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「共感報道」の時代 涙が変える新しいジャーナリズムの可能性

16面記事

書評

谷 俊宏 著
子どもへの取材、リスクは

 先日、幼児虐待で逮捕された父親の名前の脇に、わざわざ解体業と書かれた記事が配信されていた。また、事件に巻き込まれた同級生の声を欲しいがために電信柱に隠れ、突然インタビューするメディアにおびえる子どもの相談を受けたこともある。しかし、真逆に私の知る方々は、客観報道の中にも、人としての共感が基底部にあった。そのためだろうが、今も本音の付き合いが続いている。
 著者が示す記者の心得は、子どもや親へ対応する教師の心構えとかなりの部分で重なる。喜怒哀楽で涙する場面は、教育現場に日々起きる。教師も記者同様に、共感しつつも客観性を失ってはならない。本書は教育界に限らず広範囲の方に読まれるべきである。それはマスコミを一方的に毛嫌いする面々も多く、取材におびえ、過度な対応策を講じる教委や校長は依然として多いからである。
 構成は全10章で実にコンパクトで読みやすい。数々の事件、事故現場の報道の裏にあった記者の葛藤が赤裸々に記されている。中でも「子ども取材のリスク」に目を通されてからの読破をお勧めしたい。何のための報道なのか、何のための教育なのか、この問いなきところに「心」はない。行き着く先は同じ目的であるべきと私は信じている。まさに共感による共育ではないだろうか。私なら机上に置きたい一冊である。
(1620円 発行・花伝社、発売・共栄書房)
(大久保 俊輝・亜細亜大学特任教授)

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