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通学路の交通安全確保に対する有効な取り組みと各地の対策実施例

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特集 教員の知恵袋

 近年、児童や生徒の交通事故死者数および死傷者数は減少傾向にありますが、まだまだ多くの事故が発生している状況です。文部科学省と警察庁は小学生や中学生に対して学校安全の推進に関する計画と交通安全教育指針に基づき、通学路をはじめとした道路を安全に通行する意識と能力の向上を図っています。

 この記事では、登下校中の児童や生徒を守る交通安全対策として、どのようなことが行われているのか各都道府県の対策実施例とともに有効な対策を紹介します。

通学路の交通安全確保に関する通知と取り組み状況

 平成25年5月31日に、文部科学省・国土交通省・警察庁から各地方へ「通学路の交通安全の確保に向けた今後の取組」が出されました。この内容は、平成24年に行われた緊急合同点検の結果に基づいた対策、各地域の特性に合わせた課題の設定、情報発信など、文部科学省・国土交通省・警察庁が相互に連携し、継続して推進していくことを示したものです。

 同じく平成25年の12月6日には、推進体制の構築や各地域での通学路交通安全プログラムの策定、公表についての基本的な進め方「通学路の交通安全の確保に向けた着実かつ効果的な取組の推進について」も通知されました。

 平成29年度末時点で、これらの通知に関する取り組み状況を見てみると、教育委員会・学校による対策箇所のうち99%が対策済みという結果になっています。しかしながら、この結果に甘んじることなく、今後も各地域で継続して通学路の安全確保に努め続けなければなりません。

交通安全確保を目指す取り組みのさらなる推進が必要な理由

 通学路の交通安全確保のための取り組みは継続して行われていますが、現在も登下校中の児童生徒が被害にあう交通事故は後をたちません。

 平成28年には、登下校中の児童の列に車が突入して児童が死亡したり、重軽傷を負ったりする交通事故が2件発生しました。子どもたちに交通安全に関する教育を行うことはもちろん、ドライバーの不注意や道路の構造によって起こる事故を防ぐことも重要です。

 悲痛な交通事故によって子どもたちの未来を奪ってしまうことがないよう、定期的な点検や道路の見直し・改善、情報の共有など、交通安全確保に向けた取り組みのさらなる推進が求められます。

通学路交通安全プログラムとPDCAサイクル

 取り組みにおけるポイントの一つは、各市町村が策定した「通学路交通安全プログラム」があげられます。このプログラムでは、学校や教育委員会、警察などが連携して安全確保に対する取り組みを行います。

 通学路交通安全プログラムに基づいた取り組みは、PDCAサイクルとして行うことが肝心です。年間単位でスケジュールを組んだり、実施内容や報告内容を明確にしたりしておくことで、継続した取り組みをより着実なものにできます。

交通安全確保に向けた地方の対策実施事例

 全国の通学路や生活道路では、どのような交通安全対策が行われているのでしょうか。標識や地図の作成など各都道府県で行われている対策実施事例の詳細を解説します。

警戒標識の設置

 警戒標識は、自動車や自転車から通学路として認識されていない道路に、通学区間であることを周知し、安全を確保するために設置されます。運転中に目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

 ドライバーに対して、注意が必要な箇所を予告できるため、有効な対策としてさまざまな道路で活用されています。

時間帯にあわせて設置できるライジングボラード

 ライジングボラードは、道路の中央に設置し、車両の進入を物理的に制限するものです。ポールを上昇・下降させることができるため、決められた時間帯のみ特定の車両の進入を防げます。

 新潟県新潟市のある交差点は、交通量が多い上に通過速度が高い車両が通行し、非常に危険でした。対策として平日7時30分から8時15分の通学時間に合わせてライジングボラードを設置し、通過交通を抑制しています。

ヒヤリマップの作成

 ヒヤリマップとは、ドライバーが運転中にヒヤッとしたりハッとしたりした体験に基づいて、危険だと感じる場所を地図に記したものです。

 佐賀県佐賀市では、地元住民を交えたワークショップを実施しており、その一環としてヒヤリマップの作成を行っています。地元住民同士で個人の体験を話し合うことにより、危険情報を共有することが可能です。

 栃木県さくら市の学校では、通学路の危険箇所を記したマップを、各学校の玄関付近に提示し、児童や保護者に周知しています。

横断歩道周辺の交通安全対策

 登下校中の子どもが特に交通事故にあいやすいのが、横断歩道の横断中です。

 子どもの飛び出しが原因となることもありますが、道路の形状で歩行者を確認しづらいことやドライバーの注意不足が原因で交通人身事故が起きることも少なくありません。そのため、通学路となっている横断歩道やその付近の道路に交通安全対策が求められます。

 東京都文京区では、通行速度の高い区間の横断歩道に歩道を部分的に張り出して狭さくを整備しています。横断歩道であることを強調させ、ドライバーに注意を促すことが狙いです。

 山形県にある交通量が多く車両の通行速度が高い道路には、路面標示とイメージハンプを整備して、ドライバーへ注意喚起をしています。

 イメージハンプは、立体路面標示や立体減速標示とも呼ばれ、視覚効果を利用して立体的な障害物に見せるものです。そのほかにも、横断歩道や横断歩道手前の道路のカラー化や交通島の設置など、多くの地域が横断歩道周辺にさまざまな対策を講じられています。

通学路の安全確保には継続的な取り組みが必要不可欠

 交通事故の発生状況は減少しているものの、登下校中の児童生徒を巻き込む悲痛な交通事故はたびたび発生しています。通学路の安全確保に対する取り組みとして、標識やポールを設置したり、交通整備を行ったりするだけでは決して十分とはいえません。

 子どもたちが安心して登下校できる通学路を整えるには、各都道府県で作成する通学路交通安全プログラムをもとに、継続してPDCAサイクルを回し続けることが必要不可欠です。

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