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学校施設のZEB化を促進 省エネ+創エネでエネルギー収支「ゼロ」へ

14面記事

施設特集

老朽化改修とともに脱炭素化を進める

 近年、学校施設は普通教室のエアコン設置やICT環境の整備による高機能化、夜間や休日等に行われる学校教育以外の地域開放の推進により、使用するエネルギーが増加傾向にある。
 しかも、学校施設の老朽化がピークを迎える中、子どもたちの多様なニーズに応じた教育環境の向上と老朽化対策の一体的整備が必要になっている。そこでは、中長期的な将来推計を踏まえ、トータルコストの縮減に向けて計画的・効率的な長寿命化改修を図るとともに、年間で消費する建築物のエネルギー量を大幅に削減する「省エネ」と、太陽光発電など自然の力でエネルギーを創り出す「創エネ」を組み合わせたエネルギー収支「ゼロ」を目指した建物を目指すこと。すなわち、学校施設のZEB化(ゼロ・エネルギー・ビル)を促進することが求められている。
 文科省ではこうした脱炭素化をより一層進めるため、取り組みに対する支援の拡充や、木材利用、LED照明といった標準仕様の見直しによる建築費の単価を対前年度比+28・1%に改訂することを挙げている。

50年カーボンニュートラルの実現に向けて
 そもそも、脱炭素化に舵を切らなければならない理由は、近年、気温上昇が主な要因とされる異常気象が世界各地で発生し、日本においても河川の氾濫や浸水を引き起こす豪雨・台風災害や猛暑が頻発していることがある。しかも、今後、豪雨や猛暑のリスクがさらに高まり、人間の生命・健康はもとより、農林水産業や産業・経済活動などへの影響もより拡大すると予想されているからだ。
 そんな地球規模の課題である気候変動問題の解決に向けて、15年のパリ協定で採択されたのが、世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて、2度より十分低く保つとともに1・5度に抑える努力を追求する、世界共通の長期目標になる。
 しかし、1・5度の水準に抑えるためには、二酸化炭素排出量を50年頃に正味ゼロとする必要があり、世界各国でカーボンニュートラルを目標として掲げる動きが広がった。日本も昨年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを宣言。今年4月には30年度に温室効果ガスを13年度から46%削減(従来目標は26%削減)まで引き上げること、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明した。

日本企業で加速化する脱炭素化
 削減目標を前倒しするねらいには、カーボンニュートラルへの挑戦が閉塞化した産業構造や経済社会の変革をもたらし、競争力を持つことで国としての大きな成長につながるという考えがある。事実、環境・社会・ガバナンス要素を投資判断に組み込む「ESG投資」の規模が近年大きく拡大しており、気候変動や脱炭素化への対応が評価軸の一つになっている。
 また、その潮流に敏感な日本の企業も積極的に取り組んでおり、脱炭素化に向けた中長期目標設定を行う認定企業数は米国に次ぐ第2位、事業活動に必要な電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す企業数も第2位となっている。
 それでも目標を達成するためには、日本全体で取り組んでいくことが欠かせない。となれば、自治体が管理する学校を含む公共施設全般の脱炭素化を加速化していく必要がある。そこで、政府は今後5年間の集中期間に政策を総動員し、①少なくとも100箇所の脱炭素先行地域を創出、②重点対策を全国津々浦々で実施することで、「脱炭素ドミノ」により全国に伝播させていく計画を立てている。
 その上で重点対策となるのが、公共施設や業務ビル等における徹底した省エネと再エネ電気調達と更新や改修時のZEB化への誘導になる。

高効率空調機や断熱化、自然エネルギー利用
 建物のZEB化が求められる理由は、業務部門(事務所・商業施設などの建物)からの二酸化炭素排出量が、16年度時点で日本全体の約2割を占めているからに他ならない。また、90年度以降の経済成長に対して産業部門からの排出量は17%減少したにもかかわらず、業務部門からの排出量は66%も大幅に増加していること。加えて、大規模災害時における電力需給の逼迫や国際情勢の変化によるエネルギー価格の不安定化を受けて、建築物におけるエネルギー的な自立の必要性も高まっている。
 そのため、18年7月に閣議決定されたエネルギー基本計画においては、20年までは国を含めた新築公共建築物等で、30年までに新築建築物の平均でZEB化を実現することを目指している。
 したがって、学校施設の老朽化改修においても、建物の断熱化や日射遮蔽、省エネ型設備機器への更新等の環境対策を行うことで、児童生徒の学習環境の改善や省エネルギー化を図ることが求められているのだ。
 つまり、消費電力を抑える高効率空調・照明機器の整備はもちろん、エネルギー負荷を低減する建材や断熱材、自然光や通風を利用した換気システム、雨水利用や地域木材活用、エネルギー効率の高い太陽光発電やガスコージェネレーションシステムなど、最新のエコ技術を活用した新たな学校施設づくりが期待されている。それは、文科省の22年度(令和4年度)の概算要求でも、学校施設のZEB化(高断熱化、LED照明、高効率空調、ペアガラス、太陽光発電等)と、木材利用の促進(木造、内装木質化)といった具体的な改善を示していることからも明らかだ。
 具体的には体育館の空調設置、断熱化などにより良好な室内環境を確保し、多様な活動に対応すること、校舎の柱や内装に木材を活用し、温かみのある学習・生活環境や脱炭素化を実現することなどだ。

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