大久保　俊輝　著
35年間の教員経験を生かし提言

　本書の著者は、３度辞表を書いたことがある。その著者が「辞めない社員の育て方」を執筆したところが面白い。
　左遷や突然の異動で辞表を書いたにもかかわらず、なぜ辞めなかったのか、その理由がすなわち本書タイトルの答えになる。
　著者は、小学校教員を３５年間務め、そのうち小学校校長を３校経験。現在は複数の大学等で教員を目指す学生を指導。不登校児童・生徒、障害がある子どもたちへの支援、企業や経営者への講演、さらには薬膳料理店の経営もしている。実に面白い人だと思う。
　「その場に愛着があり、ああ、あの人に会いたいなと思えるところに人は定着する」と記す。本書を参考にすれば、職場の若年層を元気にできるだろう。
　「辞めない社員を育てる組織」「辞めない社員を育てるリーダーのたたずまい」「辞めない社員を育てる環境」「意欲と能力を引き出す」「育て方の極意」「私が小学校で取り組んだこと」の６章３２項目で構成。
　最初の項目「役を与えてみる」から引き込まれる。「完全無欠な人はいない、その人なりに工夫し伸びてくるものだ」とある。
　魅力ある上司との出会い、建設省建設研修所中央訓練所（当時）での学習歴、小学校でのユニークな地域協働等、著者の経験や実践が、本書をより厚みのあるものにしている。
（１９８０円　発行・時事通信出版局、発売・時事通信社）
（谷　智子・高知市教育委員会委員）