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教育のリーダーシップとハンナ・アーレント

16面記事

書評

ヘレン・M・ガンター 著
末松 裕基・生澤 繁樹・橋本 憲幸 訳
「○○型」踏襲に思考停止を危惧

 グローバリゼーションの下で、教育方法や研修なども有力コンテンツとして商品化されるようになった。リーダーシップの概念(コンセプト)や実践例が国境を越えられるようパッケージ化され、「○○型リーダー」として次々に輸出されている。低価格で高品質を実現している北欧の家具メーカーの「フラットパック」方式のように、校長らはそれらを組み立て提供するだけの消費者(現場の配送者)になりつつあることに、著者である英国の教育政策学者ヘレン・M・ガンターは強い危機感を持ち警鐘を鳴らす。こうした教育界の「退行」状況に対し、ハンナ・アーレントの思索が有効であることを本書で提示する。
 アーレントについては説明を要さないだろう。その名前がタイトルとなった映画でも、ホロコーストに関与し、数百万人に及ぶ強制収容所への移送に指揮的な役割を担ったナチスの高官アイヒマンが、<仕事>としてただ命令を実行に移しただけにすぎない小役人であったことの違和感を「悪の凡庸さ」として喝破したことがよく知られている。
 これになぞらえれば人気のある「分散型リーダーシップ」も、学校で働く人々が自身をより大きな機械の「歯車」と見るように促され、無思考(凡庸さ)を招き入れる危険性を抱えているという。本書を日本語で読める喜びを味わいながら、思考停止しないよう引き続き考え続けたい。
(3300円 春風社)
(元兼 正浩・九州大学大学院教授)

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