災害時のライフラインを確保する
14面記事線状降水帯の発生による豪雨で河川が氾濫
避難所生活の長期化に備えた対策を
公立学校施設では、大規模な地震が発生した際に児童生徒や教職員の安全を確保する構造体の耐震化対策が推進され、屋内運動場を含めてほぼ完了している。だが、災害によって停電・断水した際の避難所としての使用を考慮していなかったため、避難所開設が長期化するほどさまざまな不具合や不便が生じているのが実態だ。そこで、こうした災害時に学校施設のライフラインを確保するための備えとして何が必要かについて紹介する。
被災者の生活を支える環境整備
災害時に地域の防災拠点を担う学校施設は、住民を受け入れる避難所として、一定期間は良好な環境で生活ができる設備・機能を持ち合わせることが求められている。しかし、今年1月に起きた能登半島地震では、停電・断水の日数が経過するほど暖房の確保やトイレ不足などを訴える声が多くなり、あらためて防災機能を強化する重要性が浮き彫りになった。
事実、被災者を受け入れる場となる体育館の多くは、ライフライン停止に備えた自家発電設備や蓄電池、太陽光発電設備、LPガス備蓄、マンホールトイレを始めとした仮設トイレの整備、公衆Wi―Fiなど非常時の通信手段の確保が遅れており、いつ起きるか予測がつかない地震や風水害に備えて、早急に整備を進めていくことが重要になっている。
また、近年の災害では避難所生活が長期化する傾向にあるため、熱中症や低体温症を防ぐ、暑さ寒さ対策としての体育館の断熱改修+空調設置と併せて、スポットエアコンや大型送風機、ストーブなど暖房設備等の導入。あるいはプライバシーを確保するパーティションや感染症対策も喫緊な課題になっている。
さらに、全国の約3割の学校が浸水想定区域・土砂災害警戒区域に立地する中で、気候変動によって頻発する豪雨災害に対しての浸水・土砂対策も急務となっている。
【能登半島地震における避難所のライフライン確保 5つの課題】
1.停電の長期化
大規模な停電が発生し、復旧まで数日~数週間かかる地域があった。停電の長期化により、避難所では照明、暖房、調理設備などの利用が制限され、被災者の生活に大きな支障をきたした。
2.燃料不足
地震の影響で物流が途絶え、避難所に燃料が十分に供給されない状況が発生。そのため、発電機やカセットコンロなどの燃料を使った設備が十分に稼働できず、暖房や調理の継続が困難になった。
3.水道水の不足
地震で水道管が破損し、数ヶ月たっても断水が解消されない避難所が多数あるなど、飲料水や生活用水の確保ができず、衛生状態が悪化した。
4.通信手段の制限
停電の影響で携帯電話基地局が停電し、携帯電話が利用できない状況が発生。避難所では、家族や友人との連絡手段が限られ、不安やストレスを感じている被災者が多くいた。
5.医療体制の脆弱性
地震の影響で、医療機関が被災し、医療体制が脆弱化。避難所では、持病がある人やけがをした人への適切な医療提供が十分に行えない状況を招いた。
防災機能の整備における基本的な考え方
こうした中、避難所となる学校施設の防災機能の整備にあたっては、次のことに留意して検討を進めていくことが重要になる。まずは施設の安全性の確保で、構造部材の耐震性はもちろん、天井材や外壁、窓ガラス、照明器具を含めた非構造部材の落下対策、施設全体の耐火性など安全対策が最優先となる。
次は、避難所として必要な「物資」「サービス」「情報」「生活の場」などを提供する機能の確保だ。被災した地域住民を受け入れ、食事の提供、生活関連物資の配布などさまざまな活動が行われるため、必要なスペースや備蓄等を確保するとともに、電気、ガス、水道、情報通信等の機能を保持できるよう、代替手段も含めた対策を用意しておくことが大切となる。しかも、避難所では高齢者や車いす利用者、妊婦、乳児など要配慮者が共に生活することになるため、専用スペースの備えやバリアフリー化を進めておく必要がある。
避難所の運営方法を確立しておく
災害時に備えて、避難所の円滑な運営方法を確立しておくことも重要になる。運営マニュアルを作成しておくことも大事だが、いざ蓋を開けてみるとまったく機能せず、現場が混乱してしまうことが、これまでの災害発生時にはよく見られているからだ。したがって、平時から避難所開設訓練などを通じて指揮系統の共通理解を図り、災害時に実践できるように試しておくことが不可欠といえる。
被災後の学校教育活動の早期再開は災害からの復旧復興の第一歩となるため、これに向けた備えも大切になる。今回の能登半島地震でも避難所開設が長期化する中で、空調設備の整った普通教室を被災者の生活する場所として提供していた学校が多くあったため、教育活動の再開に支障をきたしてしまうという事例がいくつもあった。それゆえ、教育活動と避難生活の共存を想定しながら、早期に学校教育活動を再開させるための対策をあらかじめ講じておくことが必要になっている。
学校施設に必要な機能~災害発生から避難所解消まで~
学校施設の防災機能は、災害発生から避難所解消までの4つの段階を想定して備えることが重要になる。まず災害発生直後は、災害に関する初期情報を入手し、避難行動につなげるための防災行政無線の設備や、停電にも対応できる校内放送設備を整備する。また、安否確認情報、被災状況の報告、救援要請など、外部と通信するための災害時優先電話や衛星電話も有効になる。加えて、学校に教職員がいない時間帯に災害が発生した場合に備え、屋上避難や屋内運動場に入れる仕組みにも留意しておきたい。
続いて、避難所で数日~数週間過ごすための機能で欠かせないのがトイレの確保だ。停電や断水で既存のトイレが使用できなくなる場合を想定し、簡易トイレや携帯トイレの備蓄と併せて、マンホールトイレの整備や仮設トイレの優先的な供給を契約しておくなど複数の対策を図っておくことが肝心となる。また、プールや雨水貯留槽の水を使って、断水時もトイレが活用できるような工夫や、要配慮者に対応した多機能トイレの整備も進めたい。
さらに、物資の輸送が回復した場合には、NPO法人や民間企業等の支援活動により、汚水を排水しない水循環式やおがくずによるコンポスト式など処理装置を備えた自己処理型トイレ、車載トイレ(トイレ設備を備えた車両)といった災害用トイレも投入されるようになっている。
避難所に欠かせないトイレの確保
停電時に自立できる設備を備える
現在、学校施設のほとんどの機能は電力によって制御されており、ひとたび停電が発生してしまうとインフラの大半が使えなくなる。そのため、電力やガスが使用できなくなった場合に備えて、可搬型または据え付け式の非常用発電機と燃料を確保しておくことが重要になる。併せて、太陽光発電設備を整備する際も、停電時においても自立運転できる機能や充電した電気を夜間にも使える蓄電機能を備えておくことが望ましい。
また、停電が長期化した場合に備え、電源車や非常用発電機を迅速に接続できるよう、電源接続盤を設けておくことも大事になる。都市ガスの供給地域では供給がストップした場合に備え、LPガスでも利用できるようにする変換器や、LPガス設備を敷地内に備蓄しておくことも有効となる。非常用発電機やLPガスの確保にあたっては、平時から民間事業者等と協定を締結し、災害時に優先的に供給してもらう体制を準備しておく方法も考えられる。
避難者の居住スペースとなる体育館には、温熱環境を確保するため、整備率が15%程度と遅れている空調設備や換気や通風に使える機器の整備を進めることが重要になる。ただし、大半の建物が無断熱なままであり、エネルギー効率が悪いことが課題になっている。
したがって、体育館の空調設置と併せて、屋根面・外壁面の断熱化や複層ガラスを設置するなど、建物自体の断熱性確保工事を実施していくとともに、段ボールベットやマット、毛布といった被災者の寝床を改善する備品を充実させていくことが必要といえる。
感染症を防ぐ環境衛生への備えも重要
生活確保期(発災数日後~数週間程度)以降で、特に重要となるのは衛生的な環境下で避難所生活が送れるようにすることだ。感染症の流行を防ぐためには、検温や体温が感知できる装置の備えや手洗いなどの消毒ができる備品を備蓄しておくとともに、教室棟などに隔離スペースを設けるなどの想定をしておかなければならない。とりわけ、大勢の人が使用するトイレではノロウイルス等の感染症が発生するリスクが高くなることから、継続的な清掃ができるための準備をしておくことが大切になる。
また、居住スペースは一定のプライバシーを保てるよう、間仕切りを設ける等の工夫をすることや、被災者の生活再建のための相談窓口を設置するスペース、避難者の交流の場などを検討しておくことも重要だ。
そのほか、今後の避難所の課題としては、超高齢化社会や要配慮者に対応した福祉避難所の設置や、インバウンド需要で増える外国人避難者とのコミュニケーション問題、あるいはペットとの同伴避難によるトラブルなどが浮上していることが挙げられる。こうした対策としては、2018年の北海道胆振東部地震の際に、札幌市が「観光客向け避難所」を開設したほか、ペットと一緒に避難できる避難所を専用に設ける自治体も多くなっている。
長期化するほどプライバシーの配慮も必要になる