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東京・青ヶ島の学校から ~日本一人口の少ない村の学校での取り組み~【第22回】

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コロナ禍での運動会

 「…様々なことを自粛する中で、今まで当たり前のように行われていた運動会の重要性や全員で行うことの楽しさを改めて実感しました。こんな時期だからこそ全員で運動会を盛り上げていきます…」
 生徒による今年の選手宣誓の一部分です。生徒の言葉の中からも、新型コロナウイルスの影響で、例年通りの村を挙げての運動会が行えない残念さとそれを乗り越えていこうとする意気込みが伝わります。
 青ヶ島小中学校では、9月20日(日)に運動会を実施しました。例年、青ヶ島小中学校で行われる運動会は、村民の多くが競技に参加し、子供たちとともに大いに盛り上がり、フィナーレは青ヶ島の伝統文化である「島踊り」を参加者全員で踊って幕を閉じるという村の一大イベントです。
 今年度は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、村民の方は競技への参加を見合わせてもらい、観戦のみとしました。これまで村のすべての催し物やイベントが中止となっており、バレーボールやダンス、コーラスなどの村民のサークル活動も全て自粛している中で、多くの村民が集まる運動会は実施して大丈夫なのかという疑問も地域の一部から伝えられて来ました。
 そのような中で、子供たちの貴重な教育活動の一つとして、運動会を実現したいという教職員の熱い想いから、感染拡大防止のための様々な工夫とその徹底を図りながら実施することにしました。
 参観する村民の席と、児童・生徒・保護者の席は、離れた場所に設け、動線が交わらないようにするとともに、受付で検温し、座席は間隔を空けて座るように指定していました。応援には、声を出すのではなく、空のペットボトルを各人2本配って叩きながら音を出して応援するようにしました。
 実施競技は、診療所の医師の保健的指導を受けながら、ソーシャルディスタンスを意識して、全て見直しました。特に、児童・生徒が実施内容を考案する競技については様々な工夫が見られました。
 紅組白組の「応援合戦」の際の演技では、感染症対策を参観者に切実に訴える寸劇があったり、児童・生徒が箱の中から紙を引き、そこに書いてある条件に合う大人(保護者や教員)が呼び出されて、児童・生徒とともに競技を行う障害物競走(「借り人競争」)では、参加した大人が最初の障害として、アルコールで手を消毒するルールを設定したりして競技を行いました。消毒を忘れて参加しようとした大人は、やり直しをさせられる場面もあり、会場を沸かせていました。
 今回の運動会の開催に向けて、実行委員長として、例年、協力や参加をしていただいている村内の事業所との調整、コロナ対策の検討等、全ての大会運営の中心として取り仕切った中学校保健体育担当の天花寺正巳主幹教諭は、村民参加の運動会とコロナ対策の両立の難しさについて次のように語ります。
 「青ヶ島では、運動会は村民にとっても一大イベント。村の運動会の伝統や数少ない行事を楽しみにしている方々の想いを考えると、簡単に変更はできません。理解していただくために、全ての事業所に出向いて説明をしました。また、村の行事は全て中止にしている中で、学校の行事のみ実施することが村の方々に受け入れていただけるのかも心配でした。村の方が参観のみとなったことで、当日誰も運動会に来なかったとしたら、児童・生徒のモチベーションも低下しかねないということもとても心配でした。この村の伝統と教育活動の両立はとても難しかったです」。
一般村民の方は観戦のみであるにも関わらず、しかも大会開始直前まで雷雨で競技の実施と継続が危ぶまれた中、当日は20名程の村民の方が来ていただけました。
 「コロナで大変な中でも、子供たちの発表を見られて良かった」と参観された村民の方々が話しているのを聞いて、改めて子供たちがとても大切にされていると感じることができる運動会でした。
 《写真は、「借り人競争」で、最初の障害のアルコール消毒をしている場面。手前の児童はソーシャルディスタンスを保つため使用した長い棒に青いボールを載せて、消毒を済ませた大人を待っています。》
(木下和紀・青ヶ島村立青ヶ島小中学校校長)

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