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子どもと「いっしょに生きていく」 発達障害と特別支援教育をめぐって

16面記事

書評

井上 信子 編著
礎築いた教員、保護者らの手記と論考

 本書は、発達障害領域や発達心理学の礎を全力で築いてきた著者たちの論考と手記である。
 序章は、日本を代表する発達心理学者の藤永保氏が、研究者への箴言と期待を込めた論考。「発達障害」という用語の再検討の必要性も論じている。この論考は遺稿となった。
 第1章は、通常学級でできる支援、環境整備と工夫、学習内容の調整と教授法、用具の工夫、連携など、汎用性の高い内容を提案。
 第2章は、通級指導教室担当教諭が、通常学級ではできない個に即した理解と支援、通級学級ならではのサポートの大切さを強調。
 第3章は、学校運営の考え方、教職員の組織づくりについて中学校長が論じ、難問を一つ一つ解決してきた過程を記述する。
 第4章は、子息の大学入試に当たり「大学入試センター試験配慮」の扉を開いた先駆者である伊井久恵さんの親心あふれる手記。
 第5章は、井上信子氏(臨床心理学)が、「発達特性」に苦悩する大学院生を、「知能」の得意分野を高めることで、「発達特性」を宝に変えて自己実現に導いた全過程を描く。
 終章は、児童精神科医の杉山登志郎氏が、最先端の臨床研究を提示しつつ、特別支援教育が通常教育をリードすることを期待する。
 精神療法の達人・神田橋條治氏の「推薦の辞」冒頭にある「障害児の苦しみを、可能性の兆、と見なす者の人生には、豊かな未来がある」の文章は、本書を貫いている。
(2530円 金子書房)
(規)

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