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学校施設の個別施設計画の充実・見直しが進む

11面記事

施設特集

児童生徒の熱中症対策や避難所機能の強化に向け、体育館は断熱改修と併せた空調整備を急ぐ必要がある

~変化する社会環境に対応する再設計~

 学校施設の長寿命化計画、いわゆる個別施設計画の策定から、おおむね5年から10年が経過しようとしている。当初は計画的な改修・建替えにより、施設の安全確保と財政負担の平準化を図ることが目的であった。しかし現在、多くの地方公共団体で計画通りに事業が進んでいないという実態が明らかになっている。

教育ニーズの拡張と施設要件の変化

 個別施設計画の見直しが求められる背景には、教育環境を取り巻く急激な変化と、建築事業費の高騰という2つの構造的要因がある。GIGAスクール構想の進展により、ICT環境の整備や電源容量の増強、ネットワークの再構築が必要となり、従来の教室設計では対応しきれない状況が生まれている。また、新学習指導要領では探究的な学びや協働学習が重視され、可動式家具や多目的スペースの確保など、空間の柔軟性が求められるようになった。特別支援教育の充実に伴い、個別支援室や静養スペースの整備など、追加的な施設ニーズも増加している。
 さらに、脱炭素化の流れは学校施設にも及び、断熱改修、LED化、空調設備の更新、再生可能エネルギーの導入など、環境性能向上のための投資が不可欠となっている。これらは当初の個別施設計画策定時には十分に織り込まれておらず、結果として計画の前提条件そのものが変化している。
 文科省の調査によれば、すでに130の地方公共団体(全体の13%)が計画の見直しを実施しており、その理由として教育環境の質向上、脱炭素関連施策、人口動向の変化、学校規模の適正化などが挙げられている。特に人口減少が進む地域では、学校統廃合や複合化を視野に入れた再編計画の再検討が避けられず、施設配置の最適化が喫緊の課題となっている。

財政制約と防災機能強化が迫る計画の再設計

教育ニーズの変化や建築事業費の高騰などにより、学校施設の改修計画を見直す自治体が増えている

 一方で、資材価格や人件費の高騰は、計画の実行性を大きく揺るがしている。近年で実施した工事のコスト分析に基づく計画の時点更新では、コストが1・5~2倍に急騰している事例も多く見られる。したがって、建替えや大規模改修が当初計画どおりに進んでいる自治体は約1割にとどまり、多くの自治体で維持・更新コストが財政を圧迫している。特に体育館や特別教室など大規模空間の改修は費用負担が大きく、優先順位付けが難しい。こうした状況を受け、寄付やふるさと納税、クラウドファンディングなど、多様な財源確保策を模索する自治体も増えている。
 しかも、気候変動の影響により、学校施設に求められる機能は「教育の場」から「地域の防災拠点」へと拡張している。猛暑対策としての空調整備、避難所としての断熱性能向上、非常用電源の確保など追加的な整備が必要となり、計画の再設計は避けられない状況である。特に体育館は避難所としての利用頻度が高く、断熱・空調の整備は優先度の高い課題となっている。
 こうした複雑な課題を踏まえ、文科省は社会環境の変化を反映した計画の充実・見直しを促すとともに、先進事例を提示し、自治体が実効性の高い個別施設計画を再構築できるよう支援を進めている。

財政フレームと連動させた実行性の確保

 兵庫県西宮市の前計画は、総合計画の財政フレームを拡充し、建替え・改修を積極的に推進する内容であった。しかし策定から4年が経過した2023年度時点で、想定を上回る改修需要や人件費・資材費の高騰が顕在化した。そこで同市は、副市長をトップとする部局横断的な会議体を設置。コスト削減策の検討や、独自の改修・改築時期の判断基準の設定、最新の財政フレームと連動した実施計画の策定を進めた。
 長寿命化改修の内容と対象施設を厳選することで当面の財政負担を抑制し、計画の実行性を担保した点が特徴である。財政制約を前提にしながらも、持続可能な整備計画へと再構築した事例である。

住民合意を重視した「新しい学校像」の再設計

 埼玉県上尾市は2021年5月、35%のコスト削減を目標に学校再編を含む計画を策定した。しかし、住民の十分な理解を得られず、市長が見直しを決断した。2022年度には基本計画を改定し、財政枠ありきではなく、教育的観点を重視する方針へ転換した。検討委員会を教育委員会と首長部局の部課長で構成し、教育総務課内に新設した「新しい学校づくり担当」が中心となって再検討を進めた。
 特筆すべきは、全児童生徒の保護者、全教職員、市民を対象に約2万件のアンケートを実施した点だ。学校施設の在り方や適正規模・適正配置について幅広く意見を集約し、合意形成を図りながら個別施設計画の具体化を進めた。計画の実効性には、住民理解と納得が不可欠であることを示す事例である。

都市づくりの視点を取り入れた再編

 広島県福山市は2016年に公共施設再構築の基本方針を策定し、学校施設整備を進めてきた。しかし策定から約10年が経過し、子どもを取り巻く環境や教育課題はさらに複雑化した。そこで同市は、老朽化対策にとどまらず、学校再編や施設複合化も含めた抜本的な見直しに着手した。学校を単体施設としてではなく、都市づくりの一環として位置付け直し、体制構築とスケジュールを明確化した点が特徴である。
 学校施設計画は、教育政策であると同時に都市政策でもある。その視点を明確にした取り組みといえる。
 個別施設計画の見直しは、教育と財政を両立させる戦略的再設計である。建築費高騰や人口動態の変化が進む中、実行性を確保しつつ、教育的価値をいかに高めるかが問われている。財政フレームとの整合、住民合意の形成、都市政策との連動など、多角的な視点を取り入れた計画へと進化させることが、これからの学校施設整備のカギとなる。

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