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統合型校務支援システム導入で進む教育DX 働き方改革の促進へ

8面記事

ICT教育特集

新地町教育委員会・教育総務課指導主事の佐藤和子氏(左)、世田谷区教育委員会・教育政策部教育ICT推進課長の齋藤稔氏(右)

 「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」に基づいた地方財政措置が講じられる中、校務の情報化は業務効率化を進めるポイントになる。統合型校務支援システムを導入し、校務系データと学習系データを有効につなげば教員の働き方改革や学習指導・児童生徒指導の質的な向上も見込める。現在、統合型校務支援システムの整備率は約8割に上昇しているが、データの共有や利活用にあたっては、さまざまな課題も指摘されているところだ。今回、2つの教育委員会に現在の状況について話を聞いた。

データの連携で教育効果を出せるチーム学校へ
福島県・新地町教育委員会

 文科省の「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」は、8月26日、これまでの論点を整理した中間まとめを公表した。それによると、統合型校務支援システムの整備率は2022年3月現在で79・9%に達しており、導入が進んでいる。一方、多くの教育委員会では「セキュリティー対策を踏まえて校務支援システムを自前のサーバーに設置し、閉鎖網で稼働させ、校務用端末も職員室に固定されていることが多い。現在のGIGAスクール環境下では教育DXや働き方改革の流れに適合しなくなっている」と指摘し、新たな校務支援システムへ転換する必要性を訴えている。
 こうした中、次世代の校務情報化のモデルケースとして注目されるのが、福島県相馬郡新地町教育委員会だ。統合型校務支援システムを授業・学習系のシステムとデータ連携させ、児童生徒の学習状況や、教員の指導状況を可視化して素早く把握し、適切な指導・評価、授業改善に役立てている。
 同町は約10年前から震災復興の一環としてICT活用に町を挙げて取り組んできた。「さまざまなアプリを使い、子どもたちの評価に使える学習データは蓄積された。だが、校務系と学習系のデータが連携していないため、評価する際には別のアプリを使って入力し直したりするなどの煩雑さがあった。学習データの個別性を解消し、活用したいという課題感があった」と振り返るのは、教育総務課指導主事の佐藤和子氏だ。
 震災後の児童生徒の「心のケア」の充実・継続を図るため、SSW(スクールソーシャルワーカー)などとの連携をはじめ「チーム学校」の組織づくりも進んだ。しかし、個別対応に必要な情報を共有するのに時間と手間がかかり、教員の負担も増大していたという。
 そこで2015年度から、総務省「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」、文科省「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」「エビデンスに基づいた学校教育の改善に向けた実証事業」において、統合型校務支援システムと授業・学習系システムのデータ連携、またその活用の研究を始めた。
 課題設定に当たっては、「出欠や保健室利用、意識調査結果等と学習時の状況を連携して可視化し、不安を抱える児童生徒の早期発見・支援につなげる」「学習時間による家庭学習状態の可視化、評価等へのデータ連携」「協働学習ツールにおける発表回数やコメント内容などの蓄積・分析表示」などの8つの課題を町内の小学校3校、中学校1校で設定した。

早期発見・対応に役立つデータの共有と可視化
 不安を抱える児童生徒の早期発見などのいくつかの取り組みは、研究が終了した現在も継続して取り組んでいる。教員の感覚ではなく明確な根拠をもとにした指導が素早くできるようになったからだ。
 欠席傾向にある児童生徒について、担任が子どもの意識調査を見ると「学級への依存度が低い」群にあると分かった。このデータを昨年と比較、保健室利用の状況と重ねるなどして瞬時に可視化。養護教諭やスクールカウンセラーに共有した結果「少し注意して見ていく必要がある」との結論に達したというケースがあったそうだ。
 判断が遅れれば、学習の遅れやいじめ、不登校にもつながりかねない。児童生徒指導の経験が浅い若い教員も増える中、子どもたちの状況を客観的にアセスメントでき、個に応じたきめ細かな支援が早めに可能になれば、教員間の指導力の差も少なくなる。
 校務系と学習系データの統合により、児童生徒の基本情報は二重に入力する必要はなくなった。また、通知表や指導要録などを一元化することで、成績処理にかける時間が大幅に短縮された。「児童生徒と直接向き合う時間だけでなく、解決法を見出すために課題の分析に当てる時間が増えたのは大きい」と佐藤氏。データ連携後、翌年度の学校アンケートでは「自分は学校の中で居場所がある」と感じる子どもの割合が増えたという。「子どもたちを認めるポイントが可視化されることに、校務系と学習系のデータ連携のメリットがある」と指摘する。
 先進地域ならではの校務情報化の課題も見えてきた。一つは教職員に対するICT環境の充実だ。GIGAスクール構想による国の端末配備は学習者用が主であり、教職員用端末の整備やICT支援員の常駐配置は自治体の考え方や体力に左右される。佐藤氏は「子どもの未来のためにICT活用の教育効果を示し、校務の情報化による成果を住民にアピールすることは不可欠だ」と持続可能性を視野に入れた担当者の働きかけが重要だと述べた。

「福島県新地町の取組概要」P48よりデータ連携による不登校生徒への組織的対応のイメージ図

段階的な環境整備で全体コストを最適化
世田谷区教育委員会

「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」では、次世代の校務支援システムは「アクセス制御による対策を講じた上での、校務系・学習系ネットワークの統合」「必要な機能を限定したうえでの校務支援システムのクラウド化」「汎用のクラウドツールとの役割分担」のもと構築されるべきだとしている。
 これらを実現するには、既存の校務支援システムやネットワーク、端末の整理が校務処理の効率化や全体コストの最適化の面からも不可欠だ。

3つのネットワークを段階的に統合
 世田谷区教育委員会は2023年度より、新たな統合型校務支援システムの運用を開始する。小中学校で共通ベンダーによる校務支援システムは今回で3代目となる。教育ICTの統合運用の実現に向け、今年度は将来的なネットワーク統合、ヘルプデスク統合、学習用IDの統合等に向けた準備・調整に重点的に取り組んでいる。
 同区は2000年度に整備した教育のネットワーク、2007年度に校務ネットワーク、2021年度にGIGAスクール端末用の高速通信ネットワークと現在、3つのネットワークが稼働している。それぞれシステムや使用端末、管理ツールやヘルプデスクが物理的に分離しているため、コストと運用に課題があった。
 これをクラウド型の統合ネットワークに段階的に集約し、ヘルプデスクや保守も一元化してコストの最適化を図る計画だ。来年度以降は、互いのネットワークとの通信を可能にする仕組みを整備し、教員用タブレット端末からクラウド上の教材やファイルを利用可能とするなど、利便性も高まると教育政策部教育ICT推進課長の齋藤稔氏は話す。
 学習用IDについては、現在、児童生徒には学習用Microsoftアカウントを配付しているほか、授業支援アプリやAI型の教材アプリを導入している。これらのIDを令和5年度中に統合し、セキュリティーと利便性の向上を図る考えだ。

生徒一人一人を把握できるシステムに
 導入予定の統合型校務システムは「ダッシュボード機能」が搭載され、出欠情報や保健室利用状況などの「学校生活のデータ」と定期テストや単元テストの結果、提出物・創作物などの「学習データ」を連携させ、カルテのように一元管理する形で利活用する。
 数年後にはデータの分析や活用促進を図り「将来的には、教室にいる学級担任がタブレット端末を1台持っていれば、授業も、校務も保護者とのやり取りなどもすべてオールインワンでできるような環境を目指したい」と、齋藤氏は展望を語った。

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