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奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って―UDデジタル教科書体開発物語

14面記事

書評

高田 裕美 著
完成まで8年 支えたものは情熱

 パソコンで文書を作るときは明朝体を使うことが多いが、他にもたくさんのフォントがある。その中に「UDデジタル教科書体」がある。UDを冠しているように、障害のある人や高齢者にも見やすく読みやすく、読み間違いがなくて伝わりやすいようデザインされた書体である。
 著者は、このフォントを8年がかりで開発し、世に送り出した書体デザイナー。電車内のデジタル表示の文字が高齢者にも離れた場所の人にも見えるようにという依頼をきっかけに、UD書体の開発に取り組む。そして、当事者に聞くことが大事と訪れた特別支援学校で、ロービジョン(弱視)の子どもが、つく・つかない・とめる・はねる・はらうなどの運筆を学ぶには不十分と知り、教科書体の研究に手をつける。紆余曲折を経てUDデジタル教科書体が完成するまで、根気のいる作業を支えたものは、誰にも読める字を、という情熱。具体的な文字の比較や専門的な用語も使って説明されているので開発の苦労がよく伝わってくる。
 字が揺らいだり、ねじれたり、反転して見えるというディスレクシア(発達性読み書き障害)の子が、「これなら読める。おれ、バカじゃなかったんだ」と叫んだという。「誰一人取り残さない学校や社会を実現するために」「”できない子”と勘違いされる子どもたちを減らしたい」の言葉のように、多様性の時代の教育を考えることができる。
(1980円 発行・時事通信出版局、発売・時事通信社)
(大澤 正子・元公立小学校校長)

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