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復興庁職員と考える福島の復興「出前授業」 中学生・高校生が巡る 福島被災地視察ツアーレポート

9面記事

企画特集

西大和学園中学校・高等学校での出前授業の様子

 東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年以上が経過した今、若い世代に震災の記憶と記録を受け継ぐことが急務となっている。このため、復興庁では2022年度から全国の中学校・高等学校で復興庁職員を派遣する出前授業を行っている。2025年度は、12県16校の中学校・高等学校で実施した。また、出前授業実施後、授業参加者の一部を福島に招き、被災地を巡る被災地視察ツアーも行っている。2025年度に実施された3校の出前授業と福島被災地視察ツアーをお伝えする。

出前授業の概要

 【講義】講義ではまず、地震・津波・東京電力福島第一原子力発電所の事故による原子力災害といった経験したことのない複合災害である東日本大震災の概要や現在の復興状況を説明。放射線の性質、放射線と放射能の違いなどの基礎知識の説明を受けた後、現在の福島県内の空気中の放射線量が国内外の他の都市と比べても変わらない水準であることなどを、生徒たちは興味深く聞き入った。また、残された課題として、現在も避難を余儀なくされている方がいること、廃炉や除染で発生した除去土壌等の処理といった残された課題の説明があった。また、復興庁講師は、南海トラフや過去の震災などに触れながら、震災への事前の備えが重要であることを説明の上、最後に「今日、自分事として災害のことを考えたと思います。その考えを、ぜひ家族や友人と話してほしい」と呼びかけた。

 【グループワーク】講義のあとは、3つのテーマに沿って話し合った。①東日本大震災などのような大災害に対し、自分たちはどう行動すべきか、②福島を応援し、関心を持ってもらうにはどのような取り組みが必要か、③放射線の基礎知識や健康影響など正しく知ってもらうには、どのような取り組みが必要か。この3つのテーマから1つを選んでグループワークを実施し、発表を行った。

しっかり学んで次世代に継承する 西大和学園中学校・高等学校
実施日 10月15日(水)

 中学3年生から高校2年生までの約40名の生徒が集まった西大和学園。「被災者は新たな生活に慣れても困っている人や困りごとがあるはず。その気持ちに着目したい」「放射線は見えないから風評被害も起こる。広く知ってもらう方法を考えたい」と深く考えた。発表では、①については「災害に対する意識を上げるべき。防災センターや避難所を見に行くなど直接的な体験を増やす」「なんとなく知っているのでは下の世代に伝えられない。放射能の知識、健康への影響、復興の進行度などについて今日知ったことで今後の行動が変わると思う」と継承の大切さを強調した。②については「電車のつり革広告などで日常的に放射線について触れる機会を増やす」「SNSを使って具体的に現状を知ってもらう」「災害を印象づける観光名所をつくる」などのアイデアが出た。③については「多くの人に知識を広めるためには、義務教育の中に取り入れて学習させるのがよい」という提案や、社会的な認知度を上げることも大事だと、「アメリカの大学生が考えた”ALSアイスバケツチャレンジ“のようにみんなが参加しやすいイベントで社会現象をつくるのはどうか」という案も。
 「SNSで早く広く情報を広げることも、友達や家族など身近な人に話すことで少しずつ広めることも大事」と思った生徒たちに対して復興庁講師は、「イベントの活用など、若い世代ならではの発想を参考にしながら活動していきたい」と締めくくった。

まずは正しく知ってもらうことから 愛知県立安城東高等学校
実施日 11月6日(木)

 安城東高は対面とオンラインのハイブリッド形式で高校1年生全員が出前授業を受講。知らないことが一番良くないという声が多く、どうすれば「知る」意識を持ってもらえるか、難しいことをわかりやすく伝えられるかなど思案した。発表では、①については災害が起こる前の準備なら高校生でもできると考え、「避難訓練、避難経路、連絡手段の確認、自宅の備蓄や防備、震災直後に取るべき行動をフローチャートにする」「避難訓練の経験が不足しがちな小さい子や大人に対しても広く行う方法を模索したい」といった意見が出た。②については「支援してあげるのではなく一緒に復興する姿勢を持ちたい」と、福島産の商品を買ったり旅行に行ったりなど、福島との距離を縮めることを考えた。③については、なぜ東日本大震災後、放射線への偏見が露見したかについて考えたグループが目立ち、正しい知識を持つことの大切さを主張。「義務教育に取り入れ、低学年から良い面、悪い面、両面について学ぶ機会をつくる」「グループワークもできるような子ども主体の講演会、発表の場を作る」などの意見や、「駅など人が集まる場所で日常的に放射線量を表示し、放射線への意識を変えるきっかけに」などのアイデアも。
 復興庁講師は最後に、「安城市は、海には接していないが川を遡上して津波が襲ってくる可能性がある津波災害警戒区域。事前の備えのためにもぜひ一度ハザードマップを見てみてほしい」と呼びかけた。

中学生がアピールすることに意味がある 横浜市立南高等学校附属中学校
実施日 12月13日(土)

 2011年生まれが多い中学2年生、約160人が受講した。「災害時は助け合いが大事。普段からつながり合うには?」「福島産の食品の安全性をアピールするには?」など、自分たちにできることに頭をひねる生徒たち。発表では、①については「ハザードマップや自分の家の備蓄品の確認を継続する」「今日のような講義をできるだけ多くの人に受けてもらい、減災につなげる」「発災時に慌てないようにすべきことを優先順位でまとめておく」「災害時、通信環境を圧迫させないように、電波を適切に使う心掛けを普段から行う」、②については「農産物のブランド化をして、おいしさや安全性を知ってもらい、観光地としての魅力をアピール」「福島のいいところを発信するために、今日のような講座で正しい情報を伝える」「地震をテーマにした映画など、エンタメを利用して若者への知名度を上げる」などの意見が。③についても「放射線に関するイベントを知らせるポスターを作る」「地域で中学生が放射線について発表する場を作る」「ユーモアのある動画を作ってSNSで発信する」というように、中学生がアピールすることに意味があると考えたアイデアが多かった。
 復興庁講師は、「今日学んだことを家族や友達と話して、この160人からちょっとずつ広げていきたい」と自分事として考えてくれたことへ賛辞を贈り、「我々も、大災害の経験がない若い世代に関心を持ってもらえるようもっと工夫していきたい」と伝えた。

出前授業実施校一覧

・弘前市立南中学校
・埼玉県立浦和第一女子高等学校
・さいたま市立大宮北高等学校+さいたま市立大宮国際中等教育学校(共同開催)
・春日部市立武里中学校
・横浜市立南高等学校附属中学校
・愛知県立安城東高等学校
・西大和学園中学校・高等学校
・和歌山県立向陽中学校
・宮崎大学教育学部附属中学校
・長崎市立西泊中学校
・佐賀県立致遠館中学校
・山口県立厚狭明進高等学校
・山口県立萩高等学校
・米子松蔭高等学校
・大垣市立江並中学校
・岐阜県立大垣北高等学校

参加生徒のアンケートより感想をご紹介

・宮崎県 国立大学法人 宮崎大学教育学部附属中学校 実施日 9/19(金)
 東日本大震災を2歳で経験したが幼くて記憶に残っておらず、震災について何も知らなかった。授業を通して被災者目線で震災を捉え直せ、防災意識が高まった。          

・埼玉県 埼玉県立浦和第一女子高等学校 実施日 9/30(火)
 暗い過去、未だ続く復旧作業などマイナスイメージがあったが、学校や祭りなどが再開し、前進しているという現状を知ることができて、より興味がわき、福島の魅力を伝えていきたいと感じました。

・青森県 弘前市立南中学校 実施日 10/2(木)
 今回の授業を聞いて、改めて災害について考える機会になった。今回学んだことを次の世代に繋いで、だれも忘れることがないようにしていきたいと感じた。

・岐阜県 大垣市立江並中学校 実施日 10/7(火)
 これからは福島県のものを積極的に買うようにしたり、遊びに行ったりして被災地を応援していきたい。岐阜でも災害が起きて困らないように防災をしっかりしておきたい。

・岐阜県 岐阜県立大垣北高等学校 実施日 10/8(水)・9(木)
 今まで知らなかった福島の現状やそれに対する取り組みや現状が思ったよりも日本の人々に伝わっていないというのも知ったので、学んだ内容を家族にも共有したいと思いました。

・鳥取県 学校法人 米子永島学園 米子松蔭高等学校 実施日 10/14(火)
 過去に日本で起きた大災害については、興味があり前から本やテレビなどで見ていました。今回講義を聞いて、実際に現地に赴いて現地の方や被害に遭われた方のお話しももっと聞いてみたいと思いました。

・山口県 山口県立厚狭明進高等学校 実施日 10/21(火)
 東日本大震災について知らないことが多くあり、知った気になっていたと思いました。思い込みはせずに正しい知識を身につけることが重要だと感じました。

・佐賀県 佐賀県立致遠館中学校 実施日 10/27(月)
 東日本大震災について、家族から聞いたり、テレビの番組を見たりしていたため、ある程度知っていたつもりだったが、新しく知ることが沢山あった。物事をよく知ることが偏見や風評被害をなくすことに役立つと知り、「知る努力」「伝える努力」が大切だと思った。

・長崎県 長崎市立西泊中学校 実施日 10/28(火)
 まだ復興が全然できていないところがあることを知りました。少しでも早く復興できることを願っています。福島県産品のものを見かけたら、積極的に買いたいと思います。

・和歌山県 和歌山県立向陽中学校 実施日 11/13(木)
 現状をメディアで取り上げることが減ってきた中、この機会に現状を知れたのはよい学びになったし、これからの福島についてもっと考えたいと思った。

・埼玉県 さいたま市立大宮北高等学校+さいたま市立大宮国際中等教育学校 実施日 11/18(火)
 福島の復興活動や復興は自分が考えているよりもたくさんの取り組みやたくさんの人が関わっていると知り、とても興味深いと感じた。自分も間接的ではあるかもしれないが関わってみたいと感じた。

・山口県 山口県立萩高等学校 実施日 11/18(火)
 今までに知らなかった東日本大震災のことを知れたので良かったです。とくに復興状況や現状については習うこともなかったので、これからも次世代にむけて講義などをしていってほしいです。

・埼玉県 春日部市立武里中学校 実施日 11/20(木)
 日頃から大地震に備えて、対策をしておく事の重要性や、実際に大災害が起きてしまったときにするべき行動について詳しく知ることができました。今後に活かして行きたいです。貴重な時間を本当にありがとうございました。

 下記URLからも出前授業の詳細をご覧いただけます。
 https://www.reconstruction.go.jp/fukko-pr/2018/fukushimanoima/shiru/demae2025/

福島被災地視察ツアー
福島の良いところがたくさん見つかった!クラスのみんなに来てもらいたい

 2025年11月15~16日のツアーには、青森県から佐賀県までの11校22名の生徒と、11名の教員が、被害の実情や教訓を後世に伝えるための施設を訪ねた。

【福島被災地視察ツアー/旅程】

1日目 11月15日(土)
環境再生プラザ▶道の駅なみえ▶大平山霊園~震災遺構浪江町立請戸小学校▶東京電力廃炉資料館▶双葉町産業交流センター:震災語り部講和(岡洋子氏)・一日目の振り返り▶いこいの村なみえ/移住者講和((株)ReFruits 原口拓也氏)

2日目 11月16日(日)
東日本大震災・原子力災害伝承館▶中間貯蔵事業情報センター・中間貯蔵施設▶双葉町産業交流センター:双葉みらいラボ&ふたば未来学園卒業生による探究学習の経験について講和▶ワークショップ:ファシリテーター/東京大学大学院情報学環開沼准教授

◆環境再生プラザ
 福島第一原子力発電所事故後の環境再生の取組と放射線の正確な情報知識やこれまでの復興の歩みを学んだ。放射線の安全面を理解しつつも、除去土壌の県外最終処分の道のりの長さを知り、復興の歩みを考えるきっかけをもらった。

◆大平山霊園~震災遺構 浪江町立請戸小学校
 津波により、壊滅的な被害を受けた浪江町請戸地区。「大平山霊園」では、181人の犠牲者の名前が刻まれた慰霊碑に手を合わせ、思いをはせた。「震災遺構浪江町立請戸小学校」では、天井が落ち、壁が剥がれた教室など津波の爪痕を目の当たりにし、「自分ならどうしただろう」と想像せずにはいられなかった。「突然一気に日常が消滅した。その後の子どもたちは…と考えると涙が出てしまった。当たり前の日常をかみしめながら務めたい」という教員の感想も。

大平山霊園にて、被災者名を刻む石碑に手を合わす参加者

◆東京電力廃炉資料館
 1~4号の原子炉建屋で起きたことや問題点を運転員の目線で体感。「天災で終わらせない」という言葉が心に刺さり、「原発への不安をなくすためにできることを考え続けたい」と感じた。

◆震災語り部講話
 浪江まち物語つたえ隊・岡洋子氏の紙芝居のタイトルは『無念~なみえ消防団物語』。がれきの下の生存者に気づきながら原発事故で救助できなかった消防団員たちの悲しみ、悔しさが岡氏の声から伝わってきた。「浪江町はまだ約8割が帰還困難区域で、人口は震災前の約10分の1。福島の災害関連死は2300人以上もいた」と岡氏。「今日昼食をとった道の駅なみえ周辺はとても明るくきれいだったが、それだけで復興とは言いきれない」と感じながらも、「移住者といっしょに新しい街を作り上げたい」という岡氏の言葉に、自分にできることを改めて考えた。

◆福島移住・起業者との交流
 食事の後は、福島第一原発のある大熊町で本格的な果樹生産を行う(株)ReFruitsの原口拓也氏の講話。大学でシステム工学を学んでいたとき、大熊町のキウイ農家さんと出会ったのが起業のきっかけ。従来の栽培ノウハウとドローンによる先端的な栽培技術を組み合わせ、「10~20年後にキウイで世界を驚かします!」という原口氏。参加者たちは「おいしかったという”感動“がきっかけで起業したパワーに感動」しつつ話に聞き入った。

◆東日本大震災・原子力災害伝承館
 2日目は再び双葉町へ。原子力災害を風化させず後世に伝えていくための施設で、被害があった土地の文化・風土・風習を知るとともに、津波で流されたランドセルやハーモニカ、台座ごと流されたポストなどの被災した展示物を見た。逆境を乗り越え、復興に挑戦する福島県民の姿も知り、参加者たちは「被災の受け止め方、復興に望むことなど、個人差を考えると復興は急ぐばかりではいけない」という感想を持った。

◆中間貯蔵事業情報センター・中間貯蔵施設
 除去土壌を福島県外で最終処分するまでの間、安全に管理・保管しているこの施設の見晴台から、事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所の原子炉建屋、除去土壌を積み上げた盛土、浄化済みのALPS処理水の入ったいくつものタンクを見て、事故の大きさを肌で感じた参加者たち。実際に除去土壌の上に立って、放射線量の測定をし安全を確認。見学バスの車窓からは、震災当日のままの老人ホームや、建物が大きく崩壊し犠牲者も出た福島県水産種苗研究所も見学した。時が止まったかのような情景に、自然の怖さ、震災の恐怖を改めて感じた。

中間貯蔵施設の除去土壌の上に実際に立ち、説明を受けた

◆双葉みらいラボ&ふたば未来学園中学校・高等学校卒業生の講話
 午後はこのツアーのまとめのステップへ。まずは、今回学んだことをどうアクションしていくか考えるために、ふたば未来学園中学校・高等学校で探究学習の支援をする「双葉みらいラボ」の池端健氏、ふたば未来学園卒業生の佐藤勇樹氏、渡邉光希氏の話を聞いた。渡邉氏は、大好きだった遊び場「エネルギー館」が震災でなくなってしまったこと。佐藤氏は、福島の野菜が風評被害にあったことが活動のきっかけだという。池端氏から「自分が感じたひっかかりこそが探究の種」とアドバイスをもらって、次のワークショップに臨んだ。

◆ワークショップ
(ファシリテーター:東京大学大学院情報学環准教授開沼博氏)
 2日間を振り返って、①イメージと現実のギャップ、②考えるからアクションへ、の2つのテーマをグループで話し合い発表。①では「新しい町をつくりたいのだと思っていたら、元の生活に戻りたいという声も」「建物やインフラは進んでも、人の心や暮らしは取り戻せていない」といったギャップを感じ、震災が与えた心の負担の大きさを実感した。②では、「福島のものを購買し安全性を示す」「放射線の状況を周りの人に話す」など今すぐにできることと同時に、「大人になったらできることを調べ続けていきたい」の声があがった。開沼氏は「伝える、つながる、きっかけをつくる」という視点はとても重要とし、「イメージと現実の溝を次なるアクションに生かしてほしい」と締めくくった。

 自分の目で見ることで、震災を「今を生きる自分に起きていること」としてとらえられるようになった参加者たち。「福島の良いところをクラスのみんなにも見てほしい」と語ってくれた。

 1日目、2日目の詳しい様子は、「復興庁HP被災地視察ツアーレポート記事」をご覧ください。

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