これから大人になるアナタに伝えたい10のこと 自分を愛し、困難を乗りこえる力
17面記事
力サヘル・ローズ 著
痛み・苦しみから前向くヒント
戦争孤児、貧困、虐待、外国ルーツ、いじめ―これら全てを経験した女性がいる。俳優のサヘル・ローズさんだ。10年以上にわたり世界の紛争・貧困地域を訪れ、子どもの支援活動を続ける人物でもある。本書は、複雑な家庭環境やいじめ、不登校などに悩み苦しむ読者を想定し、痛みに寄り添い、「それでも大丈夫」と前を向くための10のヒントを提案する。
前半の五つは自身の生い立ちから、後半の五つは世界を旅してたどり着いた「真実」から紡ぎ出されたメッセージだ。苦難に満ちた個人の人生から世界の平和を祈るダイナミズム。そこに飛躍はなく、著者が一歩一歩自分の足で生き抜いた地続きの物語がある。
題材の重さに比して、文体はあくまで優しく柔らかい。読者に直接語り掛けてくる独特のリズムが心地よく、一気に読了できる。その語りは時折、親や教員にも向けられる。例えば「大人も弱みを見せて」と著者は言う。「学校の先生も『昔は、ぼくもよく失敗して大変だったんだよ』と弱さを見せて素っぱだかになってくれたら、子どもは相談しやすくなるのではないでしょうか」
著者は「自分が本音でいられるのは、『書く』時だけ」という。自身の心をさらけ出した本書は著者のまなざしそのものだ。その視点を通じて自己を顧みれば、明日の子どもへの接し方が少し、変わるかもしれない。生きづらさに苦しむ若者はもちろん、かつて子どもだった全ての大人にお薦めしたい。
(1650円 童心社)
(弓)