日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

教師事始め 学校の今を読み解くための一冊

14面記事

新刊案内

 学校がパラダイム転換を迫られています。発達課題を抱える子どもや外国籍の子どもへの対応、AI(人工知能)社会を見据えた教育…。転換期にある現代の学校教育を読み解くための一冊を3人の学校関係者に挙げてもらいました。夏休みの特別編です。

学校教育を捉え直す契機に
悩む力 べてるの家の人びと
斉藤 道雄 著

 新自由主義的な競争の中に投げ込まれ、100年先の社会を考えろとか新しい教育課題と向き合えなどと言われ、働き方改革も求められ…。教員は、幸せも不幸さえも自分で選べないような状況に置かれているんだよな、と思う。
 北海道浦河町にある、主には統合失調症の人たちが集まって共同生活をしていく場所。それが「べてるの家」だ。「治りませんように」「降りていく生き方」「当事者研究」などさまざまなワードがここを基軸に発信された。そこに入り続けた著者がまとめた『悩む力』は僕にとって、ゼロ年代以降の自分の教室実践を考えるバイブルであり続けた。
 何度か、べてるの家にも足を運んだ。僕は学校教育を捉え直す視点や考え方は、おおむね学校教育の外にある、と長く考えてきた。しかも、学校的なものを砕いて新たに構成し直す視点は、学校的なものから一番遠いところにあるのではないかと。
 それは上や下ではなく、遠くから、まさに水平にやってくるのではないかと。薄っぺらな教育書では届き得ない、本当の希望も絶望もここにある。そういう場所から考えることでしか、現在の学校教育を考え直し、編み直すことは難しいのではないかと、僕に内省を迫り続ける一冊だ。
(石川 晋 NPO授業づくりネットワーク理事長)

「進化型」組織の在り方とは
ティール組織
フレデリック・ラルー 著

 変化の激しい時代における組織の進化について、大変示唆に富む一冊である。組織の「長」は、特に本書が提示する「7つの組織の発達段階」を知っておくべきであろう。
 7つの発達段階とは、無色→神秘的→衝動型→順応型→達成型→多元型→進化型(ティール)を指す。
 文中より進化型(ティール)を抜粋する。
・進化型(ティール)では他人から認められること、成功、富、帰属意識は快楽的な体験であり、エゴを充足させる甘酸っぱい「わな」と捉えられている。
・人生は、自分の本当の姿を明らかにする旅
・「大志を抱いているが、野心的ではない人」
 本書を読むと、今「イケてる」といわれる企業等の組織が、工業化時代のマネジメントを捨て去り、多様性と人権に沿った経営で成功していることがよく分かる。
 実際、次世代である若者を中心に、富や名声だけでなく、精神性高く社会や他者のために働きたいという人も少なくない。次世代の組織の在り方や志向についても理解できる。
 学校は、社会の縮図といわれている。進化型(ティール)を目指すことが児童・生徒にとって未来志向でよい組織となるだろう。
(平川 理恵 広島県教育長)

学ぶべきは「いかに学ぶか」
ライフロング・キンダーガーテン
ミッチェル・レズニック 著

 社会の変化のスピードがこれだけ速くなると、子どもたちを案内してくれる既成の「地図」はもはや役に立たない。必要なのは進む方向を示してくれる「コンパス」である。
 既成の地図をあてにしていると、既にある道を一歩一歩前進することしかできなくなってしまう。既成の権威や常識を疑って自分で考えることが必要だ。
 子どもたちには、そのための方法やインスピレーションを学ぶためのメンターやロールモデルが必要で、そうした体験を提供できなければ、学校の価値は減る一方だろう。学ぶべきは「何を学ぶか」ではなく「どうやって学ぶか」なのだ。
 最先端の研究活動と幼稚園の学び。最も遠い位置にある両者の共通点は「何かへの興味を友達やコミュニティから得て」行動が起こり、「その行動のなかから『学び』が起きてくる」ということだ。アクティブラーニングの本質がここにある。
 予測不能な社会で生き抜くために現在の学校教育が役に立たないことは明らかだ。幼稚園から大人まで、生涯学び続けることができる社会を創る。この視点から学校制度や教育の在り方を考えていく必要がある。この本を読んで、初めてプログラミング教育やアクティブラーニングの必要性が理解できる。
(西郷 孝彦 東京都世田谷区立桜丘中学校校長)

新刊案内

連載