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修繕から「価値創造」へと向かう学校改修

7面記事

施設特集

長寿命化改修時に空間の再編や用途転換を図り、学びの質を向上する

環境改善と学びの高度化を同時に実現する

 これからの学校施設は老朽化して古くなった部分を直すだけでなく、空間の再編や用途転換を行うことで、教育活動の質を高め、学校全体の魅力を向上させることが必要になっている。そこで、このような修繕の先にある「価値創造」を目指す、学校施設改修のあり方を探った。

転換期を迎えた学校施設改修

 全国の学校施設はいま、大きな転換点に立っている。高度経済成長期に整備された公立小中学校の約6割が築40年以上を迎え、さらにその7割以上が改修を要する状態となっており、老朽化に伴う長寿命化対策は待ったなしの状況となっているからだ。
 校舎の劣化は放置すると安全性や防災機能に影響するため、症状を見極め、適切なタイミングで修繕することが不可欠になる。ただし、これまでのような外壁・内壁のひび割れ、漏水・雨漏りの修繕といった「延命的な修繕」だけでは、今日の教育環境として十分とはいえなくなっている。
 その背景には、学校を取り巻く環境の大きな変化がある。社会の急速な変化に加え、学習指導要領の改訂、GIGAスクール構想の進展、さらには脱炭素化や防災機能の強化など、学校施設に求められる役割は拡大している。従来の延命的な改修では、こうした新たな要請に応えることは難しい。
 実際、築年数を重ねた校舎では、ICT機器増設に伴う電源不足が、すでに多くの学校で日常的な問題となっている。断熱性能が不足する教室では、猛暑下になるといくらエアコンを稼働させても温度が下がらなくなっており、光熱費の増大が自治体財政を圧迫している。これらは単なる施設管理上の不具合ではない。学習環境の質や安全性を左右する、教育活動の根幹に関わる問題である。さらに、災害時には地域の避難所として機能する学校にとって、防災性能の向上は地域全体の安心にも直結する。つまり、施設改修はインフラ整備であると同時に、教育政策の一環でもあるのだ。

拡張する学校施設の役割

 こうした校舎自体の問題に加え、この10年で学校施設に求められる役割も大きく変容している。ティーチングからコーチングへと学びを深化させる1人1台端末の整備は、個別・協働など多様な学びのスタイルを可能にする教室空間が必要になっている。35人学級の導入や教科担任制の拡充は、教室の配置や動線にも影響を与える。特別支援教育の充実は、バリアフリー設計やクールダウンスペースの確保を求める。加えて、脱炭素化への対応として省エネルギー改修や再生可能エネルギーの導入も進められている。
 しかも、教育DXや探究学習の広がりにより、「学びの質を支える空間」への期待がかつてないほど高まっている。
もはや学校は、「授業を行う空間」にとどまらない。多様な学びを支える場であり、地域とつながる拠点であり、災害時には命を守る施設でもある。この複合的な役割を踏まえると、単なる原状回復型の改修では不十分であることは明らかである。

「原状回復」から「機能更新」へ

 そこで注目されるのが、「機能更新型改修」という考え方である。これは、老朽化対策をきっかけに、教育活動の高度化・環境性能の向上・安全性の強化など、学校が抱える課題を一体的に解決するアプローチである。建物を延命するだけでなく、これからの学びにふさわしい空間へと再設計することが目的だ。
 例えば、次のような取り組みが挙げられる。

 ①ICT活用を前提とした空間整備:高速・大容量通信網、十分な電源、Wi-Fi環境を整え、タブレットや電子黒板を日常的に使える教室へ。教育DXの基盤となる。
 ②学び方に合わせて変化する柔軟な教室:可動式家具や可変間仕切りを導入し、協働学習・探究学習・個別学習など、多様な学習スタイルに対応できる空間へ転換する。
 ③快適性と省エネを両立する環境性能の向上:断熱改修や高効率空調の導入により、夏の暑さ・冬の寒さを軽減し、エネルギー消費も削減する。
 ④誰もが使いやすいインクルーシブな環境整備:バリアフリー化、多目的トイレ、ユニバーサルデザインの導入により、多様な子どもたちが安心して学べる環境をつくる。
 ⑤防犯・防災機能の強化:セキュリティシステムや防犯カメラの高度化、避難動線の改善など、地域の防災拠点としての役割も高める。

 これらはすべて、学校を「直す」だけでなく、未来の学びを支えるインフラへと進化させる取り組みになる。

空間の再編がもたらす〝学びの変化〟

 従来の一斉授業型教室を前提とした校舎では、探究学習、協働学習、個別最適な学び、インクルーシブ教育、多文化共生など、現代の教育が求める多様な学習活動に十分対応できない。そのため、老朽化対策のタイミングを活かし、学校全体の空間構成を再設計する事例が増えている。すなわち、いま問われているのは「どのように直すか」だけではない。「何のために改修するのか」という目的そのものが、従来とは大きく変わりつつある。
 象徴的なのが、従来の一斉授業型教室を、多目的スペースへと再構成する動きだ。グループワーク、プレゼンテーション、個別学習、プロジェクト型学習、こうした多様な活動に応じてレイアウトを変えられる空間は、学習の質を大きく変える。「空間が変わると、学び方が変わる」。これは多くの学校が実感している変化であるが、学びのスタイルを変えるだけでなく、子どもの主体性や協働性を引き出す場としても期待されている。
 特に、高校生は自律的な学習や進路選択が本格化する時期であり、学習環境と相談環境の充実が不可欠であることから、電源・Wi―Fi完備の自習室、 個別ブースとグループ学習室の併設、進路相談室・スクールカウンセラー室の拡充、生徒が気軽に立ち寄れるウェルビーイングスペースなどの整備も進み始めている。
 特別な配慮や多様化する児童生徒を受け入れる学校づくりが求められる中、新たに特別支援教室を整備する学校も増えている。そこでは、落ち着いて学べる個別スペース、感覚過敏に配慮した照明・音環境、支援員や専門スタッフが活動しやすいレイアウトを備えた教室づくりなどが進められている。
 外国につながる児童生徒の増加に伴い、日本語指導や学習支援を行う場も整備する必要がある。例えば、日本語指導・教科支援を行う専用スペース、翻訳・通訳支援ツールを活用できるICT環境、多文化背景を尊重した掲示・教材、保護者との面談や相談ができる小規模スペースなどだ。こうした国際教室は、学習支援だけでなく、多文化共生の拠点としての役割も担う。

ウェルビーイングな学校づくりにも

 私立学校ではさらに踏み込み、未利用スペースを地域交流拠点や食堂へ転換する例もある。無人店舗システムの導入や学食サービスの拡充は、生徒の利便性向上だけでなく、学校の魅力化や地域とのつながり創出にもつながっている。
機能更新は、子どもたちの学びだけでなく、教職員の働き方にも影響を与える。ICTを活用した業務効率化。フリーアドレス化による教員同士の協働促進。落ち着いて作業できる個別ブースの設置。会議・研修のオンライン化に対応した環境整備。執務環境の空間が変わることで、教員の行動が変わり、結果として働き方改革の推進にもつながる。
 学校施設は子どもたちが一日の大半を過ごす生活環境であることから、老朽化したトイレの改修は外せない。衛生面だけでなく、学校の印象や子どもの安心感にも大きく影響するからだ。改修では、洋式化・明るい内装・自動水栓など衛生性の向上や多目的トイレの整備が求められる。

衛生的で明るいトイレへ改修

ユニバーサルデザインの導入

 また、公立小中学校施設は、2030年度末までのバリアフリー化の整備目標が掲げられている。このため、校舎・屋内運動場にはスロープなどによる段差解消、要配慮児童生徒用のエレベータの設置など、誰もが使いやすいユニバーサルデザインの導入が急務となっている。これらは特別支援教育の充実にも直結し、インクルーシブな学校づくりの基盤となる。
 さらには学校の安全確保は、いまや「施設管理」の枠を超え、子どもを守るための教育インフラ整備として位置づけられている。不審者侵入事件や校内トラブル(いじめや教員による不適切行為など)の問題が社会的に注目される中、校内防犯カメラやセキュリティシステムを導入し、安全を担保していく必要も高まっている。
 重要なのは、改修を〝コスト〟ではなく、〝未来への投資〟として捉える視点である。建物の寿命を延ばすだけでなく、教育の可能性を広げる契機とすることが求められている。

修繕の先にある「価値創造」

 学校施設の改修は、避けて通れない課題である。だが、それを単なる老朽化対策として消極的に捉えるのか、それとも教育の未来を描く機会として前向きに活用するのかで、結果は大きく異なる。
 学校施設は、子どもたちが最も長い時間を過ごす公共空間である。その質は、学びの意欲や創造性、そして地域の活力にも影響を与える。
 「修繕から価値創造へ」―。それは、建物を直すという発想から、学校という空間を再設計する発想への転換である。学びの質を高め、地域との関係性を強化し、持続可能な社会に貢献する拠点へと進化させること。その挑戦が、いま全国の学校に求められている。

多目的トイレやエレベータの設置を進める

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