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対談 英語教育改革どう実現

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 英語教育改革の担い手は一人一人の教員だ。どのように教員の指導力を高め、環境を整えるべきなのか。長年、文科省の英語教育改革に関わってきた上智大学の吉田研作教授と東進ハイスクールのカリスマ英語講師・安河内哲也さんが対談した。(聞き手は矢吹正徳・編集局長。文中敬称略)

大学入試を4技能型に変える
安河内 哲也 東進ハイスクール講師

 ―これまで何度も言われてきた「英語教育改革」が、ここにきて再燃しています。どのように感じていますか。
 吉田 僕は学校現場も変わってきていると思いますよ。昔からずっと問題だと思っていたのは教員の意識なんです。SELHi(スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール)とか、技術的なことをいろいろやったところで、教員の意識を変えなければ結局、何も変わらない。
 こっち(文科省の会議)だけが言っているような部分もしばらくはあったんですが、やり始めると、結構、意識が変わってくるんです。SELHiもそれなりの役割を持っていたような気がします。
 それに、いまのグローバル化の時代、産業界の影響は大きい。政府がこれだけ英語教育改革に乗り出しているのも産業界との問題が大きいと思います。日本社会そのものが生き延びていくための方策として、小さいころからきちんと外国語教育をやらなければいけないという意識になっているんじゃないですか。生徒もリスニング力が上がってきているし、英語教育の現場は変わってきていると思いますよ。
 安河内 いろんな話を聞くんですが、一番早いのは高校を見に行くことだと思って私は先日、視察に行ってきました。視察が来るから準備をしていた面もあるとは思うんですが、間違いなく学校は変わってきています。
 これまでは世の中の流れにいかに抵抗するか、いかにいままでのやり方を守るかということにエネルギーを注いでいた先生も多かったと思います。でも、特に若い先生を中心に変わらなければいけないというエネルギーが生まれ始めているのは間違いない。
 よく学校の先生の英語力の平均が低いなどと指摘されますが、あらかじめ言っておくと、私は別に、最初は低くたってよいと思っているんです。大学を卒業した途端、「英語で授業しなさい」と言われたって、できるはずがない。だから、先生は生徒と一緒に英語を学ぶ「学徒」であればよいと思う。スポーツのコーチみたいに生徒と接しながら学べばよいんです。
 私は先生が一方的にしゃべるだけの英語教育は絶対おかしいと思います。以前は先生の声しか教室から聞こえてこなかった。それもその声は全て日本語だったりする。いまは、やっと教室から生徒の声が聞こえるようになってきました。ネーティブみたいな英語でなくてもよいんです。そういう教室が一つでも増えてきたのは素晴らしいことだと思います。あとは、大学入試が変われば本当に変わります。

 ―やはり入試が変わらないと駄目ですか。
 吉田 最後の現実的な目標を考えたら、どうしたって必要ですね。
 安河内 これから小学校でも英語が始まりますね。中学校でも高校でも変わりますが、私がアンケートを取っても進学校だと高校1、2年生の約半数が英語を受験対策として勉強している。視察に行った高校でも、先生は英語でコミュニケーションしているのに生徒の机の中を見ると、受験単語集やら文法問題集が入っていた。結局、生徒の頭の中は受験に支配されるんです。入試を4技能にしなければ駄目です。
 吉田 昨年、上智大学で開いたシンポジウムでの発表なんですが、英語が好きだという子どもたちに、もっとコミュニケーションする場面の多い授業があったらよいかと聞いたら、それは「大学に入ってからでよい」と答えるという。英語が好きな子でさえ、そうなんだ。それは親や周りも言う。こういう現状がある限り、どうしても入試がネックになっているのは明らかですね。
 安河内 英語教育改革の仕事に関われば関わるほど、それがネックになって全てが頓挫してしまうと感じます。早く英語を習わせる保護者の脳裏には、良い大学に入れたいという思いが強いから、受験が近づいてくると、受験の英語に変貌してくる。大学入試も一体的に変えていかなければ、おそらく小学校英語の導入だって頓挫すると思います。
 吉田 その前に、高校受験の壁もある。どっちにしても入試が変わる必要はあります。

 ―ただ、シンポジウムでは上智大学の研究グループが各県の高校入試問題などを分析していて、これは良問だ、とかいう声も聞こえてきました。大学も同様だと思いますが。
 吉田 個別の問題自体は悪くないんですよ。ところが、出題される問題のほとんどがリーディングコンプリヘンション(文章読解)だから、結局、先生たちは「文法・訳読ができなければ解けない」となってしまう。
 安河内 個別の問題内容の良しあしではなく、技能のバランスが問題です。出題形式も各大学でバラバラ。それはつまり、どこに向けて教員は指導したらよいのか、生徒は勉強したらよいのかが分からないということなんです。例えば、京都大学と東京大学を受ける生徒が交じったクラスでは教えようがない。全く違う技能のバランスで力を試しているんです。

議論介し読み・書く力も伸ばす
吉田 研作 上智大学教授

 ―政府の会議では、教員にTOEFLiBT80点以上や英検準1級といった目標を設定していますが、このくらいの英語力が必要なんですか。
 吉田 教える側の英語力と指導力は別です。ただ、基本的に英語を使って教えて、生徒にも英語を使わせてディスカッションなんかをさせていれば、自然にそれなりの点数にはなるんだと思います。授業を変えることが大事なので、教員の英語力の問題だけでは語れません。
 安河内 TOEFLiBTで80点は取った方がよいけれど、どんなに頑張っても取れない人はいます。卒業したばかりの人に80点を取りなさいというのも酷な話です。生徒と一緒に勉強することは大切ですが、私は先生をそんなにいじめることはないと思います。教え方は絶対、変えなければいけませんが。

 ―具体的にどう変えればいいんでしょうか。
 吉田 基本的に言葉はコミュニケーションをしなければ学べません。だから、先生が一方的にしゃべっていても、コミュニケーションを学べるわけがないですよね。ただ、その際、日常会話ばかりさせていても生徒のモチベーションが上がってこないから、能力・関心に合ったテーマに沿って、議論したり、発表したり、コミュニケーションしたりする活動を充実してほしいと思います。そこでは、先生はグループの中に入ってファシリテーターのような形でリードするのが最も大事です。僕らが今、一生懸命やっているのは、CLILという「内容言語統合型」の授業で、教科などを英語で教える方法です。上智大学でも一般外国語としての英語は全てそれに変えました。
 安河内 その通りだと思います。よく誤解されるのは、中学や高校でコミュニケーション英語をやるようになりましたと言うと、買い物とか海外旅行で使える英語をするのかということです。学習指導要領を読めば分かる通り、コミュニケーション英語は、自分の意見を正確に相手に伝えたりするのが目標です。それは将来、社会に出た時に商談やプレゼンと結び付いていきます。
 変えるのはスピーキングだけでなく、リーディングの指導にも当てはまります。音と切り離したリーディングをやるのは効率が悪い。2技能を統合した授業をするとよいのです。いまは、学校の教科書にCDが付いていないことも多いですが、参考書の世界ではリーディングの本であっても必ずCDが付くようになっています。
 吉田 それにディスカッションもディベートもリーディングをなくしてはできない。話すには読まなければいけないし、スピーチするには書かなければできない。一つの授業で全てをやれというのではありませんが、最終的には、そこに持って行かないと統合的にはならない。
 安河内 この問題について、単純に白か黒で考えるべきではないと思います。コミュニケーションを増やすことで、読解力が低下するんじゃないかとか。論理的なプレゼンをするためには読解力が必要だから、読むときの姿勢も変わるんです。読解力というのを、一つ一つの文を分析し、センテンスベースで意味を正確に捉えることを言っているんだと思っている人も多いですが、本当の読解力というのは、パラグラフベースで主張を正確に捉えて、大局的に読み、自分の中に知識を論理的に蓄えていく作業だと思います。

吉田氏 教員を海外派遣
安河内氏 指導法をシェア

 ―もし入試が4技能型になった場合、いまの教員の英語力で対応できるんですか。
 吉田 できると思います。例えば、よく小学校で英語を教えるときに先生の英語力は、どの程度必要なのかと聞かれるけれど、英語力の問題ではない。小学校ならクラスみんなを巻き込んだ活動をできるのが一番良い先生です。英検は3級かもしれないけれど、授業は満点という先生はたくさんいる。
 安河内 私は、音声・映像素材を充実させることが大切だと思います。ネーティブスピーカーの音や映像を授業でたくさん使用できるように。そうすれば先生はコーチングに徹することができる。先生は指導方法のビデオや研修で、その使用法や盛り上げ方を学びながら生徒と一緒に英語力を高める。

 ―研修の手法として、文科省は推進リーダーを育てる仕組みを考えていますが、あの方法でよいのでしょうか。
 吉田 昔は指導者研修と言っていて、そのころから僕も教えていました。受講した人は指導主事とかリーダーになっている。ただ、推進リーダーになっても、基本的に授業が軽減されるわけではないし、何か特別な指導者としての役割を持つわけでもない。教育委員会や研修センターあたりでモデル授業したり、シンポジウムに参加したりするのが中心になっている。
 推進リーダーを生かす方法を文科省も教育委員会も考えなければいけない。このままでは本当にもったいない。
 安河内 指導方法はみんなでシェアすることでレベルが高くなります。このインターネットの時代に、なぜ教授法をシェアする仕組みを整えないのか不思議で仕方がない。優秀な先生の授業をクラウドでサーバーに置いて誰でもアクセスできるようにすればいいんです。確かにマンツーマンやワークショップも大事だけれど。東進ハイスクールでは、そのような仕組みで10人の英語講師で10万人教えているんですよ。やればできます。

 ―最初に吉田先生も言われましたが、学校の先生自身の意識はどうすれば、変わりますか。どうすれば心に火が付くでしょう。
 吉田 いま東京都が教員をかなり海外に派遣しているけれど、何らかの形で派遣したらよいと思います。ただ、必ずしも英語圏に行く必要はないと思っている。
 だから僕はいつもアジアに行けと言っている。米国や英国に行っても、結局、面倒ばかり見てもらって「生徒」のままで終わってしまう。それなら、同じ第二言語として英語を学んでいる台湾や中国の先生と一緒に教授法を議論した方がずっと有効です。派遣先の国の学校で教えてみたりして、それまでの自分の教え方が、どれだけ中途半端だったのかに気付いてもらうしかない。
 安河内 変わろうとしている先生に関して言えば、このまま改革を進めていくだけで変われると思っています。学校現場には既に十分なプレッシャーがかかっている。「英語で授業をすることを基本とする」という学習指導要領の文言は、そのくらい大きなプレッシャーになっています。これで、あとは大学受験まで4技能になれば英語教育は大きく変わる。現在の道筋は大枠では間違っていないと思います。

吉田 研作
 昭和23年生まれ。文科省の「英語が使える日本人」の育成に関する行動計画や、英語力向上のための五つの提言の取りまとめを担った。英検協会と共同で4技能試験の「TEAP」を開発、上智大学では来年度入試から全学部で実施する。

安河内 哲也
 昭和42年生まれ。TOEICスコアは1390点満点。実用英語推進機構の代表理事として実用英語教育の普及活動を続けている。現在、吉田研作教授が座長を務める文科省「英語教育の在り方に関する有識者会議」の委員。

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