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フロイトと教育

19面記事

書評

デボラ・P・ブリッツマン 著
下司 晶・須川 公央 監訳
波多野 名奈・関根 宏朗・後藤 悠帆 訳
自己の内面を問い続ける教師へ

 フロイトは膨大な著作を残したが、教育について体系的に語ったものはない。だからといって、精神分析が教育と無縁であるというわけではない。むしろその逆であり、精神分析と教育とは切り離せない関係にある。
 教育学者であり、なおかつ精神分析家でもある著者は、精神分析と教育の間にある本質的な関係について丹念に解き明かしていく。
 フロイトは、精神分析をライフワークに選んだことについて、自分自身の生徒時代の心理を振り返るところから語り始めたという。学校や教師の権威について語ることを通じて、無意識の中に閉じ込められていたものを外へと引き出したのである。
 教師にとって教育とは、目の前にいる生徒とのやりとりを通じて、自らの無意識を省察していく営みなのである。もしそうでなければ、それは「乱暴な教育」として立ち現れることになるのである。
 フロイトは生涯にわたって精神分析に対する批判に応え、反論し、自らの理論を練り上げていった。フロイトが精神分析を自己分析から始めたように、教師も常に自己の無意識に敏感であることが求められている。
 教育という営みは一回性である。安易にマニュアルに頼るのではなく、自分の内面に目を向け、問い続けることが教師には求められる。本書は、その大切さを教えてくれる。
(3190円 勁草書房)
(都筑 学・中央大学名誉教授)

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