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明るく清潔な学校トイレに生まれ変わる

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 学校施設の老朽化に伴う長寿命化改修が進められる中でも、多くの自治体が最優先課題と位置づけているのが、いまだ5割近くが和便器のままになっている「トイレの洋式化」改修だ。ここでは、バリアフリー法改正で進む「多目的トイレ」の整備と併せて、学校トイレの環境改善を取り上げる。

洋式トイレ改修が本格化
 「暗い」「汚い」「臭い」「怖い」「壊れている」の5Kといわれながら、長らく見過ごされてきた学校トイレ環境が、ここ数年でようやく改善する動きが本格化してきた。最も大きな理由は、耐震化や普通教室のエアコン整備が概ね完了し、次の大規模改修となる財源をトイレ改修に充てる自治体が多くなったことが挙げられる。
 また、その裏づけとなる学校トイレ環境を改善するための工事には国庫補助(3分の1)を手当。補助の範囲も、排水設備、電気等の付帯設備の改修工事、床・壁・天井・建具等の内装の改修工事を含め、全体で上限2億円までと手厚い。しかも、実質の地方負担は26%に縮減できることから、予算の厳しい自治体においては改修を後押しする材料になっている。
 こうした動きは文部科学省の「学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議」が出した報告書においても、「公立小中学校における洋式トイレ及び空調(冷房)設備の普及率は住宅のそれを大きく下回っており、生活文化からの乖離や近年の厳しい気象条件に対応した教育環境の確保などの観点からも各地域の実態を踏まえた整備が求められる」と指摘し、「洋式便器を採用するなど、生活様式や児童のニーズ等を踏まえた便所を計画することが重要である」と改善を促している。
 それゆえ、昨年9月の調査結果では、公立小中学校施設における洋式トイレ率は57%に達し、前回調査(2016年)と比べて13・7ポイントも増加している。
 明るく清潔なトイレに生まれ変わることは、子どもの健康やモラルの向上につながるとともに、新型コロナウイルスの感染拡大を抑止する衛生対策としても欠かせない。そのため、床・ブースのドライ化や手洗い場の自動水栓化、壁・ドア等の抗ウイルス化も含めて改善することがトレンドになっている。

インクルーシブな教育環境へ
 トイレの洋式化に伴い、気兼ねなく使える男子トイレの全個室化やLGBTへの配慮などから男女共用のトイレを設ける学校もある。愛知県豊川市では、トイレの快適性を追求した結果、2016年度から市立小中学校で男女共用化のトイレ設置を始めた。長沢小学校で改修したトイレは、共通の入り口から入る1つのスペースに、女子用、男子用、男女共用、男女共用で車いすでも利用可、男子用小便器の計5つの個室を完備。どれを使うか児童が選ぶことができるようになっているほか、洗面台は自動水栓を採用し、鏡もプライバシーに配慮し個別に設置している。
 また、中部小学校は特別支援教室近くの1階トイレ空間全体を「みんなのトイレ」として改修。長沢小と同様に男女共用や小用専用の個室など多様な選択肢を用意したほか、温水洗浄便座の設置や臭いや汚れの発生を抑える床材も採用した。豊小学校は各ブース内に手洗器と鏡を設置し、個室完結型トイレに改修。学校トイレとは思えない、ブースごとに異なる草花や鳥、ハートモチーフなどの絵柄の壁紙も印象的だ。
 市によると、改修後の使用状況について行った児童のアンケート結果では、男女別のトイレを使用してきた児童の過半数が男女共用トイレを肯定的に受け止めていると指摘。「みんなのトイレ」を整備した一宮西部小学校の1年間利用後のアンケートでも、5年生112名のうち100名が利用し、1人当たり年間5回使われていることがわかり、先生方も驚いているという。
 さらにはトイレ改修を機に5年生を対象に男女の性差を教える中でLGBTについても教えたが、トランスジェンダーの人たちに対して子どもの方が柔軟性のある考え方を持っていた。学校としても「みんなのトイレ」があるから、性的マイノリティーのことも普通に伝えることができたとし、数年後には共用トイレが一般的となり、施設を使うすべての人が気兼ねなく利用できるようになればと期待している。

障害等の有無にかかわらず快適な施設に
 一方、近年高まるインクルーシブな社会環境を構築していく視点から、学校においても障害等の有無にかかわらず、誰もが支障なく学習・生活ができる環境に改めていく必要がある。なかでも学校は、少子化が進む中でも特別支援学級に在籍する児童生徒数は増加傾向にあり、公立小中学校等の約8割に特別支援学級が設置されているほか、医療的ケアが日常的に必要な児童生徒も増加している実態がある。しかも、「障害者の雇用の促進等に関する法律」が改正され、障害のある教職員が働きやすい環境整備も併せて進めていくことが求められている。
 加えて、学校施設は公立小中学校等の9割以上が災害時の避難所に指定されている重要なインフラだ。したがって、災害時には幼児や妊婦、高齢者といった幅広い年齢層の人たちの利用が想定されることから、移動を円滑にするバリアフリー化や多目的トイレの設置も含め、避難所の防災機能を一層強化していくことが必要になっている。
 さらに、昨年5月にバリアフリー法が改正され、これから公立小中学校等を新築する場合は、多目的トイレやスロープ、エレベーターなどの整備が義務づけられたとともに、既存の校舎でも整備の改善が求められるようになった。こうした状況から、文部科学省は昨年9月に「学校施設におけるバリアフリー化の加速に向けた緊急提言」を通知。国庫補助率を引き上げるなどして、今後5年間で学校施設のバリアフリー化を急ピッチで進めていく計画だ。

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