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これからのスポーツの話をしよう スポーツ哲学のニューフロンティア

20面記事

書評

大峰 光博 著
正負両面から冷静に捉え直す

 スポーツは体力増強に役立つ。スポーツはフェアプレーの精神を養う。私たちの多くは、こうした言説を何げなく受け入れている。
 しかし、現実はどうだろうか。運動神経が鈍くて、スポーツは嫌いだという人もいる。相手のチームに勝つためには、手段を選ばないこともあるかもしれない。
 どのようなことにも肯定的な面と否定的な面がある。ところが、スポーツの場合には、肯定的な面ばかりが強調されてしまう。
 スポーツ哲学を専門とする著者は、世間一般の見方を問い直し、スポーツにまつわるさまざまな問題を考察していく。著者自身が、バスケットボールやトライアスロンに打ち込んだ経験を持つだけに、その論述は説得的だ。
 特に興味深かったのは、部活動をハードに続けることがスポーツへの逃避であり、その他の大切なものを捨て去ることだという指摘だ。退部する勇気も、時には必要なのである。
 勝利ではなく敗北を目指した無気力試合、大差の試合における優越性と恥の心理、報復死球やプレイオフ制度などの事例におけるジレンマについて、海外のスポーツ哲学者の見解を紹介しながら論じた章も、スポーツ倫理の在り方を鋭く問うている。
 本書を通じて、スポーツというものの存在と意義が、これまでとは異なったものとして見えてくるに違いない。
(1980円 晃洋書房)
(都筑 学・中央大学名誉教授)

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