性暴力・盗撮 防犯カメラに頼らぬ対策は
2面記事
トイレ前や廊下天井設置進むが…
有識者会議「選択肢の一つ」
教員による性暴力や盗撮の事案が相次いでいることを受けて、学校内に防犯カメラの設置を求める声が上がっている。性暴力の再発を防ぐために設置している公立中学校を取材すると、防犯カメラのみに依存せず、校内体制を整えることの重要性も浮かんだ。
にぎやかな普通教室とは離れた特別教室が並ぶ階の隅。平日の授業時間にも、静まり返っているその場所に防犯カメラは設置されている。以前、教員から生徒へのわいせつ行為があった部屋の出入り口の様子を監視するためだ。
校長によると、文化部が週1程度活動している以外に、他の教職員や生徒が入ることはほとんどない。
やや薄暗く、部屋の中の様子は外から見えない。職員室や校長室とも離れているため、声を出しても聞こえない校内の死角だ。
同校ではかつて、教員と生徒の交際や、生徒へのわいせつ事案が複数発生し、教員が懲戒免職処分を受けた。校門や昇降口には不審者対策として防犯カメラが設置されていたが、事案を受けて校舎内に新たに取り付けた。
導入に当たって、対外的には「性暴力対策」とはせず、「死角からの不審者侵入を防ぐため」と説明した。防犯カメラの映像は現在、事務室と職員室にあるモニターから確認できるようにしている。
性暴力の発生直後、防犯カメラの設置は検討されなかったという。現在よりも校内に防犯カメラを設置することに学校現場や世論も抵抗が強かったこともあるとみられる。
教員による性的な不祥事が後を絶たない。今年、横浜市や名古屋市の教員による盗撮をはじめ、多くの事案が発生した。
一連の事件を受けて文科省は7月、盗撮カメラがないか、定期的に校内の点検をすることなどを全国の教育委員会に通知。同月10日には全国の教育長を集めた会議も開き、盗撮やわいせつ行為防止の強化を求めた。
対策の一つが、学校内への防犯カメラの設置だ。愛知県みよし市では、年度内に市内の全小・中学校の更衣室やトイレ、普通教室の出入り口にカメラを設置する。
また、茨城県教委では、県立高校の廊下の天井に防犯カメラを設ける。教室などへの出入りを監視・記録することで不審な動きを早期に見つけることが狙い。5年程度かけて全校に設置する予定だ。
こども家庭庁の有識者会議は9月、防犯カメラについて、性暴力発生の抑止や早期発見、事実確認などに有効とする考えを示した。
設置場所として、校内の目の届きにくい場所や、子どもと一対一になる面談室などを例示。学校現場の実情などに応じて、設置を検討することが望ましいとしているが、あくまで「さまざまな防犯対策のうちの一つ」。子どもが相談できる窓口の整備や、研修の充実も求めている。
チーム担任制導入校増 複数で見守り、相談しやすく
責任体制明確化が鍵
校内でわいせつ事案が起こらないような体制づくりも必要だ。その兆候を見逃さないためにも、教室に複数の教職員の目が入るようにし、防犯カメラ頼みではない学校づくりが求められる。
近年では、クラスへの対応を担任一人に任せるのではなく、チーム担任制を導入する学校・自治体も増えている。児童・生徒の情報を学級担任だけでなく、複数の教職員で共有し、組織的に対応しやすくする狙いがある。運用している学校では、いじめや不登校対策にも効果が出るなどの事例もある。
わいせつ行為防止への期待もある。横浜市教委は、市内の小学校で発生した児童盗撮事案を受けて性暴力の総合対策を策定。その中で、複数の教職員での見守り・相談体制として、来年度から小学校全校でチーム担任制を導入する他、中学校でも導入に向けて検討するとしている。
一方でチーム担任制では、教員の責任体制を明確にすることが重要になる。
わいせつ事案のあった冒頭の中学校では、チーム担任制を取っていたが、教員間での情報共有や連携体制が十分でなかったという。「誰かが指導するだろう」「担任でもない自分が指導する必要はない」という意識が、生徒への関わりを薄めていった。
生徒が好きな教員に相談できる仕組みを取っていたが、それが裏目に。教員が生徒を「手なずける」ことにつながった。
同校は当時の課題を分析した上で、現在は体制を見直した。固定の担任を配置して責任を明確化。その上で、教員間で定期的に情報共有、組織的な対応のための協議をする場も設けた。校長は「防犯カメラを付ければ対策は終わり、というわけではない。わいせつ行為を起こさない体制をつくることが重要だ」と指摘する。
(訂正)誤った写真を掲載してしまいましたので、差し替えました。おわびし、訂正します。

