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洋式化・乾式化で生まれ変わる学校トイレ

12面記事

企画特集

学校トイレ改修特集

 学校施設の耐震化が概ね完了し、多くの自治体が次の緊喫な事案として対策を進めようとしているのが、老朽化が著しく、いまだに和便器が主流になっている学校トイレの改修だ。加えて、災害時に避難所となる学校施設では、防災機能の強化として高齢者や車いす利用者も利用できる「多目的トイレ」の整備も急がれている。そこで、本特集ではこうした学校トイレの望ましい改修の仕方について紹介する。

健やかに学習・生活できる環境の整備として

衛生面を向上するとともに、ランニングコストを削減
 令和時代の学校施設のスタンダードを目指す、文部科学省の2021年度の概算要求では、「新しい生活様式」も踏まえ、健やかに学習・生活できる環境の整備の1つとして、学校トイレの洋式化・乾式化を進めることを挙げている。感染症対策などの衛生面の向上はもちろん、水道・照明費が削減できるなどのメリットがあるからだ。
 まず、トイレの洋式化については、子どもたちが普段から使い慣れていることが第一になる。現在では入学して初めて和便器を使う子どもも多く、トイレを我慢することで健康を損なう事例も起きている。次に、トイレを乾式化することがなぜ重要かというと、床を乾いたまま清掃できることで菌の繁殖・増殖を抑えられることにある。従来のようなトイレの床を水で洗浄する清掃では、一見きれいになったように見えて、実は菌を増殖させてしまう。加えて、タイル地に付着したアンモニアは臭いの原因にもなるため、手洗い場も含めてドライメンテナンスが可能な施設に改善し、菌の温床をなくすことが大切になる。
 また、トイレは子どもが一日に何度も使う場所で健康・精神面で重要になるとともに、改修して明るいトイレに生まれ変わることで、きれいに使用するようになったり、生活マナーが向上したりするなど教育効果も大きいことが指摘されている。教員を対象にしたアンケートでも、学校で児童・生徒のために改善が必要な場所として真っ先にあがるのが、トイレの改善になっている。
 もう1つ、トイレの改修で大事になるのが、水まわりや照明を改善することで年間の水道費や電気代を削減することである。洋式トイレは和式トイレと比べて大幅に水量を抑えられるほか、LED照明や人感センサー式照明に切り替えることで省エネ化を図ることができる。

大規模工事が必要な学校のトイレ改修
 しかし、ほとんどの家庭やオフィスが洋式化した中でも、改修が後回しになってきたのが実態だ。その理由としては、トイレを改修するには配管・天井・壁面等の本体工事以外の整備に多額の費用がかかるという要因があった。つまり、老朽化した給排水設備の取り換えを含めると、学校にとっては極めて大規模な改修工事が必要になるのだ。
 こうした中、自治体が優先的に進めてきた学校施設の耐震化が完了したことで、次の大規模改造としてトイレ改修を予算化するところが多くなっている。事実、文部科学省が昨年9月に公表した調査結果では、公立小中学校施設における洋式トイレ率は57%に達し、前回調査(2016年)と比べて13・7ポイントも増加した。
 なお、小中学校施設におけるトイレの洋式化率が最も進んでいるのは東京都の71・1%で、最も遅れているのは島根県の35・3%になっている。

バリアフリー法改正で整備が急がれる「多目的トイレ」
 一方、災害時に避難所となる学校施設では、高齢者や車いす利用者も利用できるバリアフリーの推進という観点から、「多目的トイレ」の整備も急がれている。バリアフリー化は学校施設の中でも遅れている部分で、過去に起きた災害時の避難所生活においても、そのつど課題が表面化しているからだ。
 しかも、昨年5月にはバリアフリー法が改正され、今年4月以降に公立小中学校を新築する場合は、多機能トイレやスロープ、エレベーターなどの整備が義務づけられたほか、既存の校舎などでも整備が求められるようになった。
 こうした状況から、文部科学省では昨年初めてとなる「学校施設におけるバリアフリー状況」の調査を実施。5月時点の調べでは、校舎に車いす用トイレを整備している学校は65%、屋内運動場は37%と遅れが明らかになったとともに、今後3年間の整備予定をみても微増に留まっており、さらなる予算化が待たれているという結果になった。
 これまでもトイレ改修には国も財政面の手当てをしている。補助率は3分の1だが、地方財政措置も合わせると、実質的な地方の負担率は26・7%になる。工事内容は、和式から洋式便器等へ交換する工事、便器等の設備、給排水設備、電気等の付帯設備の改修工事、床・壁・天井・建具等の内装の改修工事、間取りを変更する工事、その他トイレ改修に関連する工事となっている。
 さらに、公立学校施設のエレベーター、自動ドア、スロープ等のバリアフリー工事については、2025年度までの整備目標を設定して自治体への補助金を拡充する方針を掲げている。すなわち、こうした予算を有意義に活用すれば、多目的トイレを含めた学校施設のバリアフリー化を推進していくことが可能になるのだ。

トイレ機能の進化によって感染症を防ぐ
 このように臭い・汚い・暗いの3K問題が長年指摘されてきた学校トイレだが、ようやく改善に向けた動きが加速しようとしている。実際、ここ数年で新築された学校施設のトイレは、従来の印象をがらりと変える、明るい色調やさわやかさを強調した意匠を備えている。未改修の学校はこうした事例を参考にしながら、児童・生徒が安心して使える快適な場所につくり変えていくことが望まれる。
 たとえば、その1つが感染症予防となる洗面・手洗い場における非接触の自動水栓の導入だ。すでにパブリックな場所のトイレでは当たり前になっているが、昨年、学校のトイレ研究会が全国の自治体に行ったアンケート結果では、トイレ未改修の学校は「ハンドル水栓」が78%を占め、「自動水栓」は17%にとどまっている。また、新型コロナを始めとするウイルス対策にはしっかりとした手洗いを常習化することが重要となるため、お湯が出る水栓や自動水せっけん供給栓も効果的といえる。学校では廊下の手洗い場においても、これらの設備を備えたいところだ。
 そうした点ではトイレ自体の機能も進化しており、光触媒技術によって抗菌・抗ウイルスを有するものや、手をかざすだけで洗浄できるもの。あるいは、災害時に備えた対策という点では、断水時にも少量の水で使用が可能になるトイレや、従来よりも省スペースで多目的トイレを設置できるシステムも登場している。加えて、室内での感染を広げないためには換気扉の設置は欠かせないが、菌がたまりやすいU字型排水溝の整備の仕方や管理にも注意を払う必要がある。

年齢に合わせた機能性やデザインを
 一方、学校のトイレは年齢に合わせた機能性やデザインも大事な要素になる。特に低年齢児童向けは明るさやポップなデザインを取り入れるよう配慮したい。また、複合化や小中一貫校が進む中では、それぞれの使用に適したスタイルや配置の仕方に留意すること。さらに、職場の環境改善という意味では教職員トイレの充実も見過ごしてはならないほか、今後はLGBTへの対応など誰でも気兼ねなく使えるトイレ環境づくりも視野に入れていく必要がある。

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