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近代日本における「受験」の成立 「資格」試験から「選抜」試験へ

18面記事

書評

吉野 剛弘 著
予備校、雑誌の特集号にも言及

 幼児の「お受験」から大学入試まで、「受験」と名の付くものは至る所に存在している。こうした「受験」は、いかにしてこの世の中に誕生したのか。本書は、明治期の法律や公文書、雑誌記事などを丹念に検討することによって、「受験」の成立過程について、時代をさかのぼって実証的に研究したものである。
 学制発布は明治5(1872)年。近代国家たらんとする明治政府は、学校教育制度の根幹を定めた。とはいっても、初等教育・中等教育・高等教育の全てが最初から一度にそろっていたというわけではない。5年制の中学校と、その上級学校である旧制高等学校とが、実質的につながったのは明治30年代(1897年~)のことである。それは、「選抜」としての「受験」の始まりを告げるものであった。
 多くの受験生は、東京の第一高等学校を目指した。当時の高等学校は9月入学。3月に中学を卒業した受験生は、東京の各種の受験準備機関(予備校)に通い、7月の入学試験に備えた。私立大学は、本科の他に高等予備校を設け、一高の教授を講師に招いたという。中学校の受験補習科で、卒業後の受験準備をする者もいた。受験生向けの雑誌『中学世界』には、入試問題講評や合格者の声などの記事が掲載され、特集号も発行された。
 かくして成立した「受験」は、「大学全入時代」の今日にも、その影をまだ残している。
(5832円 ミネルヴァ書房)
(都筑 学・中央大学教授)

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