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百見は一験に如かず 共存から共生へ 一人の教育実践者を追って

18面記事

書評

山崎 滋 著
多田 孝志 監修
本物体験を重視した教育者の足跡

 本書は、自立心が高く進取の気風豊かな島根県が生んだ希代の教育実践家の足跡を、同走者である著者がつづったライフ・ヒストリーである。
 斎藤喜博氏のような全国版ではないが、それぞれの地において、その地の教育を支えた気骨ある教育者が存在する。島根県教育界の精神的支柱である森泰氏は、「大胆で破天荒な、そして石橋を叩いて渡る人」として数々の挑戦を試みた。例えば、実験考古学として丸木舟による隠岐の島から本土への航海のエピソードは痛快である。また、言霊とも言うべき珠玉の言辞も多く残した。氏のモットーである本書のタイトルの他、「二十坪からの脱出」(教室から抜け出そうの意味)「教師の役割は渡し船の船頭さん」「地域住民は教師の心強いパートナー」「卒業式は最後の授業」など、本物体験を生かした授業づくりで、子どもの学びに火をつけることを常に念頭に置いた真正の実践家の思いだからこそ読了後、心に刻み込まれる。監修の多田孝志氏は「共生観を基調とした人間関係をもとに、精緻かつ広範囲な資料をもとにまとめた第一級の教育実践史」と述べているが、うなずける。
 本書は教育方法のハウツー本でも、具体的な授業アイデア集でもない。ただひたすら教育に尽力し、降り掛かる困難を熱量で乗り越えていく教職人生の物語を通して、そばで励ましてくれるような気がして元気が湧いてくる。
(2090円 三恵社)
(青木 一・信州大学学術研究院准教授)

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