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新時代の道徳教育「考え、議論する」ための15章

12面記事

書評

貝塚 茂樹 著
温故知新を地で行く重厚な書

 本文は大きく3部で構成され、巻末には18ページに及ぶ必須文献索引と他に人名と事項の索引を載せる。入念な心配りがうれしい。
 第I部「道徳教育の理論」では、人間とは、という根源の問いから始まり、教育、とりわけ道徳教育の必要性、重要性を古今東西の文献、学説によって分析、吟味、解明する。「道徳は教えられるのか」「個性と教育」「宗教と道徳」「戦後教育と愛国心」という難問に正対し、率直な論究を開陳するのだが、その静かな語り口には大きな説得力がある。
 この第I部にのみ2編のコラムがある。ここには著者の底流ともいえる考え方が色濃くにじみ、私は強く心を打たれた。「個性重視」に傾きがちな風潮への危惧と提言が1編、他は、散華した英霊が今の日本の姿を見たら何と言うか、それにわれわれはどう応え得るか、と問う「道徳教育と『死者の民主主義』」なる1編である。著者渾身の重厚な所信表明と見た。
 第II部「道徳教育の歴史」は、著者の専門分野の豊富な資料に基づく省察の論考。「教育勅語」「修身科」「大正自由教育」「戦後日本の道徳教育論争」などを取り上げてその功罪を論ずる。かかる分析の上に立ち、「特別の教科道徳」誕生の経緯と意義について詳細な見解と期待を述べる。第III部は授業論。
 温故知新を地で行く、中庸不偏の大部の労作は、心ある教育者にとって必読の一書と感心し強く推薦したい。
(3080円 ミネルヴァ書房)
(野口 芳宏・植草学園大学名誉教授)

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