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京都学派と自覚の教育学 篠原助市・長田新・木村素衞から戦後教育学まで

18面記事

書評

矢野 智司 著
哲学とのつながりを捉え直す

 本書の主題は、これまでの教育学説史・思想史研究において見過ごされてきた、西田幾多郎から始まる京都学派の教育学的意味を教育学研究史の中に正当に位置付けることである。
 日本の哲学研究において、京都学派が独自の重要な位置を占めていることは広く知られている。
 他方で、戦前から戦後にかけて、京都学派における教育学的思想が、社会的にも一定の影響力を持っていたことは、ほとんど忘れ去られている。
 本書は、京都学派に関わる個々の研究者が書いたテクストを、社会・歴史的な文脈に位置付けて、それらのテクストが書かれた状況や背景の中で理解し、その意味を明確にしたものである。
 そのことによって、研究者同士の個人的なつながりを通じて、人間形成としての「自覚の教育学」が連綿と受け継がれた様子を明らかにしている。研究者個人の思想が研究者のネットワークの中で醸成されていくプロセスが丹念に描かれている点も興味深い。
 明治期以降、欧米の教育学の輸入と紹介を通じて発展してきたとされている日本の教育学。そうした教育学説史の定説とは異なり、本書では、1910年代から1960年代にかけて日本の教育学が発展していたことが実証的に示されており、その研究的な意義は大きいといえる。
(8250円 勁草書房)
(都筑 学・中央大学教授)

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