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ライフラインを教材に暮らしと防災を学ぶ

11面記事

企画特集

新学習指導要領に対応した社会科
ライフラインを教材に エネルギー教育の最初の一歩

 来年度から小学校で全面実施となる学習指導要領では、暮らしを支えるライフラインの安全・安定供給のための取り組みや、頻発する自然災害への対処・備えに関する内容が新たに盛り込まれている。学校現場での実践を支援するため、日本教育新聞社と(一社)日本ガス協会は社会科授業支援パッケージを協働開発し、このほど提供を開始した。教材監修者の北俊夫氏と、全国小学校社会科研究協議会会長の吉村潔氏に、社会科の授業づくりのポイントを話し合ってもらった。

学んだことを活用する場面を各単元に

安全・安定を視点にライフラインを考える
 北 4年生社会科「住みよいくらし」の単元では、飲料水、電気、ガスから1つを選択して扱います。これまで多くの学校が飲料水を扱ってきました。
 来年度から実施される学習指導要領では、飲料水、電気、ガスを供給をする事業が、「安全で安定的に供給できるよう進められていること」を理解することが追加されました。キーワードは「安全」「安定」です。
 安全性や安定性は、飲料水、電気、ガスに共通する要素です。新たな視点が示されたことで、この単元は今後、いわゆるライフラインについて学ぶ重要な学習場面として位置付けられるのではないかと考えています。

 吉村 学校現場でもこの単元を見る視点は変わってくると思います。一方で、10時間程度という時数と、3つの題材から選択するという点は従来通りですから、どういう学習の仕方が効果的なのかを考えていく必要がありそうです。
 東京都小学校社会科研究会では、次の学習指導要領に対応した新たな指導計画を作成中です。単元の導入で、私たちの暮らしに欠かせないものを学んだ後、これまで同様に飲料水中心に学習を進める。まとめとして、安全や安定という視点で電気やガスも見てみるという流れです。

 北 導入場面で、水だけでなく、電気やガス、地域によっては灯油といったエネルギーも生活を支えていることを概観することが1つのポイントですね。
 2つめは、いつでもおいしい水が飲めるようにするための工夫を調べて、安全性や安定性という視点を持たせること。
 3つめのポイントは、安全や安定という視点が電気やガスにも当てはまるのかを考える、発展的な学習を行うことです。
 例えば、ガスは本来無臭ですが、独特のにおいをつけることによって、人々がガス漏れや器具の異常に気づきやすくしています。こうした具体的な事実を示すことで、水の供給で重視されている安全というキーワードが、ガスにも当てはまることが理解できます。

 吉村 重要なのは、問題解決的な学習を通して、安全や安定というキーワードに子ども自身が気づくことです。そこを押さえれば、水の学習で身につけたものの見方や考え方を生かしてガスや電気も見てみるという、習得と活用の流れがつくりやすい単元だと思います。

地域の事業者も含めた災害への備えと対処
 北 導入場面で複数の事例を概観してから1つの事例を選択して深く学び、そこで学んだことを生かして他の事例にも取り組む。こうしたカリキュラム・マネジメントは他の学習にも生かせそうですね。

 吉村 例えば3年生の警察と消防の学習があります。消防の役割を重点的に扱い、そこで学んだことを生かして、短時間で警察のことも学ぶという展開がつくれそうです。

 北 カリキュラム・マネジメントには、1つの単元の組み立てという側面だけでなく、同学年あるいは学年間での単元同士の接続という視点もあります。
 そこで注目したいのが、4年生の「自然災害からくらしを守る」の単元です。ここで押さえるべきキーワードは、災害が起きたときの「対処」、と、被害を軽減するための「備え」です。学習指導要領では、地震、津波、風水害、火山、雪害などの中から取り上げ、地域の関係機関の働きを学ぶよう求めています。
 県庁や市役所の働きなどを中心に取り上げるとしていますが、「関係機関」を広く捉えれば、ライフラインに関連する事業者を扱うこともできそうです。

 吉村 昨年の北海道胆振東部地震による大規模停電がそうだったように、ライフラインの被害は人々の暮らしに深刻な影響を与えます。役所の働きはもちろん重要ですが、水道、電気、ガスといったライフラインが災害にどう備えているかを知ることも、教科として大切なことだと思います。

 北 3年生の消防の学習では、電気会社やガス会社も現場へ駆けつけることを学びますから、ここでの学習を思い起こさせ、4年生でじっくり学ぶこともできそうです。4年生で地域の自然災害を学ぶことは、5年生の国土における自然災害の学習につながります。さらに6年生の政治単元でも、「自然災害からの復旧や復興」を事例として選択すれば自然災害の学習ができるので、学年間をつないだ縦断的なカリキュラム展開が可能になります。
 ポイントは、自然災害に対するハード・ソフト両面での対処と予防という見方・考え方で各単元をつなぐことです。担当学年のカリキュラムだけでなく、前後の学年での学習のつながりを意識しておくことが大切ですね。

学校独自のカリキュラム策定にも期待

各学年の単元をつなぐ系統的な学習プランへ
 北 「住みよいくらし」と「自然災害からくらしを守る」の単元でライフラインを扱う新しい授業実践をサポートする教材をこのほど監修しました。学習指導案や提示資料、ワークシートなどがセットになったもので、社会科指導が得意ではない先生方にも手軽に使える内容になっています。

 吉村 教材を活用した授業を見せてもらいましたが、子どもたちは飲料水の学習で身につけた見方や考え方を使って、ガスという題材を的確に捉えていました。飲料水の学習をメインにしながら、前後に短時間の授業を追加する形式なので、多くの学校で無理なく実践できるという印象を持ちましたね。

 北 学んだことを活用して深めるという授業展開がコンパクトにまとまっているため、社会科のカリキュラム・マネジメントを学ぶ題材にもなります。学年間での系統的、発展的な指導は一人の先生ではできませんから、学校としての指導体制を整えることが大切です。

 吉村 カリキュラム・マネジメントは今回の学習指導要領のキーワードの一つです。総合的な学習と同様に各教科においても、学校独自のカリキュラムをつくる取り組みが求められているということでしょう。今後は社会科の「××小学校プラン」といったものが各学校に整備され、それに基づいて先生方が単元をつくる事例が少しずつ広がっていくことが期待されます。

 北 その意味では、新学習指導要領は防災教育の充実だけでなく、社会科の新しいあり方も提案し、実践を求めていると言えますね。我が校の社会科で子どもたちに何を身につけさせ、身につけたものをどう発展させるのか。こうした系統的な授業づくりを考える糸口としても、この授業支援パッケージを活用していただきたいと考えています。


北 俊夫 元文部省教科調査官
 東京都公立小学校教員、東京都教育委員会指導主事、文部省(現文部科学省)初等中等教育局教科調査官、岐阜大学教授、国士館大学教授を歴任。近著『「ものの見方・考え方」とは何か 授業力向上の処方箋』(文渓堂)など著書多数。


吉村 潔 全国小学校社会科研究協議会会長(東京都小学校社会科研究会会長)
 東京都公立小学校教員、品川区教育委員会統括指導主事、同小中一貫教育担当課長、練馬区教育委員会教育指導課長などを経て平成29年より世田谷区立烏山北小学校校長。平成30年から全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長を務める。

学んだ視点を生かしガス供給の工夫探る

 東京・杉並区立荻窪小学校では、4年生社会科「住みよいくらし」の単元で、本文でも紹介した授業支援パッケージを活用した授業を行った。単元の導入で、快適な生活を。支えるライフラインの重要性を考えた後、飲料水の安全で安定的な供給を目指す地域の水道事業の取り組みを学んだ。
 単元のまとめでは、飲料水の事業が重視していた「安全」や「安定」が、他のライフラインにも当てはまるかを考えた。
 授業支援パッケージの教材を見ながらガス供給の工夫をワークシートに書き込み、飲料水とガスの共通点をグループで話し合った。「設備を点検する」「貯める場所がある」「24時間体制で見守っている」など、安全で安定的な供給を支える取り組みに気づいた子どもたちからは、「ガスも飲料水と同じように工夫していることがわかった」といった意見が出ていた。

「住みよいくらし」と「自然災害からくらしを守る」の授業支援パッケージは、各単元の学習指導案と提示資料、板書計画、ワークシート、動画コンテンツをセットで無償提供する。ホームページ(http://www.kyoiku-gas.com/)からダウンロードして利用できる。

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