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学校施設の省エネルギー化を進める エネルギー消費比率で大半を占める空調・照明設備の高効率化&断熱化を

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施設特集

脱炭素化の実現には学校施設の改善も重要

 政府が2050年カーボンニュートラルの実現を掲げる理由は、地球温暖化抑止に貢献するためだけではない。省エネルギー化を推進することは、エネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている日本が、国際的なエネルギー価格の変動に柔軟に対応できる経済社会を築くためにも不可欠な要素だからだ。事実、昨年6月にはロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギーの国際価格の上昇で国内の電力がひっ迫し、政府が産業界や国民に節電を促す事態を招くなど、エネルギーの安定供給には依然として大きな課題を抱えている。
 したがって、政府は2030年度以降に新築される建築物については、ZEB基準の水準に達する省エネルギー性能の確保を必須にするとともに、地⽅公共団体には太陽光発電の最⼤限の導⼊、建築物におけるZEBの実現、計画的な省エネルギー改修の実施などを促進するよう求めている。
 すなわち、公共施設の約4割を占める教育施設においても、今後は長寿命化改修などの機会を利用し、率先してエネルギー消費効率の改善を行っていく必要がある。具体的な省エネ対策としては、老朽化して断熱性の低い校舎を高断熱化された建物へと改修するとともに、エネルギー消費比率で大半を占める空調・照明設備の⾼効率化を図っていくことだ。その上で、再生可能エネルギーを利用した創エネによって、建物で消費する年間の⼀次エネルギーの収⽀を可能な限りゼロにしていくことが望まれている。

太陽光発電設備の発電供給量も不足
 しかし、公立の小中学校における太陽光発電設備の設置率は、2018年度の30%から2021年度には34・1%(9706校)に増加しているとはいえ、それほど進んでいるとはいえない。また、設備の内容量もZEBを目指す上では50~100kWを設置することが有効だが、大半が20 kW未満というのが現状だ。
 なお、そのほかの再生可能エネルギー設備も、風力発電設備は406校、バイオマス熱利用設備や地中熱利用設備、燃料電池、雪氷熱利用設備、小水力発電設備の設置数の合計は371校にとどまっている。
 学校施設の省エネルギー化に向けては、築40年以上経過した施設が4割に達する公⽴⼩中学校施設の改修に加え、創エネとなる再生可能エネルギーの発電供給量を増やしていくことも、今後の課題に浮上している。

生徒の省エネ行動を誘発する仕掛けを備えた学校
 一方、学校施設をZEB化するメリットは、エネルギー消費量を削減するだけでない。校内の快適性を上げることでの知的生産性の向上や、建築技術の仕組みや原理の「見える化」による環境教育への活用、建築物の運用に係る光熱費の削減、エネルギー自立性の向上による防災機能の強化にもつながるからだ。
 それゆえ、文科省は3月末に、快適で健康的な温熱環境の確保と脱炭素化を推進するため、学校施設におけるZEB化の実現⼿法や推進⽅策などを取りまとめた報告書を公表し、学校設置者における積極的な取り組みを促している。
 その中では、先導的な取り組みを実施した学校施設の事例も紹介している。岐阜県瑞浪市立瑞浪北中学校(12学級)の新築校舎は、省エネ対策として屋根にポリエチレンフォーム、外壁にウレタンフォーム吹付、窓に複層ガラスを採用。空調にはビル用マルチエアコンと全熱交換器(CO2連動制御)、照明はLED(明るさ感知制御等)、日よけにライトシェルフ、創エネとして太陽光発電設備(120kW)を整備した建物仕様となっている。
 特徴的なのは、生徒自身の判断で快適な環境をつくることを目指したことで、普通教室には外部と教室の温湿度や電力消費量などの情報が表示されるモニターを設置。また、理科室の天井には目盛りがあり、光がどこまで到達するかを確認できる。通常は天井内にある配線ラックや換気ダクトを直接見られるようにするなど、省エネ行動を誘発する仕掛けを導入していることだ。さらに屋内運動場も、屋根に当たる太陽熱で空気を温めてアリーナに取り入れたり、高窓からの自然換気もスイッチ1つで可能にしたりするなどの工夫をしている。

快適な学習環境につながる学校施設のZEB化を
 愛知県瀬戸市立にじの丘学園(30学級)は、豊かな自然を生かした環境共生施設として設計された。普通教室のZEB化に向けた工夫では、汎用機器による簡素で運用容易なシステムの構築や、高断熱化による大幅な空調負荷の低減、ハイサイド窓による自然採光・自然換気を導入。教室と一体化したワークスペースは、必要に応じて可動間仕切りにより空間を閉じることを可能にしている。また、瀬戸物の登り窯を模した大階段・吹抜構造「登り窯ステップ」を校舎の中央に配置し、自然採光や通風など自然エネルギーを最大限活用できるように配慮した。
 ほかにも、屋上に大型の太陽光発電設備を設置する、太陽光+風力によるハイブリッド型外灯、近年注目されている電気でエアコンを動かすEHP(高効率空調)を取り入れた事例も紹介されている。
 このような新築校舎を参考に、既存学校施設においても、快適で健康的な環境づくりにつながるZEB化改修がなるべく早期に進められることを期待したい。

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