次の流行に備える、環境衛生機器の活用 空気質管理が左右する“これからの学校安全”
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集団感染を抑止するには、手洗い習慣が大事になる
近年、学校現場では、これまで季節ごとに流行がはっきりしていた感染症が、年間を通して断続的に発生する状況が続いている。こうした環境下では、集団生活・集団活動が避けられない学校において、人的な努力だけに依存しない「空気質管理」の重要性が一段と高まっている。そこで、感染症の最新動向とともに、環境衛生装置の導入メリットや最新機器、先進校の取り組みを紹介し、学校の安全性向上に向けた実践的な視点を提示する。
季節を問わず流行する感染症の動向
学校管理下における感染症では、インフルエンザやRSウイルス、アデノウイルスなどの呼吸器系感染症が、従来の冬季中心の流行パターンから外れ、春・夏・秋を問わず発生する傾向が顕著である。特に2023~2025年にかけては、インフルエンザの夏季流行や、RSウイルスの秋季ピークなど、これまでの常識では想定しにくい動きが見られた。これは、気温・湿度の変動幅が大きくなったことに加え、パンデミック期の行動制限による免疫ギャップが影響していると考えられている。
2026年春以降も、既存の季節性呼吸器疾患は引き続き高リスクであると考えられる。インフルエンザは例年より早い10月からA型が流行し、12月には全国的に警報レベルへ達した。しかも1月に入ってからは、B型インフルエンザが異例の早さで急増。東京都は2月5日、統計開始以降初めて1シーズンに2度目となる警報基準超えを発表するなど、春先(3月~4月頃)にかけて全国的な流行が続きそうだ。
通常は冬期にピークを迎えるRSウイルスは、昨年と同様に上昇しており、春先まで長引く見込み。また、みずぼうそうやA群溶連菌感染症も増え出しており、春にかけても一定の報告数が続く可能性がある。感染性胃腸炎は今年に入って昨年期より増加傾向にあり、4月にかけてピークを迎えそうだ。
さらには、新たな変異株の出現リスクも否定できない。国際往来の増加により、海外で流行する株が国内に持ち込まれる可能性が高いためだ。これらの感染症は、飛沫・エアロゾル・接触といった複数の経路で広がるため、従来の手洗い・換気・マスクといった人的努力だけでは限界がある。特に教室のように長時間滞在する空間では、空気質の管理が感染拡大防止のカギとなる。
危惧される麻疹、デング熱の流行~国内では珍しい感染症が学校に迫る現実~
気候変動と国際往来の増加は、これまで国内では限定的であった感染症のリスクを高めている。特に麻疹(はしか)とデング熱は、学校現場でも警戒すべき疾患となっている。
麻疹は空気感染し、感染力が極めて強いため、ワクチン2回接種による免疫獲得が不可欠だ。しかし、コロナ禍で定期接種の機会が減った世代や成人の未接種者が一定数存在し、免疫ギャップが生じている。その結果、海外から持ち込まれたウイルスが国内で散発的に広がりやすい状況になっており、学校で一例でも発生すれば、短期間で広範囲に感染が拡大する可能性が高い。
デング熱は蚊(ヒトスジシマカ)によって媒介されるウイルス感染症である。近年、海外から帰国した渡航者がデングウイルスを持ち込み、国内で蚊を介した二次感染が発生する事例が報告されている。国内での流行は限定的であるものの、都市部を中心にヒトスジシマカの生息域が拡大しており、感染拡大のリスクは年々高まっている状況だ。
学校は屋外活動が多く、児童生徒が蚊に刺される機会が多い環境といえる。このため、雨水槽や植木鉢の受け皿など、水が溜まりやすい場所を定期的に点検・除去する、部活動で使用する器具やグラウンド周辺の放置物に水が溜まらないよう管理するなどが求められる。
こうした感染症は、従来の学校安全管理の枠組みでは十分に対応しきれない。空気感染・媒介生物・国際往来といった多様な要因が絡み合うため、環境衛生装置の導入や空気質管理の強化が欠かせない。
教室・体育館等の集団感染を防ぐ、環境衛生装置の活用~人的努力の限界を補う仕組みづくり~
学校現場では、教職員の努力により手洗い指導や換気の徹底が行われているが、これだけでは感染リスクを十分に下げられない。特に冬季の換気は寒さとの両立が難しく、CO2濃度が高まりやすい。文科省の調査でも、サーキュレーターやCO2モニター、HEPAフィルタ付空気清浄機の設置率は十分とはいえず、環境整備の遅れが課題となっている。
環境衛生装置の導入メリットは、空気中のウイルス・細菌・微粒子を除去し、感染リスクを低減できる。CO2濃度の可視化により、適切な換気タイミングを判断できる。教室・体育館・音楽室など、密集しやすい空間の安全性を高められる。教職員の負担軽減につながる。災害時の避難所としての学校機能を強化できることなどが挙げられる。
特にHEPAフィルタ付空気清浄機は、エアロゾル感染対策として有効である。また、サーキュレーターを併用することで空気の滞留を防ぎ、教室全体の空気循環を改善できる。
そのほか、近年の新築・改修校舎では、外気を取り込みながら空調を行う換気機能付きエアコンや天井埋め込み式加湿器などが普及しており、冬季の換気による室温低下を抑制できる。トイレや手洗い場も自動水栓や非接触型ディスペンサーを取り入れ、手指衛生の徹底を支援することが重要になる。
学校の感染症対策導入事例~環境整備が学びを守る~
では、実際に学校ではどのように環境衛生装置を活用すればいいのか。都市部にある中学校では、全教室にCO2モニターとHEPAフィルタ付空気清浄機を導入した。CO2濃度が上昇するとアラームが鳴り、授業中でも適切なタイミングで換気が行われるようになった。導入後、インフルエンザによる学級閉鎖が大幅に減少し、教職員からは「換気の判断が客観的になり、負担が軽減した」との声が上がっている。
体育館での集団活動が多い小学校では、大型サーキュレーターを複数台設置し、空気の滞留を防ぐ工夫を行っている。運動会や学習発表会など大規模行事でも、空気循環の改善により安心して活動できる環境が整った。
新設校である高校では、設計段階から空気質管理を重視し、換気機能付きエアコン、空気清浄機、CO2モニターを標準装備とした。ICTを活用し、空気質データを校内ネットワークで一元管理する仕組みを導入している。生徒の健康管理だけでなく、災害時の避難所としての機能強化にもつながっている。
学校種別の感染症予防ポイントとは

学校種ごとの感染予防で取り入れたいポイントを整理すると、次のようなものになる。
小学校では、児童の行動特性に合わせた「習慣化」を重視する必要がある。
①行動習慣の定着を支える環境づくり:廊下・教室前に手洗い導線を可視化する足跡マークを設置。手洗い歌・動画を使った「30秒手洗いチャレンジ」。低学年向けにイラスト中心の感染症ルール掲示を作成するなど。
②教室環境の改善:机間距離を確保しやすいよう可動式家具を導入。CO2センサーを教室ごとに設置し、ランプ色で換気タイミングを児童が判断。給食前の「健康観察タイム」を5分確保し、担任が体調変化を把握するなど。
そのほか、 保護者連携の強化として、欠席連絡アプリで症状チェック項目を標準化するなども有効になる。
中学校になると、自律的行動+部活動対策がカギになる。
①生徒主体の感染対策委員会:生徒会が中心となり、「感染対策パトロール」を実施。校内放送で生徒が換気・手洗いを呼びかける取り組み。
②部活動の感染対策:活動記録アプリで活動場所・人数・接触度を記録。屋外練習の優先化、器具の共有を減らすための備品追加。室内競技では換気計画(何分ごとに窓を開けるか)を明文化。
③ICTを活用した健康管理:毎朝の健康観察をオンライン化し、AIが要注意者を抽出。学年主任・養護教諭がダッシュボードで状況を把握する など。
高等学校では、行動範囲の広さ・進路活動との両立が課題となる。
①進路活動のオンライン化:大学説明会・企業説明会をオンライン併用。面接練習をオンラインで実施し、感染拡大期でも継続可能に。
②校内の空気質管理の高度化:CO2センサー+自動換気システムを導入。教室の空気清浄機配置をAIでシミュレーションし、最適化。
③自主性を尊重した感染対策:生徒が自分で体調を記録するセルフヘルスチェックアプリ。校内の混雑状況を可視化するWi―Fiデータ活用(食堂・図書館の混雑回避)。
④部活動・大会参加の安全管理:遠征時の健康チェックリストを標準化。宿泊行事では部屋割り・移動動線の感染リスク評価を導入する など。
特別支援学校では、個別ニーズに応じた「合理的配慮」が中心になる。
①感覚特性に配慮した対策:マスク着用が困難な児童生徒には、フェイスシールド・透明パーティション・距離確保など代替手段を用意。手洗いが苦手な児童向けに、視覚支援カード・手順写真・タイマーを活用。
②医療的ケア児への対応:看護師・医療機関と連携し、個別の感染対策計画を作成。吸引・経管栄養などのケア時は、陰圧装置や専用スペースを確保。
③教室環境の工夫:換気が難しい教室では、高性能HEPAフィルタ搭載の空気清浄機を複数台配置。感染疑い時に利用できる静養室のゾーニングを徹底。
④送迎・移動の安全確保:スクールバスの座席固定・乗車記録のデジタル化。校内移動を最小限にするため、教員側が移動する授業方式を採用する など。
「人的努力」から「環境整備」へ
感染症の季節性が崩れ、気候変動や国際往来の増加が新たなリスクを生む現代において、学校の感染症対策は「人的努力」から「環境整備」へと軸足を移す必要がある。空気質管理は、学びの継続性を守るだけでなく、学校のレジリエンスを高める基盤となる。だからこそ、各学校における環境衛生装置の導入をいち早く進めていく必要がある。

