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あらためて、「継続は力なり」

関東版

論説・コラム

佐藤 浩一 群馬大学教育学研究科教授

 県内の中学校で、昨年の4月から11月まで半年間、中1国語の授業を参観させていただきました。
 A先生は生徒が文章を書けないことに悩んでいました。何を書けばいいのか分からずに筆が進まない、同じことをだらだら書く、途中で話題が逸れていく…例えば4月に「良い生活習慣」というテーマで書かせたところ、ある生徒は「早寝早起き」から書き始めたのですが、いつの間にかペットの話に移り、「飼い犬に癒やされます」と結ぶ有り様でした。
 A先生はあらためて自分の授業を振り返り、どう書くのか教えてこなかったこと、書くための道具を工夫していなかったことに気づきました。そこで「マップ」や「くまで」といった道具(思考ツール)を取り入れて、何を書くか連想を広げて整理することを教えました。こうして構想が固まれば、文章は80%できたも同然です。さらに、先生自身がマップやくまでを書く様子を書画カメラで見せたり、生徒同士が学習の途中で互いに見せ合ったりする機会を頻繁に設けました。

 国語では、物語を読んでの感想文、おすすめの本を紹介するスピーチ原稿、絵画の鑑賞文に、こうした手立てを生かしました。それだけでなく、校外学習で見学した施設を紹介する記事を書くのにも生かしました。学活の時間に外部講師を招いて講演を聞いたときには、くまでを使って要点をメモしていきました。
 こうして半年間、マップやくまでを使い続けた結果、どの生徒もこうしたツールの使い方に慣れていきました。学力の高い生徒は、軽々と使いこなせるようになりました。書くことが苦手だった生徒は、最初はマップを広げるのにも苦労していましたが、2学期の終わりにはこれらを使って、まとまりのある文章を書けるようになりました。
 さらにうれしいことに、生徒のこうした変化を見た音楽の先生が、歌曲を聞き比べて鑑賞文を書く授業を設定してくれました。生徒たちは「きれい」「すごい」「好き」といったぼんやりした感想ではなく、「リズム」や「楽器の音色」などの根拠を明確に、鑑賞文を書くことができました。
 A先生に「半年間続けて、どうでしたか?」と尋ねたところ、こんな話をしてくれました。「実は、一つの手立てをあれだけ継続して使ったのは初めてなんです。これまでは単元ごとに教科書に示されている活動に取り組んだり、自分がちょっと関心をもった手立てを入れてみたり、言わば『つまみ食い』でした。今回はつまみ食いではなく、生徒も私も、栄養のある食生活を続けた気分です」。
 中学校の教室にはよく、「凡事徹底」とか「継続は力なり」といいったスローガンが掲げられています。生徒だけでなく、教育全般にとって大切なことだと、あらためて思いました。

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