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教育格差の診断書 データからわかる実態と処方箋

18面記事

書評

川口 俊明 編
根拠に基づく政策づくり訴える

 「努力は必ず報われる」と以前あるアイドルが言った。しかし近年の教育社会学の研究で、努力にも家庭環境による「教育格差」が影響するようだ。この格差是正のための提言を記したのが本書である。
 ある自治体の「パネルデータ」をベースに、さまざまな視点から格差を分析している。各自治体の実施する学力調査の問題、朝ご飯と学力の関係、習い事など学校外教育機会の検討、子どもの学力と学習時間、非認知能力との関係、学校で成功するということの検討、質問用紙の誤差など多岐にわたる。
 特に課題を抱えやすい子どもの勉強時間が伸びるのは、教師に認められていると感じたときであり、一人も取り残さない授業のためには家庭環境に目配りが必要で、その子に合った指導をする必要があるとの指摘は、まさに個別最適な学習のことである。
 また最近注目の非認知能力、特にグリットと呼ばれる「やり抜く力」にも格差の影響があるとしている。非認知能力も平等に育つものではないようだ。
 本書が強く訴えたいのは、思い付きによる「やりっ放しの教育改革」ではなく、データに基づいた教育政策づくりであり、そのための中長期的なデータ蓄積と調査を専門とする組織設立および人材育成の必要性である。われわれ大人は「教育格差は私たちの『社会の失敗』の表れ」という記述を肝に銘じておきたい。
(3300円 岩波書店)
(中村 豊・公益社団法人日本教育会事務局長)

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