日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

命のビザ 評伝・杉原千畝 一人の命を救う者が全世界を救う

14面記事

書評

白石 仁章 著
慎重かつ大胆な行動、克明に紹介

 20世紀に入り、第1次世界大戦、世界大恐慌、第2次世界大戦という混乱と狂気の時代が続いた。人々の平穏な暮らしが一瞬にして奪われ、生きることさえ困難な事態に陥り、死に至る人々が大勢いた時代だった。
 本書の主人公の杉原千畝が、難関の外務省留学生試験に合格し、中国ハルビンで外交官生活のスタートを切ったのは、第1次世界大戦後である。語学能力にたけていた杉原は、ロシア語・中国語・ドイツ語・フランス語・英語を自在に操り、ヨーロッパ諸国で外交官として活躍した。中でも、第2次世界大戦の末期のリトアニアにおいて、日本を通過するビザをポーランド系ユダヤ人に発給したことが広く知られている。その数は2140人にも及び、家族を含めると数千人にもなるという。
 本書には、杉原が日本の外務省とやりとりした電報の内容が詳細に紹介されており、慎重かつ大胆にビザ発給手続きを進めていた様子がよく分かる。また、他国の外交官たちが、それぞれの立場から多くのユダヤ人の命を救ったことも克明に描かれている。志を同じくする外交官たちの連携が随所にあったのだ。
 杉原は、1985年にイスラエルから「諸国民の中の正義の人」と認定され、ユダヤ人を救った異邦人として顕彰された。杉原が発行したビザによって、世界各国で人々の大切な命が引き継がれていったのである。
(2420円 ミネルヴァ書房)
(都筑 学・中央大学名誉教授)

書評

連載