ても、日本の初等中等教育は学力の面で非常に高い水準を維持している点です。これは我が国にとって大変重要なことであり、日本の学校教育の優れた側面の一つです。こうした成果は、現場の先生方のご尽力の賜物であり、今後も伸ばしていくべき大切な強みです。
同時に、教育は単に学力の向上にとどまるものではなく、社会性や人間性を、さまざまな体験を通じて育んでいく営みです。そうした観点に立ったとき、我が国の教育が近年、海外からも注目されていることを、私自身、今年1月にエジプトを訪問した際に強く実感しました。
例えば、子どもたちが自ら教室を清掃する活動や、学級会などを通じて、主体性や協働性を育んでいる点は、学力にとどまらない学びとして高く評価されています。こうした教育の在り方は、日本の大きな強みであり、改めてその価値を認識したところです。
このような強みは、今後も大切にし、守っていかなければならないものです。
デジタル技術やAIの進展により、社会は大きく変化しています。これらの技術は確かに利便性を高める一方で、だからこそ、人と人との関わりといった、いわばアナログな価値の重要性が一層高まっているのではないかと感じています。
そうした人間関係や対面での学びの大切さを教える場としての学校の役割は、これまで以上に重要になっていくと考えています。教職員や友人との関わり、さまざまな活動を通じて得られる学びは、今後さらに価値を増していくべきものです。
これらの強みについては、単に維持するというだけでなく、社会の大きな変化の中にあって、意識的に、より強く守り育てていかなければならないものではないかと感じています。
子どもたちの自己実現へ 経済的負担を軽減
―現在、文科省として特に優先的に取り組んでいる施策についてお聞かせください。
教育は人間形成において極めて重要な役割を果たします。学力の向上も重要ですが、最も大切なのは、それぞれの児童・生徒が持っている可能性を最大限に伸ばしていくことです。そして、子どもたちの自己実現につながるような教育を実現していくことが重要です。
そのための施策として、例えばいわゆる高校の授業料無償化や学校給食費の抜本的な負担軽減など、教育にかかる経済的負担の軽減に取り組んでいます。大臣に就任した際にも申し上げましたが、家庭の経済状況など、子ども自身の努力では乗り越えることができない要因によって教育格差が生じる社会は、変えていかなければなりません。
こうした観点から教育改革を進め、子どもたちの可能性が外的な制約によって制限されることなく、しっかりと伸ばされる環境を整えていく必要があります。
加えて、社会の変化が非常に激しい時代にあって、そうした変化に対応できる力を子どもたちに育む教育も極めて重要です。
子どもたちに何を教えるかという観点では、現在、学習指導要領の改訂に向けた議論を専門家の方々にお願いして進めているところであり、その在り方についてしっかりと見直していきたいと考えています。
同時に、教育の担い手である教職員の皆さまが置かれている状況にも目を向け、改善していく必要があります。教職員の働き方改革を進め、子どもたちに向き合う時間を確保していくことが不可欠です。
具体的には、中学校における35人学級の実現に向けた法整備を進めてきましたし、いわゆる給特法の改正による処遇の改善や職務の見直し、体制の整備などを通じて、学校の働き方改革を進めます。
こうした取り組みを通じて、結果として子どもたちの可能性を広げていくことにつなげていきたいと考えています。
初等中等教育にとどまらず、高校教育や高等教育も含めた一体的な改革を進めていくことも重要です。人口減少や少子高齢化が進む中で、地域や社会を支える担い手として子どもたちが成長していくことは、我が国にとって極めて重要な課題です。
そのため、教育全体を通じて、子どもたちの成長と可能性を支えていく取り組みを進めていきたいと考えています。
ウェルビーイングが実現される社会目指し
―政治家としての思いについてお聞きします。次の世代の子どもたちに、どのような社会を託していきたいとお考えでしょうか。
将来を見据えたときに、子どもたちが自らの可能性を大きく広げていけるようにしていきたいと考えています。そして、その可能性を生かしながら自己実現を図ることができる、そうした社会を残したいのです。
子どもたちが自分の努力だけでは乗り越えることができないような壁については、できる限り取り除いていくことが重要です。そのことによって、子どもたちの将来の選択肢が広がる社会を実現していきたいと考えています。
とりわけ、社会が大きく変化している現在においては、「教育振興基本計画(第4期)」のコンセプトにもあるように、子どもたち一人一人が社会の担い手、つくり手として主体的に活躍できる環境を整えていくことが重要です。
そうした環境の中で、自己実現を図りながら、より良い社会を築いていく力を育んでいくことが求められています。
そうした取り組みの先には、いわゆるウェルビーイングが実現される社会を目指していくことが重要です。
私個人の政治家としての考えになりますが、政治の究極の目標は、「平和を守ること」「豊かな社会を築くこと」「そして国民一人一人の安全・安心な暮らしを守ること」の三つにあります。
そのような社会を実現した上で、子どもたちが自らの可能性を十分に発揮し、自己実現を果たしながら、日本という国の中で安心して豊かに暮らしていけるようにすることが重要です。そして、その一人一人の成長が、結果として地域社会や国全体の発展につながっていく、そうした好循環を生み出していきたいと考えています。
次の世代がそのような社会の中で力強く生きていけるよう、環境を整えていくことが、私たちの責任です。
働き方改革の推進が不可欠
―現職の教職員に対して、どのようなことを期待していらっしゃいますか。
教職員の皆さまの仕事は極めて重要であり、大変崇高で尊いものです。この80年の歴史を振り返ってみても、教育の最前線を担ってこられた教職員の皆さまが、子どもたち一人一人の成長を支えるとともに、社会全体の発展を支えてこられたことは間違いありません。
このような役割は今後も変わることはなく、むしろ重要性はさらに増していくことでしょう。子どもたち一人一人にとっても、また社会全体にとっても、教職員の果たす役割は極めて大きく、欠かすことはできません。日々、最前線で子どもたちと向き合っておられる教職員の皆さまに、心から敬意を表したいと思います。
社会が大きく変化していく中で、子どもたちに教えていくべき内容も変わっていく部分があります。そうした変化を柔軟に受け止め、対応していただくことも期待しています。
一方で、教育には決して変えてはならない部分、守るべき本質もあります。その両方を意識しながら教育に取り組んでいただくことが重要です。
教職員の皆さまがその力を十分に発揮できるようにするためには、働き方改革の推進が不可欠です。働きやすさの向上とともに、働きがいを高めていくことも重要です。処遇の改善や業務の見直し、体制整備に加え、研修の充実などを通じて、教職員の皆さまをしっかり支えていきます。
校長をはじめとする管理職の皆さまには、リーダーシップを発揮していただきながら、こうした改革を現場で着実に進めていただくことを期待しています。
子どもの頃には「将来は先生になりたい」と考える子どもが多い一方で、成長するにつれてその志望が減っていくという現状があります。
このギャップを埋めていくことも重要な課題です。働きやすさと働きがいの両面から環境を整えることで、教職を志す若者の思いを実現できる社会にしていきたいと考えています。
教職員は、子どもたちの人格形成や学びに大きな影響を与える存在であり、社会の基盤をつくる極めて重要な役割を担っています。だからこそ、その仕事に誇りを持ち、やりがいを感じながら取り組んでいただける環境を整えることが重要です。
私たちとしても、教職員の皆さまが「教師になって良かった」と実感できる社会を築いていけるよう、全力で取り組んでいきたいと考えています。今後とも、ぜひお力添えをお願いしたいと思います。
まつもと・ようへい 慶應義塾大学経済学部卒業後、三和銀行(現在は三菱UFJ銀行)に入行。平成17年、32歳で衆院議員に初当選。経済産業副大臣兼内閣府副大臣などを歴任。中学生から大学生まで陸上競技に取り組み、インターハイ、インターカレッジに出場した経験を持つ。52歳。

