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定時制高校の教育社会学 教育システムの境界と包摂

16面記事

書評

佐川 宏迪 著
多様化する生徒、どう受け入れたか

 定時制高校と聞くと、1996年に放映されたテレビドラマ「白線流し」を思い出す。同じ高校の全日制と定時制に通い、同じ教室の同じ机で学んでいる女子生徒と男子生徒。互いに顔も知らない2人が軸となり、ドラマは展開していく。定時制で学んだことのない者には、その実像を思い描くのは難しい。
 それに対して、本書は、定時制高校における教育のありようについて、第2次世界大戦後の新制高校発足から始まる歴史を踏まえながら丹念に検討したものである。
 1950年代、定時制高校に通う生徒には働きながら学ぶ向学心に富んだ者が多かった。高度経済成長が進むにつれて高校進学率が上昇し、1970年代中ごろには90%を超えるようになった。同時に、偏差値に基づく高校の序列化も進んだ。そうした中で、定時制高校には、全日制を中退した生徒や全日制の入試に合格できない生徒が入学してくるようになった。
 このような質的な変化の下で、新たな生徒を受け入れ教育していく「包摂のロジック」は何であったのか。それが本書の主題である。教師の座談会記録や生徒の発言文集、定時制高校のOB教師へのインタビューなど、多様な資料の分析を通じて、本書は、定時制高校という「境界」に位置する学びの場で展開されていった「包摂」をリアルに描いている。
(3850円 勁草書房)
(都筑 学・中央大学名誉教授)

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