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ウィズコロナ時代における学校給食の役割を見つめなおす

8面記事

企画特集

栄養教諭食育研究会座談会

 新型コロナウイルス感染症が全国に拡大する中、学校の一斉休業に伴い、児童生徒の生活は一変した。学校再開後、感染予防の観点から、自治体によって学校給食の実施状況に違いが見られる。ウィズコロナ時代の学校生活において、児童生徒の健やかな成長と健康を支える学校給食の役割と実施の留意点について、学校給食関係者が話し合った。

座談会出席者


金田 雅代 女子栄養大学名誉教授、栄養教諭食育研究会代表幹事


饗場(あいば) 直美 神奈川工科大学健康医療科学部教授


伊藤 武 一般財団法人東京顕微鏡院食と環境の科学センター名誉所長


更家 悠介 サラヤ株式会社代表取締役社長

栄養教諭、学校栄養職員は家庭への拡がりも見据えた情報公開・指導を

コロナにも対応する基準
 ―文部科学省から示された、「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」には、学校給食は感染のリスクが高い活動とされており、その実施についても言及されています。ご覧になっていかがでしたか。

 金田 まず思い出したのが、平成8年の学校給食を原因とする腸管出血性大腸菌O157食中毒事件のことでした。当時、学校給食調査官として対応に携わり、児童生徒や調理従事員の手洗いの徹底とマスクの着用から始めたことを思い出します。
 今回の衛生管理マニュアルには、学校給食を実施するに当たり「学校給食衛生管理基準※」(以下、基準)に基づいた調理作業、配食等の徹底、給食当番活動等について具体的に示されています。学校給食関係者が衛生管理の指針として活用しているこの「基準」を、広く教育関係者や保護者にも読んでいただきたいと思います。

 伊藤 基準は、金田先生をはじめ関係者が協力して策定し、これまで用いられてきました。コロナ禍においても学校給食を含めた衛生管理の基準であると認識しています。

 更家 O157食中毒事件の際は、学校給食関係の皆さんが一丸となって、基準を作られました。食品衛生分野における感染防止技術が向上し、食中毒事故が激減したのも、これが転機になっていると考えています。
 今回の新型コロナの感染防止にあたっては、調理や喫食、配膳の場面のみならず、調理員だけでなく児童生徒や家庭の健康をも念頭に置き、手洗いやマスク着用などの感染防止策を基本に据え、同基準を守りつつさらにレベルアップしていく必要があると考えます。私たちも洗剤やアルコール消毒薬などの製造・販売に携わる衛生管理業者として、皆様とともにサポートさせていただきたいと思います。

 饗場 文科省のマニュアルには「学校給食は感染のリスクが高い」とあります。学校給食は、ともに食べる「共食」に子どもの育ちを支える機能がありますが、マスクを外して食べると飛沫感染のリスクが生じる、という意味で、高リスクだと判断したのだと思います。学校給食は調理して提供するところまでは、基準に沿って安全に管理されています。学校現場としては「どう安全に食べるか」を児童生徒に周知し、それが家庭での感染防止につなげられるとよいと思いました。

調理場では健康チェックと手洗いが定着
 ―現在、さまざまな施設の出入口では体温チェック、健康状態チェック、アルコール消毒剤等の設置が行われ、感染防止対策が一般的になってきました。学校給食においては、提供までにどのような対策が取られているのでしょうか。

 金田 学校給食では、平成9年から調理員の健康チェックを重点的に行っています。現在も、調理場では、本人の体調、体温、家族の健康まで記録し確認してから入ります。もちろんアルコール消毒剤も配置しています。給食当番の体調も確認して記録を残すことになっています。
 今後は、そういった作業が形式化していないか、体調確認の理由を教職員で再確認し、併せて手洗いの方法や、アルコール消毒剤の使用方法が正しいかどうか、マスクや白衣、帽子が清潔で正しい着用方法を守っているかどうかも、確認することが大切だと思います。

 伊藤 学校給食の衛生管理では、調理場に入る前に、30秒かけて爪ブラシを用いて手洗いをし、アルコール消毒剤を噴霧します。調理中や、作業区分を移動する際にも手洗いを綿密に行います。肉類を扱う場合や、加熱後の食材を扱う際は、手洗い後、使い捨て手袋を用いて作業をし、病原菌で汚染させないように衛生管理をしています。
 さらに、学校給食調理員は、赤痢菌やO157、サルモネラ等を保菌していないか、通年で月に2回の検便を行っています。ノロウイルスは10月から3月にかけて月1回検便をし、調理員の安全性を確保しています。

 金田 アルコール消毒剤はプッシュ式の容器を使っている場合が多いようですが、安全な使い方はどうあるべきでしょうか。

 更家 理論的には、ポンプを押した手に菌がついても、消毒剤で手全体を消毒できる、と考えることもできます。しかし、消毒剤の量が不足していたり塗布の仕方が間違っていたりすれば、感染リスクは高まります。米国疾病対策予防センター(CDC)のガイドラインを準用した、正しい手指衛生の方法を守ることが必要ですし、日本国内のガイドラインもこれに沿った形で作られています。
 人や食材の流れが交差することで、ウイルスや菌が持ち込まれてしまう「交差汚染」を防ぐには、できるだけいろいろなところに触れずに手洗いや消毒ができる自動化装置の普及、そしてそれらを用いた正しい手指衛生の啓発が急務だと考えています。
 また、エビデンスに基づいた衛生に関する情報提供をし、給食関係者にお届けすることも我々の運営指標としているところです。

給食時の子どもの衛生行動は
 金田 給食当番の子どもも、手袋を使うケースが多くなってきました。ただ、大人用しかなくサイズが合わなかったり、着用方法が正しくなかったりと、注意すべき点もあるように思います。

 更家 手袋については、需要が世界的に伸びており価格も上昇しています。金田先生のおっしゃるように、子ども向けの手袋に関しては、研究の余地があると感じます。
 せっけんなどの薬剤についても、残留性がある薬剤は手荒れにもつながりますので、泡切れの良いものをお勧めします。アルコール消毒薬は濃度75%以上が医療機関での推奨濃度です。次亜塩素酸水はコスト面から利用が増えていますが、対象物の汚れをしっかり落としたうえで使ってほしいですね。

 金田 予算の問題もあるのかもしれませんが、手指衛生を徹底するのであれば、せっけんの種類や、アルコール消毒剤の品質を再確認し、対応していかねばならないと思います。栄養教諭は養護教諭の先生方と情報を共有して、校内に広げる役割もありますね。

 更家 安全や衛生は、必要な時にしっかりと整備していくことが、コロナ禍の今だからこそ求められていると思います。学校現場、給食の現場の方たちが肩身の狭い思いをしないよう、そして学校給食が子どもの安全・安心な生活につながるよう、全員で盛り上げていかねばならないと思います。

 金田 学校給食施設のトイレに関しては、定期的な消毒が必要とされています。現状で留意すべきことは何でしょうか。

 伊藤 基準では、学校給食従事者のトイレについても細かく定めており、今回のコロナ対策としても先駆的な意味を持っています。新型コロナウイルスは糞便中からの検出も指摘されていますから、感染防止にはトイレの衛生環境を整えることが重要です。
 学校給食従事者は児童生徒とトイレを共有せず、専用のトイレを作ること、調理衣や履物を着用したままトイレに入らない、便器のふたをして水を流す、定期的な清掃と消毒をすることなどは、そのままコロナ対策に通じるものです。

 金田 トイレの水を流したときの空気中への菌の拡散量において、ノロウイルス感染症予防のためにトイレのふたを「する」場合と「しない」場合とでは、結果にかなりの差が出ることを実証してくださったのはサラヤさんでした。
 なぜ、トイレはふたをして流さなければならないのか、「感染を防ぐために」という言葉と併せて関係者の理解を深めていくことが大切だと思います。正しい知識を持つことが、衛生行動の定着には不可欠だと実感しました。

 更家 そうなんです。感染予防のためには、エビデンスに基づく確かな性能の薬剤の使用や、設備の自動化などハード面での取り組みと合わせて、それらを正しく使うための知識というソフト面の充実を併せて行うことが重要なのです。
 菌やウイルスは目に見えないので、使う人が納得感を持って、また、どうしてそうしなければならないか、という理由を、継続的に意識することが必要です。啓発を継続しないと、正しく使うカルチャーは失われやすいのです。

手洗いの習慣化は教職員が手本に
 ―感染症に対する正しい知識と衛生行動の定着化には、教職員の役割が大きいと思います。家庭への周知の仕方はどのようにすればよいでしょうか。

 饗場 理論で分かっていても、実際の行動として定着するには時間がかかります。子どもにとって手洗いは、これまでもやってきたことです。そこに、新たな行動を付け加えて定着させるには、行動科学理論に基づくと6カ月必要だと言われます。
 学校の中で、児童生徒に新たな手洗いを習慣化させるには、まず、洗い方やその効果、理由を、教職員が理解することが必要です。それをモデルに児童生徒がまねをし、定着化する状態が続くと良いと思います。学校再開から数カ月の間に、子どもの衛生行動が定着すれば、次のコロナの波に対しても、準備ができると思います。教職員に手洗いの方法やその理由を周知徹底することが重要だと思います。
 もうひとつ、手洗いをしても、汚染された場所に手が触れると、ウイルスが付着することも伝えるべきだと思います。手洗いをした自分の手や、衛生管理をして作られた給食、拭いたテーブルはきれいな状態です。けれども、多くの人が触れる部分は汚い可能性がある。そういった区別を先生方が見極めることが必要です。
 こうした衛生行動やその理由を正しく理解した子どもが、家庭でも再現し、親子でともに衛生行動を身に付ける意識を高めていけるといいと思います。今は社会にさまざまな情報があふれていますが、学校で行われている衛生行動が、文科省が出しているマニュアルや基準に基づいて行われている、ということは参考になると思います。

栄養バランスを整える学校給食の役割
 ―今回の座談会は、学校休業明けの給食を通常給食に戻してほしいという保護者の要望が多かったことなどから、改めて学校給食の役割について考えることを目的に企画されました。学校休業中の児童生徒の食生活の問題点などお話しいただけますか。

 饗場 子どもの食生活を調査すると、学校給食のない日は、ある日に比べて、たんぱく質、ビタミン、ミネラル、中でもカルシウム、鉄などが、不足していることがわかっています(図A)。学校が休業になっている状態は、給食のない日と同じですから、コロナ禍での子どもの食生活にも当てはめることができそうです。ビタミンAや食物繊維、カリウムなどの不足から「野菜不足」が、学校給食の牛乳を飲んでいないために「カルシウム不足」の状態が推測できます。また、塩分や脂質が多く、バランスのよくない食生活になっていると考えられます(図B)。


(出典:文部科学省「学校給食摂取基準の策定について(報告)」)

 学校給食は家庭での食生活で不足する栄養を補う役割を持っています。仮に休業が長期化すれば、子どもの健康や成長に影響を与えるおそれもあります。今後、もしまた休業措置が取られる場合は、もっと家庭で野菜を食べること、牛乳を1日1本飲むことなどを指導していく必要があると思います。

安全で栄養バランスの取れた日本の学校給食

 ―金田先生にお聞きします。日本の学校給食は安全で栄養バランスの取れた食事と言われますが、どのように給食が作られているか、ご紹介いただけますか。

 金田 毎日、日替わりで出てくる学校給食の献立がどのように作られているのか、一般にはあまり知られていないかもしれません。
 献立作成は、栄養教諭の職務である給食管理の重要な部分を占めています。「学校給食実施基準」に基づき、適切な栄養量が摂取できるように食事内容の充実を図り、給食時間には、その日の給食を活用した食育の教材となるよう意図的に作成します。
 栄養価計算はコンピュータで行いますが、学校給食衛生管理に基づく衛生管理も十分に検討しなければなりません。加熱調理後2時間以内に給食が食べられるように、調理員の作業量、作業工程、作業動線等を考えて、料理を組み合わせるのは栄養教諭の重要な役目です。
 次に、食品を選定して発注、納品時の検収と進みますが、調理過程では、中心温度の確認と記録は欠かせません。そして、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく提供できるように、保温や保冷食缶に入れて温度管理をしながら学校に届けています。
 食缶に入れてある料理の分量は、献立作成時の一人分の分量に人数をかけて算出し、計量して配缶しています。食缶の中には児童生徒が日々健康に過ごせる栄養量と成長に必要な栄養量が入っています。必要分量がクラスごとに届けられていることも先生方に理解していただきたいと思います。栄養教諭は給食が終わると、残菜量などを確認して次の献立作成につなげています。

 伊藤 加熱調理後「2時間以内」の喫食は国際的な基準です。食中毒を起こす病原菌は、食品への付着後2時間を過ぎると爆発的に増えていきます。2時間以内に食べれば、菌が付いていても食中毒になりにくいのです。そのため学校給食でも2時間以内としているのです。
 なお、基準では、前日調理も禁止しており、そのおかげで熱に強いウェルシュ菌による食中毒は、学校給食衛生管理基準施行後、激減して、2件の発生にとどまっています(図C)。

ウィズコロナの食育の再検討を
 ―栄養教諭、学校栄養職員に、今後、身に付けてほしい力は何でしょうか。

 饗場 給食は「生きた教材」であり、栄養教諭は意図を込めて献立を考えています。それを児童生徒に伝えるには、学級担任の力を借りながら進めていくことが大切です。必要な情報を提供し、担任の先生がそれぞれ食育を行うことができれば、これは世界で唯一の有意義な取り組みになります。
 栄養教諭は、「作ったから食べてください」というだけでなく、教員に献立の意図を納得させるコミュニケーション能力がほしいと思います。そして自らの職務は「自分たちが作った給食を使った食育」なのだと自信を持ち、意図を現場に伝えていってほしいですね。

 伊藤 栄養教諭は学校給食の安全性について、衛生管理の責任者の役割を果たすことも重要な役割の一つです。調理作業の外部委託が進む中、委託会社だけでなく、教育委員会も積極的に関わりながら、衛生管理を進めていく必要があると思います。
 基準の総則には、委託を行う場合であっても基準を順守することが述べられています。その認識を広めるためにも、栄養教諭の果たす役割は大きいと思います。

新たな時代を見据えた学校給食の改善の視点
 ―今後の学校給食の充実に向けて必要なアクションは何でしょうか。

 金田 学校給食の調理場の施設設備は全国的に格差があり、その格差が給食内容に大きく影響しています。栄養教諭は、基準が順守できているか、施設設備の整備状況等はどうかなど現状の問題点を整理して、教育委員会、学校長等に問題提起することも必要です。

 伊藤 2021年度から国際的な衛生管理基準であるHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)が日本でも義務化されます。学校給食においても導入しなければなりません。その対応についてよく質問されるのですが、必要なことは基準に盛り込まれています。ぜひ、HACCPの視点で基準を読み直してみてください。

 更家 HACCPでは、適切に衛生管理が行われたかを記録しなければなりません。食品製造設備における、温度管理や記録を自動化する研究も進んでいます。現場への普及はこれからですが、技術革新を学校給食に取り入れる視点も持っていただければと思います。

 饗場 今の学校は、共食といった学校給食が目指す食育が困難な状況です。しかし、食育がまったくできないわけではなく、むしろチャンスだと考えます。「ゆっくりよくかんで味わって食べる」など、一人一人が食に向き合う指導があってよいと思います。ゆっくりよくかんで食べられるような献立や食材を考えてみてもよいですし、かんで食べる習慣は、老齢期の咀嚼嚥下機能を保ち健康寿命を延ばすことにもつながると伝えることもできます。視野を広くして、ウィズコロナ時代の食育のあり方を検討していただければと思います。

 ※ 平成9年の「学校給食衛生管理の基準」制定後、平成20年の学校給食法改正により、同法第9条に基づき、「学校給食衛生管理基準」として平成21年に公布・施工された。

寄稿 ウィズコロナ時代における学校給食と栄養教諭の役割
長島 美保子 公益社団法人全国学校栄養士協議会会長

休業・給食休止期間における栄養教諭の取り組み
 新型コロナウイルス感染症による約3カ月にも及ぶ長期休業の間、児童生徒は毎日自宅で不規則で不自由な生活を送ることになり、当然、保護者の負担も増え、調理済み品、インスタント食品等の利用機会や間食も多くなり、塩分や糖分、脂肪分の過剰摂取などによる健康課題が懸念された。学校給食がない日の食事では、カルシウム・鉄・食物繊維等不足する栄養素が指摘されており、今回のように事態が長期化することで、成長期の子どもに「栄養格差」が広がることを心配した。
 この状況の中で全国の栄養教諭等は、「分散登校日等における簡易給食の提供」や「家庭で応用できる給食献立」「食育だより」等をホームページ上で発信するなど、可能な形で子どもや家庭への支援を試みた。簡単な調理を栄養教諭と学級担任で作り、動画配信した例もある。デジタル化が進む中、栄養教諭の専門性に基づき、ICTを活用した臨場的な食事の紹介や食育を子どもや家庭に届ける方策の研究が求められる。

新しい生活様式を踏まえた学校給食の役割
 全ての子どもの健やかな学びを保証するとの考えから、「3つの密を避ける」「マスクを着用する」「手洗いなどの手指衛生」など基本的な感染防止対策をとって教育活動を継続する「学校における新しい生活様式」が文部科学省から示され、6月から全国で学校が再開された。
 学校給食における衛生管理は、従来から徹底した取り組みがなされているが、ここで原点に返り、感染リスクを抑える調理作業や配食等の見直しを行うことが求められる。学校給食は児童生徒の心身の健全育成を支える重要な機能であるが、同時に感染リスクの高い活動場面も多くあることから、衛生管理者である栄養教諭の役割は大きい。

ウィズコロナにおけるこれからの栄養教諭の使命
 ウィズコロナの中で健康に生きていくには、自己免疫力を高めウイルスに打ち克つ身体を作ることが大切である。私たちは栄養教諭として、学校給食を軸に、食の大切さを子どもにしっかり伝え、生活の中で実践できる力を身に付けさせることが重要である。子どもの適切な栄養摂取や食育の重要なツールである学校給食の充実を図り、食育の推進を要となって担う栄養教諭の活躍は、ウィズコロナの時代だからこそ求められている。

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